コンビニなどのガム売り場に必ずある定番商品「ACUO」。2006年の発売以来、「ブレスケア」という機能を前面には押し出さず、あくまでもシンプルなパッケージを貫き通しているその理由やデザインに込められた秘密について、ロッテ マーケティング統括部 ガム企画室の古市丈二さんに聞きました。

ガム売り場で独特の存在感を放つ「ACUO」のパッケージデザインのひみつは?

――まず最初に、ACUOという製品名の由来を教えてください。

「ACUO」ブランドは、20~30代の若年層向けのミントガムをコンセプトに、2006年に作られました。「ACUO」という単語にはラテン語で「鋭い」という意味があり、製品のミント感を表現しています。それに加え、英語のAQUAに発音が近いため、「噛むとみずみずしい息になれる」という意味もこめています。

――ACUOのパッケージデザインを手がけたのは?

デザインオフィスnendoの佐藤オオキさんです。

――パッケージデザインを佐藤オオキさんに依頼したきっかけは?

「ACUO」ブランドでは、お客様とのコミュニケーションのひとつとして「デザイン」をとらえています。ターゲットである若年層に"刺さる"ようなものができないかと考えた際に、広告代理店との打ち合わせを行う中でマッチングをしたのがnendoさんでした。ブランドを立ち上げた2006年から現在まで継続して、佐藤さんにデザインを手がけていただいています。

歴代「ACUO」グリーンミントのパッケージ。左から、2006年、2009年、2011年、2012年、2013年

ブランド立ち上げ当初、佐藤さんにはデザインパッケージだけでなく、ポスターなどの平面広告や、店舗の売り場などに用いる宣伝資材も含め、TVCMを除いたブランド全体の総合プロデュースを行っていただきました。そのため、単にパッケージデザインをお願いしたというよりも、デザインオフィスnendoと協力してブランディングをしていったという意味合いが強いですね。

――佐藤さんにパッケージデザインに依頼した決め手はどこにあったのでしょうか。

当時、「ACUO」というブランドを立ち上げるにあたり、ブレスケアというガム製品にとってはいわば当たり前ともいえる価値を新しく見せる方法を模索し、当時のガムの市場にはないパッケージを作るという大きなミッションに取り組んでいました。

そのため、建築やアートの方面に強い「デザインオフィスnendo」をあえてガムという日用消費財にマッチングさせることにより、当時の市場にない独自性を発揮することを目指しました。

※現在、佐藤オオキ氏はプロダクトデザインの仕事も手がけているが、2006年当時は建築・アートの分野での活動が中心だった。

――シンプルなロゴが印象的ですが、ベースになっているフォントは何ですか?

ヘルベチカ(Helvetica)です。ほぼそのまま使っているとうかがっています。

――なるほど。唯一、Oの文字の中には口のマークのようなものが加えられていますね。

Oの部分については、みずみずしいイメージと、口がさわやかになるという意味をこめて、佐藤さんにアイコン化していただきました。

ACUOのロゴ(左:グリーンミント、右:ブルーミント)

――メタリックな素材で抑えめのデザインが特徴なのかと思うのですが、素材は何を使っていますか?

マットシルバーが特徴ではありますが、材質は一般的なガムの包装材に使われているのと同じ紙素材です。

――ところで、ACUO以外でもミントガムはグリーン、ブルー、そしてブラックという色分けが行われていることが多いように感じますが、これはどんな理由があるのでしょうか?

おそらく、原点は弊社のロングセラー商品「グリーンガム」と「クールミント」ではないかと思います。ガムの色分けの意味合いとして、食べやすいミントは「グリーン」、それよりも強いミントが「ブルー」、そしてさらに強いのが「ブラック」という認識が、すでにお客様に広く浸透しています。店頭ではみなさん2~3秒で購入する商品を決定されているので、この広く認知された色分けを行うことで、購入選択の際の情報伝達をスムーズに行うことが目的になっているのではないでしょうか。

弊社では緑、青、黒以外の色を使ったパッケージで市場開拓を行うべく挑戦したこともあったのですが、品質のポジションとパッケージの色があわないとお客様がその製品の特徴をとらえられず、結果として広く受け入れられないという結果となってしまいました。

――ミントガムの色分けの話に関連して、2013年に入って、黒いカラーのミントガム「ブラックミント」、そして喫煙者向けの「ACUO REFINE」が発売されました。既存の商品展開に加えてこれらを追加した理由を教えてください。

「ACUO REFINE」は、タバコを吸った後に噛むことを想定したサブブランドです。2013年は「ACUO」の持つブレスケアという側面を強調するブランドコミュニケーションを実施しておりまして、ブランドの機能的なイメージを強めるために投下しました。

ACUO ブラックミント

ACUO REFINE

「ブラックミント」に関しては、ブランド立ち上げ当初からご愛用いただいているお客様の受け皿として発売しました。「ACUO」はシンボルターゲットとして24歳・社会人・男性というペルソナ(製品開発の現場などで設定される架空の顧客像)を作っておりまして、2006年当時それくらいの年代だった方々は、現在30代になられています。ミントガムは年齢が上がるにつれて強いミントを求める傾向がありまして、発売当初から愛用いただいているお客様に引き続きご購入いただくため、既存製品よりミント感の強い製品を追加しました。

――ガムの購入にはそんな傾向があるのですね。

はい、ACUOのメインターゲットである20~30代に比べて、30~40代では強い刺激のミントに対する需要が上昇する傾向にあります。10~20代にかけてフルーツガムからミントガムにニーズが大きく移り、そこからミントの強さが上がっていくようなイメージです。もちろん、20代でも強いミントを好む方はいらっしゃいますが、平均した場合の傾向ですね。

ACUOのブラックミントは、ミントの強さは高めていますが、辛さだけではなく、スパイスのアクセントやシトラスなどを含ませているような味になっています。既存のACUO製品でも同じ方向性で味を調整しておりまして、フルーツガムからミントガムへ移行する際の橋渡しとなる製品を目指しています。

――個人的にガムのパッケージは「ACUO REFINE」のような箱のタイプが好みなのですが、ACUOのベースラインでは紙を巻くタイプのものを採用しているのはなぜですか?

箱型のパッケージ(スライドカートン)はバッグの中などで扱いやすいため、女性の方にヒアリングを行うと評価が高くなる傾向がありますね。一方、男性はガムをポケットに入れることが多く、カートンタイプだとかさばるというご意見もあります。ACUOは先ほど申し上げた24歳・会社員・男性というペルソナを想定しているため、紙パッケージを採用しています。

――最後に、古市さんからACUOのパッケージデザインのここを見てほしいというこだわりを教えてください。

歴代のパッケージで一貫しているデザインのシンプルさです。これまで複数回のパッケージリニューアルを行っておりますが、簡潔なデザインなだけに、お客様に違和感がないような形でリフレッシュを行うのはとても難しい作業です。佐藤オオキさんからいただいた数多くのデザイン案から私たちが選出しているのですが、常に元のお客様が離れないように留意する一方で、自分たちの納得がいくものをという気持ちは常に持っております。

というのも、私自身もACUOという製品のターゲット圏内で、開発室には20~30代の者が多く在籍しております。そのため、お客様の評価のポイントを知ることを大切にしながらも、「自分たちが持ちたいと思う製品であるかどうか」という点も加味して見ています。

――ありがとうございました。