プロ棋士とコンピュータが戦う「将棋電王戦」が人気だ。2012年から始まったこの戦いは形を変えながら第3回目をむかえ、現在日本将棋連盟が送り出す5人の棋士と5つのコンピュータ将棋ソフトが対峙している。対局は主催のドワンゴにより、インターネット動画サービス「ニコニコ動画」で生放送されており、2012年の視聴者数は延べ200万人を突破。人気のほどがうかがえる。

インターネットを中心にいま注目を集めているプロ棋士、そしてプロ棋士を脅かすほどの進化を遂げた将棋ソフト開発。3月18日にアップルストア銀座で行われた「中村太地×山本一成トークイベント:将棋電王戦の楽しみ方」では、棋士とソフト開発者それぞれのキャリアに迫ったトークが展開された。

「中村太地×山本一成トークイベント:将棋電王戦の楽しみ方」(アップルストア銀座)

プロ棋士として活躍しながら、大学へ進学した中村さん

中村太地さん

中村太地さんは、17歳のときにプロ入りした現役の棋士。「2013年一番勝ってる若手」であり、2012年、2013年と連続してタイトル(棋聖、王座)挑戦権を獲得、羽生善治氏に挑むなど目覚ましい活躍を見せている。また、2014年4月からはNHK「NEWS WEB」(月~金曜、23時30分~)の水曜レギュラーに決定した。

小学生のころからプロ棋士を目指していた中村さんは「将棋に集中するため」内部進学が可能な早稲田実業学校中等部を受験し、そのまま大学まで進む。実は大学に進学する棋士は多くない。既に高校生でプロになっていた中村さんにとって、学歴は重要な問題ではなかったのだ。若いころにデビューした芸能人のようなものといえるだろう。

中村さん「現在プロの棋士は150人ほどで、とても狭い世界です。一つのことをやるには適した環境ですが、一般的なことを知らないままに大人になってしまうのではないかと考えました。いろんな価値観を知れるのではないかと、大学に行くことにしました」

友達と海外旅行をしたり、将棋を通した国際交流を行ったり…プロ棋士としては珍しいキャリアの持ち主なのだ。

一度大企業に内定をもらいながらも、ベンチャー企業に就職した山本さん

山本一成さん

山本一成さんは将棋ソフト「Ponanza」の開発者。Ponanzaは2013年3月30日に行われた「第2回電王戦」の第2局で勝利し、「現役のプロ棋士に公の場で買った史上初の将棋ソフト」となった。また、電王戦に参加する将棋ソフトを決める「将棋電王トーナメント」(2013年11月開催)でも優勝、「初代電王」に輝いている。

現在はHEROZという会社で人工知能(AI)などの技術によるゲームを作成しており、「将棋ウォーズ」 学生時代は東京大学大学院で、コンピュータ将棋を専攻していたという。

山本さん「大学に入ったら燃え尽き症候群みたいになってしまいまして。苦手なことをやってみようと、パソコンでプログラムを始めたら面白かったんです。あるとき『これで将棋ができるんじゃないかな?』と軽い気持ちで始めました」

大学院で就職活動を始めたときは、大企業から内定をもらったが「社長の本を読んで読書感想文を書きましょう」という課題に「ちょっと合わないかな…」と思って辞退。より様々なチャンスがあるかもしれないと、ベンチャー企業の門戸をたたいたところ、社長が将棋ファンだったという。その後、将棋アプリをつくったり、現役のプロ棋士に公式の場で勝ってしまったりと大躍進。「楽しいから」で続けてきたことが、今花開いている。

2人の今後のキャリアの展望は?

20代半ばにして、独特のキャリアを歩んできた2人。就職時の決断が後に「電王」を生み出すことになった山本さんと、小学生のころから夢を追いかけ、周囲の友人が就活をしているときには「もう働いている」状態だった中村さんだが、今後の展望はあるのだろうか?

山本さん「今後、仕事としてコンピュータ将棋を続けていくのは難しいかなと思っています。でも、何とかなるんじゃないかな(笑)」

中村さん「将棋を広めるのももちろんですし…大学に行ったこともそうですが、将棋とかけあわせられるものをたくさん作って、自分にしかできないことを探したいです。もし将棋がだめになってしまったら…棋士から将棋取ったら、ほぼ何も残らないですからね(笑)」

山本さん「モデルとして活躍するとか(笑)。中村さん、足めっちゃ長いんですよ!」