三菱重工業(MHI)と千葉工業大学(千葉工大)は9月25日、共同で記者会見を開催し、原子力分野向けロボットの開発・生産について、技術協力協定を締結したことを発表した。今後、MHIは千葉工大のライセンスを受け、同大が開発した新型ロボット「櫻弐號(サクラニゴウ)」の生産・販売を行っていくという。
「櫻弐號」は、福島第一の原発事故に投入され、建屋内の状況把握に貢献した「Quince」で得られた知見をベースに、千葉工大が新規に開発したロボットである。メインクローラに覆われた本体に、4本のサブクローラが付くというスタイルはQuinceと同様。センサなどを50kgまで搭載でき、傾斜45°の階段でも昇降が可能な高い走破性能を持つ。
全長は720mm(サブクローラ収納時)/1,040mm(同展開時)、重量は48kg。700Whのリチウムイオンバッテリを内蔵しており、最長8時間の動作が可能だ(充電はプラグイン方式)。現場からの要望が大きかったとのことで、防水性能は大幅に強化。IP67相当の防塵・防水設計を新たに採用し、水深1mまでの水中走行も可能になった。
同時に、櫻弐號に搭載できるロボットアームも開発。広視野カメラやハンドグリッパを備えており、ドアの開閉や、サンプル採取などに対応する。このロボットアームは、関節部に電磁ブレーキを搭載。姿勢を維持するときは、この電磁ブレーキが機械的にロックしてくれるので、モーターは電力を消費せず、バッテリを節約できる。
千葉工大は、本来はレスキューロボットであるQuinceを大幅に改良して、2011年6月より福島第一原発に投入。走破性能の高さを活かし、投入されたロボットの中で唯一、建屋の5階まで到達するなど活躍した。その後も、原発向けに「Rosemary」「Sakura」「Tsubaki」といったロボットを開発し、ソフトウェアの改良も続けてきた。
しかし従来のレスキューロボットのシリーズは、Tsubakiを最後に開発を終了、今後は、産業化をより強く意識した新シリーズに移行する。この「櫻」シリーズは、原発向けに特化したロボットとなり、今回、2号機が最初に発表されたが、未発表の1号機があるほか、3号機以降も順次開発を進めていく。
MHIと千葉工大は、8月1日に技術協力協定を締結。その第1弾として、MHIは櫻弐號を生産・販売する。今回、決まったのは2号機についてのみで、他の号機については未定。個別に検討し、MHI以外がパートナーになる可能性もあるという。
MHIは自社でも原発ロボットを開発しているが、同社原子力機器設計部の宮口仁一部長は「千葉工大の技術を融合することで、より幅広いロボットのニーズに応えていきたい」と、提携の狙いを説明。販売価格については明言を避けたが、「競争力のある価格帯」を目標に、今後、量産機の仕様について検討を進める。
一方、千葉工大・未来ロボット技術研究センター(fuRo)の古田貴之所長は、「福島第一は千葉工大だけで対応してきたが、今後、世の中に幅広く技術を展開するためには、メーカーのパートナーが必要」と説明。「MHIの品質管理やサポート体制と、我々の技術が融合することで、災害ロボットをより高いフェーズに持って行けるのでは」と期待する。
今回の技術提携は原子力分野向けということにはなっているが、櫻シリーズはカスタマイズ可能な汎用プラットフォームであり、一般災害向けのレスキューロボットとしての活用も期待できる。潜在的な市場も大きく、宮口部長も「原発以外の分野にも展開していきたい」と述べる。
ただ、大地震など自然災害が多い日本では、大学によるレスキューロボットの研究は盛んであるものの、実社会への配備はほとんど進んでいない。そのことが、東日本大震災で改めて浮き彫りになったわけだが、市場がないから企業が参入しない、満足な商品がないから導入できない、といったスパイラルから脱却できていないのが現状だ。
千葉工大のレスキューロボットは、実際の現場での運用経験を得て、実用段階にかなり近づいたと言えるが、大学の役割は研究開発。生産・販売・サポートのためには、企業が欠かせない。MHIは官公庁とも太いパイプを持つ大企業であり、今回の協力がレスキューロボットの普及においても大きな転換点となることを期待したい。
階段走行のデモ |
サンプル採取のデモ |
水中走行のデモ |
不整地走行のデモ |