富士通は7月5日、国立天文台と共同でチリで進めている大型電波望遠鏡「ALMA(アルマ望遠鏡、アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計:Atacama Large Millimeter/submillimeter Array)」の専用スーパーコンピュータ「ACA相関器システム」が稼働を開始したことを受け、同プロジェクトに関する同社の役割についての説明会を開催した。

アルマ望遠鏡バンド4受信機による初めての観測画像(左)とアルマ望遠鏡の様子(右)

アルマ望遠鏡はチリの標高5000m、0.5気圧のアタカマ高地に建設が進められている電波望遠鏡であり、日本、台湾、北米、欧州など20の国・地域が協力してプロジェクトが進められている。全部で66台のアンテナを最大18.5kmの範囲に展開し、巨大な望遠鏡とすることで、従来の電波望遠鏡に比べて、感度および分解能を100倍に向上させることが可能となる。

66台のパラボラアンテナはすべて同じではなく、直径12mのアンテナ50台を組み合わせるアンテナ群と、直径12mのアンテナ4台と直径7mのアンテナ12台からなる「アタカマコンパクトアレイ」(ACA。愛称「いざよい」、別名:モリタアレイ)で構成されており、日本はこのACAとサブミリ波を中心とする3種類の受信機や相関器などの開発・製造を担当している。

アルマ望遠鏡のシステム概要とモリタアレイの概要

ミリ波/サブミリ波を使うと、星と星の間に存在するマイクロメーターオーダーの塵(星間塵)から放射される電波や、星間ガスに含まれる分子から発せられる電波を受信することが可能となる。分子ごとに周波数が異なるので、それにより宇宙空間の温度や密度、ガスの広がる速度などを知ることができ、最終的にはそれらの知見が太陽や地球がどうやって生まれたのか、という謎の解明にもつながることとなる。

特に地球最大規模のアルマ望遠鏡を活用することで、星の集団である銀河がどのように生まれ、進化してきたのか、また太陽系など、宇宙に点在する多様な惑星系がどのようにして誕生したのか、宇宙にどのような物質が存在しているのか、などを知ることができるようになると期待されている。

ゲストとしてアルマ望遠鏡の役割などの説明を行った国立天文台 チリ観測所の平松正顕 助教

ちなみに国立天文台 チリ観測所の平松正顕 助教によると、「アルマ望遠鏡の視力は人間換算で6000、東京から大阪に落ちている1円玉を見ることができるほどの視力」だと表現する。

富士通の役割は、そうしたアルマ望遠用のパラボラアンテナに搭載される受信機から得られるデータを処理して画像化する相関器やなどを開発すること。中でもACAを活用することで、大きく広がった天体からの電波も逃さずキャッチできるようになるという。

電波をパラボラアンテナで受信し、それをフーリエ変換することでデータを加工。各望遠鏡で得られたデータを16台合計し相関を取ることで、解像度のデータを得ることが可能になる。この技術の詳細は、Hisa Ando氏の連載を参照していただきたいが、これをリアルタイムで実現する必要があったが、富士通としては3つの課題を解決する必要があったという。

左の図の赤枠で囲ったところが富士通が担当した部分。ACA相関器の実現には3つの課題を解決する必要があった

アルマ望遠鏡における富士通の役割などを説明した同社テクニカルコンピューティング・ソリューション事業本部の國澤有通氏

1つ目はビッグデータの高速処理をどうやって実現するか。アンテナから送られるデータ量は1.5Tbpsで、それをリアルタイム処理するためには専用の計算機が必要となる。このデータをそのまま世界各地まで通信することができれば、それに越したことはないが、それを行うためには数万本以上の光ファイバを敷設するコストと労力、そして維持管理が必要となるため、現実的ではない。また、現地に巨大なスーパーコンピュータセンターを設置すれば、それでも問題は解決できるが、やはり高地にそれを建設するコストや労力、電力の問題などがあることから、最終的には5000個を超すFPGAを用いて120TOPSの性能を実現し、それらの課題を解決したという。

また、宇宙に近づけば近づくほど問題になってくるのが中性子ヒットによるエラーの発生。試験稼働から2013年7月頭時点までで、確実に中性子によるエラーというものは確認されておらず、その他の可能性などを排除した場合であっても、1~2件程度、もしかしたらそうなのだろう、という程度の発生頻度に留まっているという。

富士通が担当したシステムの概要

2つ目は標高5000m、0.5気圧という環境の問題。気圧が低い環境で計算機から発する熱を逃がしやすくするために、設計時から熱発生の平準化を狙った設計を採用したほか、標高5000mにメンテナンスをしに行く労力を減らす観点から、ディスクレス、ネットワークブートシステムなどの採用、また高山病のリスク低減という観点から、作業スタッフの低酸素トレーニングやメディカルチェックによる健康管理や、日本に居る間にできるチェックはすべて行うことで、現地での作業負担削減なども行ったという。

そして3つ目。日本の反対側に位置するチリには簡単に赴くことができないという点。この問題の解決に向け、相関器の状態監視や診断、ファームウェア/FPGA、計算機のコンソールのリモート確認、BIOS設定、電源のON/OFFなどの遠隔操作の実現や、現地のメンバーへの保守に関する教育や部品の設置強化などを行ったとする。

なお、66台すべてのアンテナがそろうのは2013年10月頃の予定で、本格稼働により使用されるアルマ天文台のストレージ容量は年間200TB必要になると予測されている。すでに同望遠鏡では40TBが使用されているとのことで、各望遠鏡から送られてくるデータを処理するサンチャゴのJAO(Joint ALMA Observatory)オフィス(Santiago Central Office:SCO)のストレージ容量が100TBであることを考えると、このままでは早晩、ストレージ容量の限界が見えてきてしまうことから、今後、その解決策を各所と相談して進めていく予定としている。