楽天 編成部 編成戦略課 アクセス解析・最適化推進チーム リーダー
高橋 歩氏

6月13日、アドビ システムズが主催する「Adobe Digital Marketing Forum 2013」が東京・六本木で開催された。マーケティング業務に関わる約1500人が参加した同フォーラムでは、導入事例など13のセッションが行われた。その中から、Adobe Marketing Cloudを採用しデータドリブンを謳う楽天のセッションを紹介する。

「楽天流データドリブンな組織の作り方」と題したセッションに登壇したのは、楽天 編成部 編成戦略課 アクセス解析・最適化推進チーム リーダーの高橋 歩氏。

高橋氏はセッションのスタートに、6月上旬に楽天市場で行われた「楽天スーパーSALE」において、1日としての流通総額が過去最高の150億円を超えたことを紹介。とりわけモバイルからのアクセスが60%もあったことに触れ、「時代はすでにスマートフォンやタブレットに移ってきている」と語った。

40を超える事業を展開している楽天は、Adobe Analytics(SiteCatalyst)を含むAdobe Marketing Cloudを全面的に導入し、ビジネスにおける経営判断や意志決定に利用しているという。楽天社内では4200アカウントのユーザーがAdobe Analyticsを使用し、毎日900回のログイン、7800ものレポート配信を行い、それぞれの事業運営に活用している。

各事業におけるレポート。公用語が英語である楽天の社内資料はもちろん"英語"

楽天でのAdobe Analytics利用に関するいくつかの数字

一方で、アクセス解析や最適化を各事業部内で進めていくのには限界があり、そこで横串組織としての編成部の中に高橋氏の所属する「アクセス解析・最適化推進チーム(WAOチーム : Web Analytics & Optimization)」を設けたという。このWAOチームはソリューションのサポートを行うことがゴールではなく、楽天を究極のデータドリブン企業にすることが使命となっている。

WAOチームはデータドリブン企業への取り組みを進めるにあたって、各事業の成長度合いを測る指標として、基本的なKPIを定め基礎的なアクセス解析を行う「Essentials」、解析結果から仮設をたてて検証を行なっていく「Optimization」、詳細な解析からより深い知見を得ていく「Advanced」の3ステップを設けている。事業部によって規模や人数、アクセス解析に対する優先順位が異なるため、この指標をひとつひとつの事業に当てはめて、どのようにサポートしていくかを判断しているという。

全社組織としての編成部にアクセス解析・最適化推進チーム(WAOチーム)を設けている

各事業のステップに応じたサポートをWAOチームが行っていく

データドリブンを目指すにためには、データそのものが無ければ何も始まらない。まず、適切なデータと環境を用意することから始め、さらに組織を作っていくと同時に、分析や最適化を行っていくための支援ツールなども必要となってくる。

セッションは、これらの取り組みを以下の4つの観点から紹介する内容で行われた。

  1. 役割を見える化する
  2. プラットフォームを用意する
  3. 仕組みでエンパワーする
  4. Web Analysticsの未来を描く

役割を見える化する

ここ数年で、Web Analystという肩書きをよく見聞きするようになったが、実際に聞いてみると、実装や分析、提案を行なっているなどそれぞれにやっていることが違うということがよくあるという。異なる会社間であれば大きな問題ではないが、これが同じ社内で同じ肩書きでありながら、やっていることが違うと問題になる。

そこで、楽天ではこのようなことを防ぐために、担当役割とその責任範囲を明確に規定することが大事だと考え、WAOチームと事業部の役割を定め、さらに各事業部に配置する3つの担当者とその役割を明確に定めている。戦略立案などを行う「Strategic Manager」、アクセス解析の実務を担当する「Web Analyst」、実装や開発を行う「Technical Leader」がこれに当たる。

そして、各担当の役割と求められる知識やスキルをひとつひとつ定義し、明確化を行なった。たとえばWeb Analystでは、役割にはKPIの定義やSDR(計測設計仕様書)の管理、スキルにはAdobe Analyticsの基本的な操作や知識などが例として挙げられる。これらを、Strategic ManagerやTechnical Leaderにも同様に定義し、これらをどのように習得していけばいいのかといったサポートをWAOチームが提供するという形になっている。

WAOチームと各事業担当の役割や責任範囲を規定

各担当はそれぞれ役割と求められる知識やスキルをさらに細かく定義(Web Analystの定義の一部)

さらに、これらの担当者とは別に、Adobe Analyticsを直接使わない社員に対しても、Excelに書きだされたレポートデータなどをきちんと把握・理解できるように、楽天ではアクセス解析に関するeラーニングを全社員が受講しているという。

プラットフォームを用意する

立派な組織を作ったとしても、データドリブンな企業になるためにはデータがなければ何も始まらない。Adobe Analyticsはレポート設計が重要で、その設計思想を理解せずにレポートを見ると、誤った判断をしてしまうこともある。

計測を行うJavaScriptタグの設定、Adobe Analyticsの設定、そしてレポートの出力設定と、これらの設定がきちんと整合性がとれていることで「意味のあるレポート」になるという。

楽天でも2009年の全社導入において、スピード感を持って導入を進めた一方で、使用している計測タグがそれぞれの事業でばらばらになってしまっていた。データそのもの価値が認められないと、それをもとにした解析やビジネスにおける意志決定も信頼できないものになってしまう。

つまり、データが十分に信頼されない状態であったり、変更に迅速に対応できない状態では、分析や最適化する組織を作ったとしても、分析や最適化にフォーカスすることはできないということになる。

楽天ではスピード感をもって導入を進めたものの、各事業サイトの計測タグがばらばらという問題を抱えていた

データが信頼されなければ、その後のレポートや解析、意志決定といったフェーズに進めない(出典 : Web Analytics Action Hero)

そこで楽天では、コードやAnalyticsのカスタマイズ設定の見直しを行った。見直しでは、すべての事業で同じデータを見るというミッションをもとに、まずJavaScriptコードや変数ルールの標準化、関連情報の一元化を進めたという。

JavaScriptタグでは、各事業部で異なっていたタグを、何を取得し何を目的としているのかを確認し、計測の内容や実装方法をもとに事業に関係なく共通で取得するものと、事業部独自のニーズで実装しているものとに分類。このうち、共通部分については「楽天コモンモード」と名付けた共通コードを使用することにしたという。

計測タグを全グループでの共通機能と、事業部の独自機能部分に分離

分離することで、アップデートが容易に行えるようになり、新機能への対応もより迅速に行えるようになった

また、変数も各事業部がそれぞれにルールを決めている状態となっており、グループ全体のニーズを実装しようとした際には、実装の手間やサポートが困難になる要因にもなっていた。

こちらも同様に、グループ全体で使う変数と、事業部で扱う変数に再編を行った。このようにグループ全体で共通コードや変数を明確にすることで、全事業で同じ情報が見られるようになり、例えばインフロー分析やデバイスタイプレポートなどを標準レポートとして他事業との比較も容易に行えるようになったという。

ちなみに、楽天ではこのインフロー分析を「v51分析」、デバイスタイプレポートを「v61分析」と呼んでいるという。イーバーのコンバージョンカスタム変数の51番と61番に定義し、グループ全体で利用していることか名前の由来となっている。

変数についても、グループ全体で使用するものと、事業部独自のものとに再編

グループ共通で使用する変数の一例

仕組みでエンパワー

"仕組み"が無い状態だと、アウトプットの質が人によってばらばらになったり、プロジェクトの数だけ人的リソースが必要になってしまったりする。そこで、仕組み化することでオペレーションの基準を作っていくことを楽天では重要視している。

この仕組み化は単なるマニュアル作成ではなく、実際に各担当がセルフアウトプットやテスト実施ができ、そして成果をあげられるようにといったことを考えて行なっているという。

たとえば、A/Bテストの訴求内容を含むテストパターン作成では、何を用意したらいいかについて、選択肢を提示するようにしている。「ヒトの目を奪う10個の訴求型」というパターンを提示して、意志決定をサポートし実際に進められるようにするという"仕組み"を提供している。

このような"仕組み"は作って終わりではないという。事業部や担当者にとっては実行することが目的ではなく、成果を出すことが目的。そのため、仕組みを実際に動かす事業部にもコミットし、改善を行い、ともに成果をあげることで、よりよい"仕組み"を作り上げていくという好循環の流れが、楽天の言う"仕組み化"の姿となっている。

楽天における"仕組み化"は、作業のマニュアル化とは異なるもの

「ヒトの目を奪う10個の訴求型」など、プロジェクトの各段階での意志決定をサポートする

Web Analysticsの未来を描く

楽天では、コンテンツの最適化や、より深いアクセス解析といったR&Dを進めている。その中でも、ホットなのはモバイル分析に関する取り組みだという。楽天市場ではモバイルの訪問者や売上が急上昇している。

楽天では、アクセス解析や最適化においてのR&Dを進めている

楽天市場のモバイル流通総額。スマートフォンの増加が著しい

高橋氏は、PCの分析に加えて、スマートフォンアプリなどの分析をそれぞれ単体に行うのではなく、ユーザーを軸に分析することを次のチャレンジに挙げる。ユーザーがあらゆる場所でさまざまなデバイスを使って行う行動を、どのように紐付けて理解し、適切なアクションとして返していくかが課題のひとつと考えているという。

最後に高橋氏は、「600人ほどのWeb Analystがこの会場にいますが、600人いればどんな未来だって作っていける。究極なデータドリブンマーケティングという世界を皆様と一緒に作っていければ」と述べ、さらに「楽天はアクセス解析に力を入れている会社のひとつです。経営陣の理解や、ツールや人への投資、データドリブンへの意識が浸透している数少ない企業でもあります。Adobe Marketing Cloudも使い放題。もし、楽天でのアクセス解析の仕事に興味があったら、ぜひお知らせ下さい。個別にお話させて頂きたい」とセッションを締めくくった。