QualComm社は、スペイン・バルセロナで開催された「Mobile World Congress2014」の会期中にプレスカンファレンスを開催した。Qualcomm社は、3GやLTEの通信を行う「モデムチップ」やスマートフォン用のプロセッサ(アプリケーションプロセッサ)などの半導体メーカー。

まずは、モデムチップの動向だが、現在、各国でLTEが普及しつつあるが、LTEには、複数の電波を同時に使い、通信速度を向上させる「キャリア・アグリゲーション」という機能がある。その組み合わせには、利用する周波数帯と帯域があるが、速度に依存するのは、2つの周波数に割り当てられたそれぞれの帯域である。こうした帯域の組み合わせと、通信速度の関係をLTEではカテゴリとして定めている。利用する周波数帯は、事業者によって違いがあるし、その組み合わせもいろいろとある。ただし、周波数帯の組み合わせには一定のルールがある。これは、任意の組み合わせを許すと、モデムチップの設計が困難になるからだ。

カテゴリ6はCat6などと略されるが、簡単にいうとLTEでキャリアアグリゲーションを使い下り最大300Mbpsを実現する仕様だ。同じ帯域でも、変調方式が違えば、通信速度が違ってくる。現在は、このカテゴリ6をゴールに、インフラの整備がすすみ、モデムチップの対応が始まったところだ。

LTEカテゴリ6に対応した第四世代のモデムを発表。最大で300Mbpsの通信が可能でTDD/FDD LTEに対応

また、自動車向けに振動や利用温度範囲を広げたLTE Advancedのチップセットも発表

LTEには、もう1つ問題があって、それは、各国で利用される周波数帯(バンド)の数が多いことだ。LTEには、大きくTDD-LTEとFDD-LTEの2種があり、FDDでは、上りと下りに違う周波数を割り当てる。これに対してTDDは、1つの周波数を上り下りに利用し、これを時間で区切って、上り下りを切り替えていく。そうほうにそれぞれのメリットがあるが、一般に先進国ではFDD-LTEが採用され、新興国ではTDD-LTEの採用が多い。最近のLTEモデムでは、TDD/FDDを切り替えて利用できるものが多くなってきたが、TDDとFDDでは、合わせて40近いバンドが定義されており、原則、このバンドのなかから各国で周波数帯を選択するのだが、こうした大量のバンドができてしまったのは、そもそも先進国で自国の事情に合わせて定義したバンドを規格化するときに持ち込んだためで、結局、アメリカや日本で使われている周波数がこの中に定義されている。ただ、最近では、隣接するバンドを統合して1つにするといった動きはある。また、これからネットワークを整備する国は、ここに定義されているバンドのとれかを使うことになり、バンドの追加には一定の制限がかかった状態になっている。しかし、先進国で利用者数が増え、バンドが過密になると、新規のバンドが追加されていく可能性はある。

モデムチップで問題になるのは、こうした多くの周波数に対応することで、これには、変調副賞回路の問題とモデムチップの外側に置かれる「無線周波数(Radio Frequency:RF)」回路の問題がある。前者はデジタルで動作する部分も多く、半導体プロセスにより、モデムチップの動作周波数が上がり、小型化することでより多くのバンドに対応できるものの、後者はアナログの回路となることがほとんどであるため、広い周波数を扱える半導体を作ることが難しい。初期のLTE対応のスマートフォンが、各国間で互換性がなかったのは、モデムチップやRF回路で扱えるバンドの数が限られていたため、他のバンドに対応させるためには、別のチップに置き換える必要があったからだ。一般的に携帯電話は、大半の時間を事業者の所属国で使うため、契約した事業者のバンドに対応しておけば問題なかった。

しかし、端末の低価格化は、今後もすすみ、LTEといえども例外ではない。このため、現在、多くのモデムチップメーカーは、対応する周波数帯の拡大を目指し、さらに広帯域なRF回路を開発している。Qualcomm社のプレスブリーフィングは、こうした背景の上になるものだ。

まず、LTEモデムチップのCat6対応製品やRF製品をアナウンス。さらに、新興国市場で増えてきた複数のSIMカードを内蔵できるスマートフォン用に製品を拡充した。

Qualcomm社は、RF回路の適合範囲を拡大するRF360という活動を行っており、RFアンプやアンテナ切り替え回路などを発表した

新興国では、1つのスマートフォンや携帯電話に2つのSIMを装着して、料金のやすいものを切り替えて使うことが多く。Snapdragonもその適用範囲を広げつつある

2枚のSIMカードを装着できることを「Dual SIM(DS)」というが、このとき、モデムチップセットにより、動作が違う。2枚のSIMを装着できるが、使えるのは片方だけという場合や、2つのSIMの契約それぞれで待ち受けが可能な場合、2つのSIMで同時に通話やデータ通信が可能な場合がある。

2つのSIMが装着できるが、切り替えて使う製品はかなり初期のもので、現在では、最低でも、同時待ち受けが可能な「Dual SIM Dual Standby(DSDS)」であることが多い。ただし、片方が2Gのみで、3Gでの待ち受けはもう一方のみという構成が大半を占める。

さらに、2枚のSIMが同時に通信をおこなえる場合を「Dual SIM Dual Active」(あるいはFull Active)などといい「DSDA」などと略すことがある。この場合も、製品によっては一方が2G、一方が3Gなどになる。

さらに、今後は、これにLTEが加わる。DSDAやDSDSが可能なのは、無線部分が2G/3G/LTEで別れていて、モデムチップ内に送信回路が1つ/受信回路が2つといった構成ならばDSDSとなり、送信回路、受信回路ともに2つあれば、DSDAとなることが可能だ。モデムチップの内部はほとんどがデジタル回路であるため、半導体プロセスが進化することで、サイズを縮小できるため、複数の送受信の回路を組み込むことが可能になる。

アプリケーションプロセッサに関しては、64bit対応を進め、年内に登場するとも言われている64bit版のスマートフォンオペレーティングシステムへの準備をすすめている。

2014年のQualcomm社のプロセッサチップセット(実際にはモデムチップを統合したものと、そうでないものがある)は、Sanpdragon 200/400/600/800の4系列。このうち、400と600系列に64bitプロセッサが用意される。ただし、これは現在のKraiteプロセッサではなく、ARM設計のCortex-A53プロセッサだ。ラインアップのまんなかになる400と600では、上位の800ほどの性能が必要ないため、ここにARM設計の64bitプロセッサをもってきたのだと思われる。おそらくは、800シリーズには、もっと性能の高いプロセッサを投入するはずだ。Qualcommは、Kraiteの64bit版を開発中と言われており、それを800シリーズに投入するが、出荷量の多い普及価格帯の製品向けには、短期間で設計可能なARM社の設計を利用したのだと思われる。実際32bitでも、Sanpdragonには、ARM社の低価格プロセッサCotex-A5を採用したものがあった。

マイクロソフトのプレスカンファレンスにもあったが、次世代のWindows Phoneでは、複数のSnampdragonプロセッサが選択できるように要求仕様が拡大される。Qualcommのリファレンス設計を使うとそのままWindows Phoneを作ることも可能

現在のSanpdragonのラインアップ。200、400、600、800の4系列あり、このうち200と400は昨年末に発表が行われ、今回は600と800シリーズに製品が追加された

Snapdragon 610と615は、64bit CPUを搭載し、LTE/3G/2Gモデムを統合。610は4コア、615は8コアのCortx-A53を搭載する

Snapdragon 801は、現行の800の改良版。Qualcomm社は独自実装の64bitCPUを開発中と伝えられているが、今回には間に合わなかったようだ

(記事提供:AndroWire編集部)