インターネットが求人や就職や転職、人材派遣業を変えつつある。それだけではなく、職種によっては場所に縛られない働き方が可能なことから、仕事観をも変えつつあるようだ。
「かつては大企業に就職するのが唯一の選択だったが、選択肢が広がりつつある」というのは、フリーランスと企業を結びつけるプラットフォームを提供するElanceのCEO、Fabio Rosati氏だ。将来の仕事はどうなるのだろうか? 雇用はどうかわるのか? Rosati氏に聞いてみた。
まずElanceについて教えて下さい。従来の人材派遣業とどう違うのか、またLinkedInなど職業プロフェッショナル向けSNSとの違いは?
Rosati氏 : 2007年に創業した人材派遣プラットフォームで、80万社以上の企業と170以上の国の300万人以上のフリーランサーを結びつけている。双方を結びつけることで、即効力のある雇用の方法を提供する。単に結びつけるだけではなく雇用につなげ、フリーランサーがきちんと報酬を得ることを保証する、ここまでを単一のプラットフォームで行うのが特徴だ。
背景にあるのは、仕事がオンラインに動いていること。PCの前で仕事をしている人は世界に2億5000万人いるといわれており、なんからの形でネットに接続している。この人々と企業を結び付けることが簡単になった。
これまでオンラインと仕事は、Webでの求人情報掲載(第1フェイズ)、自分のプロフィールや履歴の掲示(第2フェイズ)と発達してきた。LinkedInは第2フェイズの例だ。我々はその次のフェイズで、プロフィール情報があり、報酬につながる仕事の橋渡しをしている。
人材派遣は大きな市場であり、やっとオンラインへの移行が始まったところだ。我々は最高レベルのフリーランスと素晴らしいクライアント企業に利用してもらっており、この市場で、オンラインショッピングにおけるAmazonのような存在になりたい。
ビジネスモデルは?
Rosati氏 : 2つの方法で収益を得ている。まずは、取引ベースでの課金。Elanceではフリーランサーが価格を設定するが、我々はこれに手数料8.75%を上乗せした価格を企業側に提示しており、これが売上げのほとんどを占めている。
もう1つがプレミアムサービス。企業向けにフリーランサーのプライベートネットワークを構築し、NDAや知的所有権関連の書類に契約したフリーランサーを必要なときに大企業が利用できるようにしている。企業は既存のフリーランサーネットワークを持ち込むこともできるし、我々がリクルートをすることもある。
数ヶ月前にも、ある大企業向けにクラウドを立ち上げた。すでに700人近くのフリーランサーのクラウドネットワークができている。
どのような仕事がElanceに集まっているのですか?
Rosati氏 : 仕事の種類としては大きく2つに大別できる。1つはモバイルやWebなどのソフトウェア開発、データサイエンティストなどの情報技術系。2つめはマーケティングやデザイン、翻訳などのクリエイティブ系。このほか、法務、財務、建築などカテゴリが約30あり、コンピューターを使って行う仕事をほとんど網羅している。
そして、年間120万件以上の求人がElance上に寄せられている。登録しているフリーランサーのうち常時6億人がプロフィールを作成したり、Elanceで見つけた仕事を受けているアクティブなユーザーだ。我々のプラットフォームを利用するフリーランサーが獲得した報酬は累計で9億ドルに達しており、2013年だけで3億ドル。50%以上の成長となった。
フリーランスが増加しているということが、今後の我々の仕事に与える影響は? 雇用はどうなっていくのでしょうか?
Rosati氏 : 私の予想だが、2020年には仕事に従事する人の50%――半数を独立したフリーランサーが占めるのではないかと思っている。フリーランサーは自分のブランドのようなものを確立しており、特定の企業に縛られず、同時に複数のクライアントと仕事をしている人もいるだろう。米国ではすでに3分の1の労働者がフリーランス的な労働者といわれており、フルタイムよりも早いペースで増えている。
Elanceには現在300人のスタッフがいるが、正社員は120人で、残る180人はフリーランスだ。多くの業種で、我々のように企業は正社員とフリーランスの特性を活かして雇用していくだろうと考えている。フリーランサーは専門性が要求されるが、常時必要ではないという仕事で活躍するだろう。
学生がキャリアを考える上でも変化が起きているのでしょうか?
Rosati氏 : 変化は始まっていると思う。フリーランスを選ぶ人が増えるのではないだろうか。すでに、学習しながら特定の技能や知識を活かしてフリーランスとして活動を開始する人も増えており、Elanceにもそのような学生が多く登録している。
最初のステップとしてフリーランスとして働いてみる。その後、フルタイムの従業員を選ぶ人もいるが、起業する人もいるし、フリーランスの道を選ぶ人もいる。20年前なら大企業に入ることしかなかったキャリアの選択肢が、確実に増えているといえるだろう。
だがフリーランサーの多くは正社員としての経験や知識を積んでフリーになることが多い。会社が最初からフリーランスを起用することで、このようなエコシステムが崩れるのでは? フリーランスを育てる土壌がなくなるおそれは?
Rosati氏 : インターネットの恩恵で我々はさまざまな知識に直接アクセスできるようになった。学習教材やリソースがオンラインでたくさん手に入る時代だ。フォーラムやツイートなどを利用すれば、専門家に直接やりとりすることも可能だ。ソフトウェア開発では、開発者の多くは自学だ。
Elanceでは「Elance University」として、以下の4つのメニューを提供している。
- 雇用に関する情報提供
- オンラインコース
- スキルのテスト
- 仕事情報の通知
1では労働市場についての数値や統計が閲覧でき、どのようなスキルに需要が高いのかなどを知ることができる。2ではオンラインコースのアグリゲーションサービスSkilledupと提携し、コースを提供している。3では、クラスを受講後に学習したことをテストで確認するもの。テストの結果は自分のElanceプロファイルにも加わる。4は興味のある仕事を登録することで、我々が条件に合う、適していると思われる求人情報をプッシュするサービスだ。
このようにElance Universityは、企業がこれまで社員に提供してきたもの――学習、理解、仕事、フィードバックを得る、レピュテーションを作る――を揃えている。これは我々の差別化となる部分だ。
社会保障の面はどうですか? 国により違いはあっても、フリーランスを選択する際に医療や年金などがデメリットとされることがあります。
Rosati氏 : 確かにフルタイムの従業員は社会保障でのメリットがあり、同僚やチームといった社交面での良さもある。だが米国ではオバマケアのようにインフラに変化が起こっているし、ニューヨークで設立されたFreelancers Unionという組織は、フリーランサーが医療保険や年金にアクセスできるようにしている。さらには、Freelancers Union Hallとしてフリーランサー同士が集まるクラブのような場所を作っており、すでに23万人が加入している。
コワーキング(Co-Working)スペースも新しい動きで、欧州でも急速に増えている。フリーランスが増加する一方で、フリーランスは他の人と出会うことが少なく孤独でもある。このようなさまざまな動きにより、フリーランスのデメリットは自然に改善していくのではないか。
2013年末、競合とされてきたoDeskとの合併を発表しました。
Rosati氏 : oDeskとElanceは共に、仕事を通じて世界を結びつけたい、経済的、社会的な機会を増やしたいという願いを抱いており、合併することになった。それぞれ顧客から、(フリーランサーと企業の)マッチング技術の強化や他言語対応などのニーズを受けており、合併することで投資を最大に活用できると判断したからだ。それぞれがやってきたデータでの取り組みを組み合わせることで、今後サービスの精度や品質をもっと高めることができる。
この市場は4220億ドル規模といわれており、我々は2014年にフリーランスが得る報酬の合計金額は10億ドルに達すると見込んでいる。このチャンスに向けて合併によりイノベーションを進め、市場の成長を加速したいと思っている。
合併は1~2ヶ月で完了を見込んでおり、私はCEOとして新しい組織を率いる予定だ。買収後もoDesk、Elanceと両プラットフォームを存続させ、フリーランサーや顧客は自分の好きなプラットフォームを利用できる。
Elanceを利用してフリーランスの力を借りているというのが、教育ベンチャーのQuipperのマーケティング・ディレクター 本間 拓也氏だ。実はElanceとの付き合いは長く、東大中退後、英国での学生時代にElanceを使ってリサーチをしていたという。そのときの体験を、「Elanceで仕事とはどういうものかを経験でき、知識も得られた。一種のインターンシップになった」と振り返る。「大企業に入りたいと思ったことはなかった。業界についての知識がすでにあり、変化に興奮していた」という本間氏、起業も考えたというが、ベンチャーのQuipperに加わることに。Quipperでは、東南アジアなど新市場での展開にあたりコンテンツの翻訳などでElanceを利用しているという。