「幸せの黄色いハンカチ」で有名な北海道夕張市。夕張市でもうひとつ、黄色い幸せアイテムがあることを皆さんご存知だろうか。それは何を隠そう「夕張カレーそば」である。ここ数年ほど全国区の旅行雑誌やグルメサイトで大きく紹介されるようになったが、その由来は昭和の昔に遡る。
発祥の店の閉店で立ち上がった協議会
そもそもこの夕張カレーそば、地元のそば店「藤の家」が発祥だった。かつて炭鉱で栄えた夕張では男たちが仕事の疲れをいやす飲食店が数多く賑(にぎ)わっていた。「藤の家」もそのひとつ。人気メニューがカレーそばだったのである。
カレーのスパイシーな辛み、何より独特の刺激がヤマの男たちの絶大なる支持を受けていたのである。炭鉱閉山後もその味は変わらず、夕張のご当地の味として親しまれていた。しかし、大きな転機は2009年に訪れる。その「藤の家」が店主の健康問題により閉店してしまったのだ。
そこで立ち上がったのが地元飲食業界だった。夕張カレーそばの味を継承すべく協議会を設立。それまで「藤の家」に遠慮してカレーそばをメニューに加えなかった店が続々とカレーそばをラインナップに加え、数年のうちに一挙に夕張一帯に広まり、現在では7店舗程度がその味を継承しているという。
豚肉と山ネギが「藤の家」スタイル
最初に話を聞いたのは「鹿の谷3丁目食堂」の店主、「おやびん」こと佐々木修(おさむ)さん。「藤の家」からレシピを教わりオリジナルに近い味と言える店である。「夕張カレーそばは『藤の家』のスタイルであることが基本なんです。ひとつに豚肉を使うこと。もうひとつは山ネギですね」と佐々木さん。なるほど、豚肉のうま味と玉ネギの甘みで味が奥深くなるのか。
「普通、カレーそばっていえば南蛮(鶏肉)を使います。でも、ここ北海道じゃ豚肉なのですよ」。確かに、ご当地グルメで人気の十勝豚丼はもちろん豚肉だし、北海道風すき焼きも豚肉を駆使している。
牛肉は高価だが、豚肉なら開拓団が飼っていて身近な存在だったからという話を聞いたことがある。これは北海道全体に言えることだろう。ちなみに、ご飯と卵を入れて雑炊にできるのはこの店のオリジナルだ。絶妙なその味わい、機会があれば是非お試しあれ。
●infomation
鹿の谷3丁目食堂 ゆうばり屋台
北海道夕張市末広1丁目81
ラーメン屋が提供する秘伝の味
次に足を運んだのは、手打ち麺がこだわりの「栗下食堂」。本来はラーメン店だそうだが、「藤の家」の閉店後にカレーそばを提供し始めたという。ラーメン店のカレーそば、具材はここでも豚肉と玉ネギがドカンと登場した。見た感じは濃い目だが、粘り気は強くなく味付けはサラリとしてる。
「うちでも昔からまかないでカレーそばは作ってたんだけど、ラーメン店だから客には出さなかったんだ。でも今は、みんなで夕張を盛り上げないといけないからね」そう笑顔で語る店主の栗下一(はじめ)さん。レシピは「秘伝の味」のため詳細は秘密だそうだが、世代を問わずに誰でもおいしく食べられるよう、微妙な調整を加えているという。
●infomation
栗下食堂
夕張市紅葉山526-6
温泉の後に和風な一品を
北海道の長旅で疲れたら、温泉施設の「夕張温泉 夕鹿の湯」を訪れてみるといい。実はここのレストランでも、夕張カレーそばが食べられるのだ。
「うちの場合は、ダシを昆布などから取って醤油も加えているんです。どちらかというと和風テイストかな」と言う、店長の大石誠一さん。和風ならではのサラリと舌になじむ飽きない味が特長で、「お風呂に入らず食事だけに来る人もいるくらい」だという。
●infomation
夕張温泉 夕鹿の湯
北海道夕張市日吉14
以上ざっと駆け足で紹介した、夕張市のカレーそば店。他にもエリアには多くの名店、オススメ店が存在しているので、その味の違いを食べ比べていただきたい。