既報の通り、宇宙航空研究開発機構(JAXA)は8月27日、新型ロケット「イプシロン」の打ち上げを予定していたが、打ち上げの直前に発生した異常のため、打ち上げは中止された。同日16時より、JAXAは記者会見を開き、森田泰弘イプシロンロケットプロジェクトマネージャが詳細について説明した。

JAXAの森田泰弘イプシロンロケットプロジェクトマネージャ

当日の内之浦宇宙空間観測所。絶好の打ち上げ日和だっただけに…

まず中止となった原因であるが、これについては現在調査しているところで、まだ確かなことは分かっていない。ただ、発生した事象としては、「ロケットの姿勢異常を検知し、打ち上げの約19秒前(X-19)にシーケンスが自動停止した」ということで確定している。

「ロケットが飛ぶ前なのに、姿勢が異常とは?」と思うだろうが、これにはいくつかの原因が可能性として考えられる。まだ地上に立っていた状態なので、まず「姿勢が異常だった」ということはあり得ない。次は姿勢を検知するセンサの誤作動であるが、ロケットから送られてくるデータにより、異常がなかったことがすでに確認されている。

しかし、地上の管制センター側には、ロケットの姿勢角の中で、ロール軸の数値について、あらかじめ設定されていたしきい値の範囲を超えるデータが送られてきたという。森田プロマネによると、しきい値は±1度で、それを1度超えるくらいの数字だったとのこと。しきい値を超えたため、管制センターの計算機が異常と判断、自動的に打ち上げを中止したわけだ。

ちなみに、イプシロンには画期的な新機能として、ロケットが自分自身で異常を判断する「自律点検」機能が搭載されているが、今回の部分は、しきい値を判断するだけの単純なものであり、この自律点検とは無関係だという。

イプシロン初号機には、第4段となるPBS(小型の液体エンジン)が搭載されており、ここに慣性センサユニット(IMU)が置かれている。IMUにはジャイロセンサと加速度センサが搭載されており、ここで得られた3軸の角速度、加速度データから、搭載計算機(OBC)がロケットの位置や姿勢などを計算している。

OBCを起動するのが打ち上げ20秒前(X-20)。ここで姿勢角に異常が見つかったため、前述のように、X-19で打ち上げが中止された。事前のリハーサルでは、打ち上げ18秒前(X-18)まで本番の打ち上げと同じようにシーケンスが進められていたが、ここでは同様の問題は見つかっていなかった。

10:45ころからランチャーの旋回が開始され、イプシロンが姿を現し始める

15分ほどかけて煙道の上に設置。ブームを左側に少し傾けて準備が完了

「まだ調査中」という前提ではあるが、現在のところ、最も怪しいと考えられているのは、ロケットと地上との間のインタフェース部分だという。森田プロマネは「機体側にはまったく異常がないと考えている」とのことで、異常の程度としては、「すぐに対策が取れること」と見ているようだ。

次の打ち上げ日がいつになるのかという点については、「原因の特定に半日、対策に半日、検証に半日~1日で、少なくとも2日間は時間が欲しい」と森田プロマネ。今後の状況次第だろうが、最短では3日後(8月30日)の打ち上げも「可能性はある」とした。

一般の見学席の様子。子供連れも多かっただけに、打ち上げを見せられなかったのは残念

お土産の売店や、コンビニの移動販売車があったり、まさにお祭り騒ぎ。筆者もいろいろ購入

夕方の射点の様子。イプシロンはすでに整備棟の内部に戻されている

設置しておいたリモートカメラには、ランチャーが出て戻っただけの8時間動画が保存されている…

また、森田プロマネの会見の前には、もともと打ち上げ後の記者会見のために内之浦に来ていたJAXAの奥村直樹理事長、内閣府の山本一太特命担当大臣(宇宙政策)、文部科学省の福井照副大臣、宇宙政策委員会の葛西敬之委員長による会見も行われた。

この中で、山本大臣は「予定通りの打ち上げができなかったことは残念に思うが、イプシロンを基幹ロケットの1つに位置付けるという政府の方針に変更はない。原因の究明をしっかりやっていただき、できるだけ早く打ち上げを成功させることを期待したい」とコメント。今回の延期により「日本の宇宙政策が後退してはならない」と強調した。

左から、奥村理事長、福井副大臣、山本特命担当大臣、葛西委員長

山本大臣は「日程さえあえば(再び立ち会って)成功を見届けたい」と表明