日本のロケットの歴史と将来をフルカラーで凝縮

現在の宇宙開発には2つの柱がある。ひとつの柱は宇宙を利用する「宇宙機」、すなわち地球の上空を回りながらさまざまな役割を果たす人工衛星や、地球外の星々を調べる探査機の開発と運用だ。そしてもうひとつの柱が、これら宇宙機を地上から宇宙へ打ち上げるためのロケットの開発である。

本書は、日本がこれまでに開発したロケットや、これから登場するであろうロケットを、周辺情報も含めて網羅的に解説している。あわせて、2013年9月に初の打ち上げが成功した固体燃料ロケット、「イプシロン」の精密なペーパークラフトも収録している。

完成したペーパークラフトの大きさ。(著者注:ちなみにこの画像のモデルは残念ながら筆者ではない)

日本の宇宙ロケットの過去と未来

日本が現在運用している宇宙ロケットは3種類。H-IIAロケット、H-IIBロケット、そしてイプシロンロケットである。これらに至るまで、日本は半世紀以上の間、数々のロケットを開発してきた。

第1章「日本のロケット進化論」では、宇宙開発事業団(NASDA)と宇宙科学研究所(ISAS)がこれまでに作ってきた数々の宇宙ロケットが紹介される。NASDAのロケットの歴史は、初めて国産の液体燃料ロケットエンジンを搭載したN-Iロケットから現行のH-IIA/Bロケットへとつながっていく。一方ISASのロケットは、日本初の人工衛星「おおすみ」を打ち上げたL-4Sロケットから、小惑星探査機「はやぶさ」を打ち上げ「究極の固体ロケット」と呼ばれたM-Vまでをふり返る。

本章の白眉は、次期基幹ロケットとして2020年の初打ち上げを目指し開発される「H-IIIロケット(本書における仮称)」の解説だろう。H-IIIロケットは、H-IIA/Bロケットの後継としてどんなロケットになるだろうか。

商業打ち上げに本格的に対応していくため、H-IIIロケットの性能決定は打ち上げる宇宙機のトレンドに左右される。ライバルとなる他国のロケットの動向も重要だ。これらについてはもちろん、新しいロケットを作るにあたって投入されるであろうさまざまな新技術もきっちり解説している。

さて、日本の最新型ロケットといえばイプシロンロケットである。第1章にイプシロンが登場しないのは第4章のタイトルが「イプシロン徹底解剖」であり、この章がすべてイプシロンロケットの紹介に使われているからだ。

この章はイプシロンロケットの開発リーダーである森田泰弘プロマネへのインタビューを収録するほか、次期基幹ロケットにもつながる新技術や将来打ち上げ予定の人工衛星、初打ち上げが行われた内之浦宇宙空間観測所のドキュメントなどが掲載されている。

ロケットの原理や目的を知る

日本のロケットを知るに際して、そもそもロケットのしくみや役割について理解したいかもしれない。それには本書の第2章「なぜ、ロケットは飛べるのか?」と第3章「なぜ、ロケットは宇宙へ向かうのか?」が応えてくれる。ロケットの推進の原理や人工衛星が落ちてこない理由といった、ロケット関連の基礎知識が解説されているのはこれらの章である。

またロケットエンジンの代表的な推進方式である液体燃料ロケットエンジンと固体燃料ロケットモーターの違いについてはもちろん、再使用ロケットの現在、日本が有人ロケットを開発する可能性なども触れられている。

そして巻末のコラムには、日本の民間宇宙開発事業としてCAMUIロケットや「なつのロケット団」も登場する。

本書には日本のロケットについて知るためのおよそあらゆる情報がぎっしり詰め込まれている。「ぎっしり」という言葉がふさわしい文字の量であり、本の厚みから想像する以上の読みごたえがある。

誌面には文字が詰め込まれている。全ページがこの調子である

巨大ペーパークラフトでイプシロンロケットを再現

本書の巻末には、イプシロンロケット本体とその打ち上げランチャーの精密なペーパークラフトが収録されている。ロケット先端のフェアリング(衛星カバー)内には惑星分光観測衛星「ひさき」を収納し、分解して取り出すことも可能だ。

ペーパークラフトの型紙はB5サイズで8枚に及び、小さな部品は1センチ四方ほどしかない。組み立て手順は56項目にもなる。完成すると高さ40センチを超え迫力十分。対象年齢は15歳以上とあるが、大人でも休日のまる一日を工作で楽しめるだろう。

イプシロンロケットの先端部には衛星「ひさき」を収納している

本書は「ロケットコレクション Vol.1」と銘打たれている。編集部によるとこのシリーズでは、別の宇宙ロケットのペーパークラフトなどが準備中であるほか、書籍以外への展開も進行しているとのことである。

宇宙開発の魅力を伝えるシリーズとして、「ロケットコレクション」の続く企画に期待したい。

「はやぶさ2」打ち上げをもっと楽しむために 日の丸ロケット進化論 ~分解できる「イプシロン」超精密ペーパークラフト付き~ (ロケットコレクション Vol. 1)

出版社:マイナビ
発売:2014/3/14
著者:大塚実/大貫剛
ISBN:978-4839950200
単行本(ソフトカバー):96ページ
価格:本体1330円+税
出版社より:日本の宇宙開発史に刻まれた名ロケットを徹底解説!
2014年の「はやぶさ2」打ち上げをもっと楽しむために必読の一冊!
2013年に注目を集めた「イプシロン」をはじめとする最新の日の丸ロケット技術を徹底解説するとともに、これまで日本が取り組んできたロケット開発の歴史に迫ります。ロケットを打ち上げる射場、JAXAを支える日本の技術力、注目される超小型衛星などの紹介も交えつつ、「なぜ、宇宙へ向かうのか?」などロケットが果たす役割をわかりやすく解説。親子で宇宙への関心を高められるよう、発射台と人工衛星「ひさき」付きの分解できる超精密ペーパークラフト「イプシロン」(JAXA監修)を付属します。