2013年9月、東京都武蔵村山市で造り酒屋を営んでいた名酒「吟雪」で有名な渡辺酒造が、135年の歴史に幕を閉じた。しかし、都内には歴史に彩られた名蔵元が、今なお存在する。今回はそんな東京の蔵元を巡ってみた。
洞窟から湧き出る仕込水が名酒の命
JR中央線立川駅からJR青梅線に乗り換え、多摩川上流へ進むと沢井駅がある。ここが奥多摩の造り酒屋小澤酒造、名酒「澤乃井」の蔵元だ。
小澤酒造は東京都といえ、自然豊かな奥多摩の地であり、代々昔からの変わらぬ製法で日本酒を造り続けてきた。平日1日に4回(11時、13時、14時、15時、各回定員40名)、所要時間45分の酒造見学を行っており、洞窟も含め見学料は無料となっている。
秩父古生層の岩盤を掘り抜いた洞窟の奥から湧き出る仕込水、連なる山々と豊かな緑、澄み切った奥多摩の空気、選りすぐった原料米、磨き上げた技……。これらを結集することで生まれるのが小澤酒造の酒。ゆえに、たった一滴をとっても「美酒」とうたわれるほどの味わいなんだとか。
酒造見学では酒ができるまでの工程を、社長や社員の方が案内役となって詳しく説明してくれる。見学後に利用できる「きき酒処」も用意されており、同社自慢の酒たちを試飲できるのもうれしい。
●information
小澤酒造
住所:東京都青梅市沢井2-770
営業時間:10:30~16:30
定休日:Webで要確認
アクセス:電車はJR青梅線奥多摩行きで沢井駅下車、徒歩約5分
車:八王子ICから約80分 圏央道青梅ICから約40分
日本酒と同じ仕込み水を用いたビールも
JR青梅線拝島駅徒歩15分にある、「多満自慢」で有名な石川酒造でも酒造見学ができる(10時30分、14時、16時、見学は無料)。11月から3月までは見学場所が限定されて見学ができない場合もあるので、興味がある人は問い合わせてみよう。
見学の所要時間は約1時間。文久3年(1863)に酒づくりが始まり、明治13年(1880)に酒蔵を建ててから現在まで130年余、土蔵に刻まれた歴史を紹介するとともに、新しい酒造りの可能性を追求した設備の説明なども聞ける。
利き酒で足りない人は和食・そば処「そば処雑蔵」へ。また、酒の仕込み水と同じ地下天然水を使用し、加熱処理もろ過も行っていない「多摩の恵」も味わえる「福生のビール小屋」も併設されているので、ここで心行くまで堪能していただきたい。更に日本酒への造詣を深めたいなら、多くの古い資料や精巧な模型とともに展示した「雑蔵資料館」にも足をのばしてみるといいだろう。
●information
石川酒造
住所:東京都福生市熊川1番地
営業時間:8:30~17:30
定休日:Webで要確認
アクセス:青梅線拝島駅南口より、タクシー約5分。徒歩約15分
車:八王子ICから国道16号で約20分
「喜ぶべき泉なり」が酒をうまくする
梯子地酒の3軒目は、文政5年(1822)創業の幻の酒「嘉泉」で有名な田村酒造場。こちらはJR青梅線福生駅から10分、玉川上水が流れる畔に、漆黒の塀に真っ白な塗り壁の蔵元となっている。
創業当時に敷地内でようやく掘り当てた井戸は、秩父奥多摩伏流水で中硬水とあって酒造りに最適の水質。しかも水量も豊富な名水となっている。「正にこの水は良き泉、喜ぶべき泉なり」。それゆえに、酒の名を「嘉泉(かせん)」と名付けたとか。
敷内には清冽な玉川上水の分水が流れ、樹齢数百年の欅の大木もそびえる。玉川上水の散策も楽しみながらの田村酒造場の酒造見学は、大吟醸の仕込みが続く1月は蔵見学ができないが、2月からは10人以上の予約申し込み(事前電話予約制)で見学が可能とのこと。ちなみに、見学は無料だ。
●information
田村酒造場
住所:東京都福生市福生626
営業時間:8:00~17:00
定休日:日曜日・祝日(冬季を除き月曜日休業あり)
アクセス:電車はJR青梅線福生駅より徒歩約10分、車は八王子ICより国道16号で約20分
時期によるが、いずれの酒造も見学が可能なので、まずは東京生まれの日本酒を知り・味わい・楽しんでいただければと思う。
※記事中の情報は2014年2月取材時のもの