――ストーリーは士郎正宗さんからのプロットで作られたということですが、公式サイトのキャラクター紹介で、素子が「生まれた時から生身の肉体を持ったことがない」とありました。

「素子の出自のようなことがプロットの中にあって、冲方さんがこれを初出しするのに自分の脚本でいいのか、すごく迷ったと言っていました。

でも士郎さんがここに出してきたということは、ある意味"やってくれ"に近いので、もうやっちゃいましょう、と」

全4話、今後の展開は……

――街並みや建物も少し古く見えましたが、これは作品の時間軸を反映したものですか?

「そうではなくて、ニューポートシティのような未来的な街はあるんですけど、その外れに開発の遅れている場所があって、今回はそこを舞台にしたいというむらたさんの狙いによるものです。だからATMも古めかしい、監視カメラも取って付けたようなものになっている。近未来都市のような場所では、ミステリーっぽさが薄れてしまうと言っていました」

――今回の事件は一応の決着を見ましたが、ストーリー的には1話で完結と考えていいですか?

「そうです。今回のシリーズ4本で大きな流れはありますが、毎話数必ず引っ張ってくるという話でもなく、1本1本見ても成立するように作っていこうと考えています」

――攻殻機動隊発足に至る物語ということで、メンバーそれぞれの活躍を期待してもいいでしょうか?

「いいと思います。どうしても本数が少ないので手厚くとはいかないかもしれませんが、できる限り"こいつら何者だ"というところは描きたいと思います」

――劇場イベント上映と同時にパッケージ発売という方法が採られていますが、制作側としてはいかがですか?

「大変です……(苦笑)! 最近『機動戦士ガンダムUC』や『宇宙戦艦ヤマト2199』でも同じ方法(※)でやっていますけどね。上映と同時にパッケージで販売する準備のために、期限が2カ月早いんです。(スケジュール的には)ガッツガツでしたね。スタッフが本当にがんばってくれました。

ただ、上映して数カ月後にパッケージを発売するよりは、劇場で見てもう一度見たいという人にその場で買ってもらえるのは良い点ですね」

※従来のOVAのようなパッケージ販売に加え、限定的な劇場でのイベント上映や有料動画配信など、複数のチャンネルで同時に展開。シリーズを数カ月に1本のペースでリリースする方法。『機動戦士ガンダムUC』の福井晴敏氏は、巻を重ねてもパッケージの販売数が落ちていないと述べ、『宇宙戦艦ヤマト2199』は上映・販売での好評を得てテレビ放送に至った。

――ファンとしてはうれしいですね。今回、劇場で販売される限定版にはシナリオがついてくるそうですが

「シナリオを読んでもらうとまたいいかもしれません。時間の制約のためにシナリオにあっても映像では切ってしまったり、使っていないシーンもあるんです。意外とおススメです(笑)」

――では、最後に、クリエイターの方、クリエイター志望の方にメッセージを頂けますでしょうか

「興味あるものでもないものでも、若い時に見られるものがあったら何でも見て欲しいですね。好き嫌いは後で決めればいいんです。興味ないものは見ないという人が多いですが、その時に興味がなくても、この先『ああいうものがあった』と思い出すとそれがアイデアにつながったりします。いつ役立つか分からないので、何でもかんでも、仕入れる時間がある時には仕入れておいてほしいですね」

『攻殻機動隊ARISE border:1 Ghost Pain』は、6月22日より全国20の劇場でイベント上映、同時にBlu-ray/DVDが発売される。

(c)士郎正宗・Production I.G/講談社・「攻殻機動隊ARISE」製作委員会

■ストーリー
2027年、第四次非核大戦終戦から一年、戦禍の爪痕癒えぬニューポートシティで自走地雷を使った爆殺事件と、兵器売買における収賄容疑の掛った軍人が銃殺される事件があった。
雨烟る中、その軍人の電脳を求め墓地を暴く公安の荒巻大輔。そしてその背中に冷たい銃口を向けたのは、殺された上官の容疑を晴らそうと動く陸軍義体化部隊「501機関」に所属する超ウィザード級ハッカーにして全身義体のサイボーグ、草薙素子だった。
だがこの事件を追いかけているのは草薙だけではなかった。
彼女を爆殺事件の犯人と疑い付け狙う「眠らない眼」を持つ男、バトー。
銃殺事件と娼婦殺人事件の共通項を捜査する新浜県警の刑事トグサ。
そして「501機関」のクルツ中佐とサイボーグエージェントたちが草薙の動向を注視していた。
彼らが追い求めるものは、目の前の「事実」と失われた「真実」とが交錯する電脳社会の混沌に身を潜める。自身の未来と掲げた理想のために草薙の本能が今、起動(アライズ)する。
■キャスト
坂本真綾 / 塾一久 / 松田健一郎 / 新垣樽助 / 上田燿司 / 沢城みゆき / 浅野まゆみ
■スタッフ
原作:士郎正宗 / 総監督・キャラクターデザイン:黄瀬和哉 / シリーズ構成・脚本:冲方丁/音楽:コーネリアス / 監督・絵コンテ:むらた雅彦 / 作画監督・サブキャラクターデザイン:西尾鉄也 / メカニックデザイン:柳瀬敬之 / 3DCGI:オレンジ / 3DCG監督:井野元英二 / 美術:Bamboo / 美術監督:竹田悠介・益城貴昌 / 美術設定:加藤浩(ととにゃん) / プロップ・美術設定:荒川直樹 / 動画検査:市万田千恵子・菅田朋子 / 色彩設計:片山由美子・佐藤真由美 / 色指定:竹田由香 / 仕上検査:下川真里子 / 撮影監督:田中宏侍 / モーショングラフィック:上村秀勝 / 特殊効果:村上正博 / 音響監督:岩浪美和 / 音響効果:小山恭正 / 編集:植松淳一 / エンディングテーマ:salyu×salyu「じぶんがいない」(サウンドトラック:フライングドッグ) / アニメーション制作:Production I.G / 製作:「攻殻機動隊ARISE」製作委員会/配給:東宝映像事業部