理化学研究所(理研)は3月14日、都内で会見を開き、英科学雑誌「Nature」に掲載された2つのSTAP細胞に関する論文に関する複数の疑義についての中間調査報告を行った。

会見には当初、理研の発生・再生科学総合研究センター(理研CDB) センター長の竹市雅俊氏、同 理事(研究担当)の川合眞紀氏、同 理事(コンプライアンス担当)の米倉実氏、そして調査委員会委員長の石井俊輔氏(理研石井分子遺伝学研究室 上席研究員)が登壇して説明を行う予定であったが、同研究所の理事長である野依良治氏も重要な議案であるとのことで、スケジュールを調整し、急きょ参加できることになったという。

左から理研の発生・再生科学総合研究センター(理研CDB) センター長の竹市雅俊氏、同 理事(研究担当)の川合眞紀氏、同研究所の理事長である野依良治氏、同 理事(コンプライアンス担当)の米倉実氏、そして調査委員会委員長の石井俊輔氏(理研石井分子遺伝学研究室 上席研究員)

会見ではまず、その野依理事長が、「世間の多くの皆様にご迷惑、ご心配をおかけしたことをお詫び申し上げます」と頭を下げたほか、「論文が、科学社会の信頼性を揺るがしかねない事態を引き起こしたことにお詫び申し上げますとともに、私自身の言葉で経緯などを説明する」とし、「科学者は論文記載の観察結果およびそこから導き出される結果に全面的に責任を負わなければならない。STAP細胞の再現性は理研の研究者が調査を行っているほか、第3者により再現されるべきで、理研として外部研究者の研究に積極的にサポートをしていく」とSTAP細胞の真偽そのものについては、研究者コミュニティによる議論の結果を考慮していきたいとした。しかし、その一方、「論文の作成過程において、重大の過誤があったことは甚だ遺憾で、論文の取り下げを進めることも視野にいれている。調査委員会で調査を進めるとともに、その結果を含め、不正が認められた場合は厳正に処分を行うつもり。今後、科学者倫理と職制を真摯に順守しつつ、社会の期待に応えるべく、全所的に教育と指導を徹底していく」と今回の問題に対しての見解を示した。

具体的に今回、調査委員会が行ってきた調査内容は2つの論文における以下の6つの点に対し、理研の規程第2条第2項に規定する「研究不正」が認められるかどうかという点(調査対象は1~5が「Obokata et al., Nature 505:641-647(2014)」、6が「Obokata et al., Nature 505:676-680(2014)」)

  1. Figure 1f(Fig 1f)のd2およびd3の矢印で示された色付きの細胞部分が不自然に見える点
  2. Figure 1iの電気泳動像においてレーン3が挿入されているように見える点
  3. Methodの核型解析に関する記載部分がほかの論文からの盗用であるとの疑い
  4. Methodの核型解析の記述の一部に実際の実験手順とは異なる記述があった点
  5. Figure 2d、2eにおいて画像の取り違えがあった点。また、これらの画像が小保方氏の学位論文に掲載された画像と酷似する点
  6. Fugire 1b(右端パネル)の胎盤の蛍光画像とFig 2g(下パネル)の胎盤の蛍光画像が極めて類似している点

調査開始の2014年2月20日からこれまでの時点(資料に記載されている期日は3月12日)で結論が出たのは6つの対象のうち、(1)と(6)の2つ。

(1)のFig 1f/d2/d3の色付き細胞部分が不自然に見える点について、調査委員会の石井委員長は、「画像の歪みがあり、ねつ造の可能性が指摘されていたが、投稿された論文を調べたところ、歪みがないことが確認された」としたほか、当該画像は3日間をかけて撮影されたライブイメージング画像から切り出したものであり、そのライブイメージング画像を提出してもらい、調査委員会で論文に近いところを切り出して比較したところ、実際に切り出されたのは間違いないことを確認し、不正ではないという結論に達したとした。

Natureに提出した論文(上)と実際に掲載された論文(下)の画像比較。掲載論文では歪み(ノイズ)が生じているように見える

また、なぜ掲載された論文に歪みが生じてしまったのかについては、ライブイメージングの専門家である東京大学大学院理学系研究科 生物科学専攻 発生生物学研究室の中野明彦 教授に調査を依頼したところ、「Natureのオフィスで掲載前に画像を圧縮するため、そこでブロックノイズが生じたことが考えられる」という結論を得たとする。

実際に調査委員会にて提出されたライブイメージング画像から、論文と似たようなポイントを選別し、切り出した結果。さすがに同一の画像は得られなかったものの、ほぼほぼ同様の画像を得ることができたという

また(6)の2枚の画像が類似している点については、山梨大学の若山照彦 教授が撮影した画像で、1つのSTAP細胞から作製したキメラマウスの胎児を異なる角度から撮影したもので、それを研究ユニットリーダーの小保方晴子氏に渡し、小保方氏が理研CDB器官発生研究グループの笹井芳樹グループディレクターと共に論文用の図を作製したが、小保方氏、笹井氏両名からのヒアリングによると、「論文の作製過程で、本来不要なものを除去し忘れた」との回答であり、事実、初期の論文構想ではFig 2g下の画像はSTAP細胞とFI-SCとの比較のためにコントロールとして使用することとして用いたが、その後、論文執筆の過程で、笹井氏の構想が変わり、図の順番が変わったため、不要となり、当該図に関する記載も行われなかったことが判明したほか、実際にFig 2gの本文および図の説明では、胎仔でのGFPの発現が説明されており、Fig 2g上の画像だけで説明できることが確認されたことから、改ざんの範疇にはあるが、両氏の説明に一定の論理性があり、その行為に悪意があったとは判断できず、不正とは認められないという結論に達したという。

左のスライドの赤枠で囲ったところが問題となった写真。右が論文の構想初期段階に掲載しようと考えられていた画像。この画像を元に改変を行っていった結果、最終的に必要がなくなった画像を削除し忘れたという