日本で初めて人工衛星を利用した通信が開始されてから、今年で50周年ということをご存じだろうか。50年前の1963年11月23日に、ケネディ米大統領(当時)が暗殺された事件のニュースを、公開実験としてテレビジョン衛星中継したのがその始まりだ。

日本における衛星通信の歴史

当時、日本側の放送波受信施設は同年に開設された「茨城宇宙通信実験所」がその役割を担っていた。

衛星通信の"東の関門局"と呼ばれたこの施設は、のちに「KDDI茨城衛星通信センター」と名前を変え、日米間の通信や、太平洋上を航行する船舶との通信インフラとして長きに渡って運営されてきた。しかし、2007年に同センターは閉所となる。

閉所された理由は、山口県にある"西の関門局"「KDDI山口衛星通信センター」への機能統合だ。山口センターは1969年に開設され、最初に行った中継は英国のチャールズ皇太子立太子式であった。主にヨーロッパとの衛星通信を担当しており、1972年に行われたミュンヘンオリンピックでは、全ての中継が山口センターを経由して行われた。

一見、機能統合は地理的条件を考慮すると首都圏内にある方が合理的に見えるだろう。しかし、その"地理的条件"が一番の理由となり、山口センターへの統合が図られた。その理由とは、茨城センターではインド洋上を飛行するインテルサット静止衛星から来る電波を捉えることができないというもの。

山口センターですら電波を捉えるために水平線ギリギリにパラボラアンテナを向けている。一方で、太平洋上の静止衛星は山口センターでも捉えることが可能なほか、自然災害が少なく地上のマイクロ回線による干渉がないといった立地条件もあり、山口センターへの統合に至ったという。

山口衛星通信センターと衛星通信の役割

今回、KDDI 山口衛星通信センターの福地 喜弘マネージャーと、同センター 牧尾 雅明フィールドグループリーダーに同センターの説明と案内をしていただいた。

山口センターは、過去に最大22基のパラボラアンテナが存在し、現在も20基が稼働しており、土地面積が16万平方メートルで東京ドーム3個分にも及ぶ。最大のパラボラアンテナは、第2アンテナの直径34mで、重量も430トンに達する。第2に次ぐ直径32mを誇る第4パラボラアンテナは、国立天文台(NAO)に寄贈されており、電波望遠鏡に役割を変えながらも活動を続けている。

近年は、通信衛星側のアンテナが巨大化しているため、地上側のパラボラアンテナを大きく作る必要がない。ややロマンに欠けるが、通信衛星側のアンテナを巨大化すれば、地上に点在するアンテナ一つ一つにかけるコストを抑えることができるため、合理的な話と言えるだろう。

山口センターは万が一の事態に備え、電力系統を3重化している。中国電力から専用線を引いているほか、自家発電設備も設置しており、仮に専用線が切断した場合でも3日間は衛星通信を維持できる態勢を整えている。

国内に対する伝送路系統では、光ファイバーケーブルが高速道路である中国自動車道の上下線に沿って伸びている。ほかにも冗長性を持たせるために九州を経由して太平洋側に海底ケーブル伝送路も用意されているため、災害が起きた場合にも通信がストップしないようにネットワークを張り巡らせているという。

現在、国際通信の要は海底を通る光通信ケーブルが担っており、通信衛星はケーブルで接続できない移動体通信や放送波向けに利用されている。衛星通信は、伝送容量や伝搬遅延の面で海底ケーブルに劣るものの、ケーブル切断のリスクがないため、緊急時にネットワークを補完する役目として今も活躍している。

衛星通信には、固定衛星通信の「インテルサット」と移動通信衛星の「インマルサット」が存在し、KDDIでは様々なニーズに合わせてサービスが提供している。

インテルサットは、海底ケーブルが張られていない海外辺境地や遠隔地で利用されており、南極にある日本の「南極昭和基地」と直通回線を結んでいる。ほかにもVSATと呼ばれる直径数mの小型地球局を展開しており、紛争地域における日本人の通信手段を確保している実績がある。

一方、移動通信衛星のインマルサットは、船舶や一般的な携帯電話サイズを実現した衛星通信電話との通信に利用されている。KDDIは東日本大震災発生時に衛星通信をバックボーンとした車載型基地局を展開し、被災地域の通信カバーに尽力したという。

また、これを応用した船舶型基地局も検討されており、沖合から被災地に向けて電波を吹かせることで、山あいにある遠隔地域にも安全に素早い通信の確保が可能になるという。

まだ実地実験を行ったばかりであり実用化されるかは未定だが、災害時における通信手段確保は被災地の状況把握や安否確認を行う上で重要なこと。手段の多様化も、万が一の備えとして有効な手であり、是非実用化して欲しいものだ。

KDDIパラボラ館

KDDIでは、山口衛星通信センターを知ってもらう為に、センター入口に「KDDIパラボラ館」を公開している。衛星通信の仕組みだけではなく、海底ケーブル通信の仕組みなども合わせて紹介されており、KDDI統合前の1社、KDD(国際電信電話)時代の色合いを強く感じた。

KDDIパラボラ館

パイプのように見えるものは"フィードホーン"
これにより電波を効率よく送受信できる

パラボラ館横にあるアンテナ
かなり近付いて見られる

パラボラ館内部展示

海底ケーブルに関する展示

どこか懐かしい大型展示物も

パラボラ館からは見ることのできないセンター内部

この後は、「KDDI山口衛星通信センター」施設内部の様子である。言葉で説明するよりも、写真を見ていただいた方が分かりやすいので、是非一つ一つ拡大してご覧いただきたい。

まずは通信処理を行うサーバー群から。

サーバー室内

意外とがらんとしていた

交換用のケーブルだろうか

整然と並ぶ通信機器群

反対側から撮影したところ

ここはモデムなどが設置されていた

こちらは信号を変換する機器

ケーブルの接続部をまじまじと見ると吸い込まれそうな気分に陥る

一部は見たことのあるコネクタ群もあった

放送波の送受信も行っているため、専用のサーバー群も見かけた

こちらは電波の受信レベルが保たれているか確認する装置

常時接続されている放送波もあると説明を受けた

ぶら下がっているケーブルについては質問できず…

天井には多量のケーブルが張り巡らされていた

同センターは夜間は無人になる。近年までは24時間態勢で保守を行っていたため、標準時の時計が設置されていた

続いて屋外に出て、パラボラアンテナに近付いてみる。

小型パラボラアンテナ

このアンテナは受信専用

特殊な形状となっている理由は4波同時受信にある

配線も非常にシンプル

こちらは太平洋側を望む衛星群

かつては衛星通信に利用された鉄塔も、今ではau携帯の基地局に

奥がインテルサット用
手前がインマルサット用

こちらは船舶などに搭載されているアンテナ
障害が起きたときなどに確認用として設置されている

パラボラ館に近い位置にも複数の小型アンテナが設置されている

背面からの撮影
エリマキトカゲの様にも見える

少々分かりづらいが、3基あるアンテナのうち真ん中のアンテナが2008年に設置された最新のアンテナ
今回案内していただいたKDDI 福地氏が設計を担当

このアンテナは相当でかそうだ

前方から見るとNAOと書いてある

これが国立天文台に寄贈されたアンテナだ

足下に大きな車輪が見える

現在は電波望遠鏡として星を追いかけている

同センターの中で
一番と言っていいほど美しいたたずまいであった

最後に、同センター最大の直径34mを誇る「第2パラボラアンテナ」の近くまで寄らせていただいた。

今度も背面から近付く

相当でかい
よくぞここまで大きい1枚の板を作れたものだと感じた
(正確にはつなぎ合わせている)

角度などを調整しているため円状の駆動部が見えている

NAO望遠鏡と同じく方向を変えるための車輪が付いている

衛星と通信する上で最適な方向に向けるための調整は自動で行われているという

車輪は成人男性の頭よりも大きい

真ん中にレバーが見えるが、保守点検を行う際に手動でこの巨大なアンテナを動かすために使用されるという

外に目を向けると、のどかな風景が広がる

真下から見上げるパラボラアンテナは普段のイメージとは違い非常に無骨だ

レールは車輪によって傷が付いていた

近くに学校がある

奥に見える建物にサーバー室がある

アンテナの付け根には電波の集積装置がある

よく目を凝らして見てもらうと分かるが、骨組みに沿って何かの線が見える
これは電熱線(ヒーター)で、アンテナに雪が降り積もったりした場合、発熱して雪や氷を溶かす

幾何学的な骨組みが美しく見える

上に登るはしごが見えるが、さすがに登らせてもらえず

この台座で430トンを支えている

中国電力から引く専用線の鉄塔
個人的にはエヴァンゲリオンを思い出す写真だ

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