汽車旅コラム集『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。 日本全国鉄道旅、達人のとっておき33選』がこのほど、幻冬舎から刊行された。ローカル線、LRT、「トワイライトエクスプレス」など、気取らないありのままの列車旅を収録。「読む旅」を楽しめる内容となっている。著者はマイナビニュースの連載「鉄道トリビア」「読む鉄道、観る鉄道」「乗り鉄入門」などでもおなじみの杉山淳一氏だ。
同書はウェブサイトに連載されたコラム59編のうち、厳選した35編を再構成し、計33編を収録。内容は著者自身が旅した「ありのままの旅行記」となっている。執筆にあたり、「読者自身が旅している気分になれるように配慮した」とのこと。同書をきっかけに、実際に旅に出ようと思ったときのための情報も追加され、各編の末尾に、「今回の電車賃」として費用も記載された。「紀行文学」というほど硬くなく、「旅のエンターテインメント」として楽しめる1冊だ。
「鉄道をテーマとした旅をしたい。でも、どこへ行ったらいいだろう?」という読者も想定し、「乗り鉄」ならではのユニークな視点も加えた。「乗り物いっぱい富士山めぐり」では、富士急行の電車だけでなく、屋根なしバスや水陸両用バスなどを日帰りで忙しく回りつつ、水戸岡鋭治氏がデザインした下吉田駅も訪ね、その静謐なたたずまいを体感している。
「日本一のモグラ駅をズルい方法で訪ねた」で紹介されているのは土合駅(JR上越線)。元気な人なら階段を上りたいだろう。ところが著者の場合、「ズルいから上らない」という。ある方法で土合駅に着き、そこから階段を降りるだけ。列車に乗って次の駅へ行って、帰りの列車に折り返す。階段に使うパワーを谷川岳観光に振り向けるために編み出した方法だ。その一方で、筑波山編では自らの行程を「失敗」と評し、最適なルートを読者に提案している。
個室が取れなかったという「トワイライトエクスプレス」でも、ちょっとした工夫で豪華列車の旅を満喫している。「座席なんか選り好みしないで、とにかく乗っちゃいなよ」というメッセージも込められているとか。長野電鉄の旅では相席になった地元の子に車窓を案内してもらい、米坂線の旅ではドラマが始まりそうな出会いのエピソードも。これもまた、「リアルな旅の記録」といえるだろう。
東京近郊の大手私鉄など、通勤電車も著者にとっては旅の目的となる。鉄道を楽しんだり沿線の鉄道スポットに立ち寄ったりしつつ、肉料理が好きな著者による、うまい肉を探し求める旅も展開される。「旅の気分さえあれば、どこにいたって旅なんだ」、そんな著者の大らかさを感じさせるエピソードに仕上がっている。
なお、ウェブサイトから書籍へ再構成するにあたり、両者の特性を考慮して加筆・減筆を重ねたとのこと。ニュース性を配慮した冒頭部分をカットし、新たな情報も書き加えている。取材時と現在で異なる点も修正した。「なにより、横書きを縦書きにしたことで、かなり読みやすくなったと思います。装丁も明るく、かわいらしいイラストで、持ち歩いてもおしゃれだし、あなたの書棚を彩ってくれるはず」と著者は述べている。
杉山淳一氏の著書『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。 日本全国鉄道旅、達人のとっておき33選』(幻冬舎刊)の価格は1,470円。同書を手に、著者おすすめの列車旅を楽しんでみてはいかがだろうか?