女性の社会進出がいわれて久しいが、OECD(経済協力開発機構)の調査によると、日本での男女間の給与格差は先進国では最大レベル。女性の就業率を含めまだまだ改善の余地はある。

好きな言葉は「挑戦」。「新しいことに挑戦していかないと企業も自分も成長しない」というのがその理由

女性経営者が増えると女性の雇用が増え、日本が活性化する――そう信じてエメラルド倶楽部を立ち上げたのが菅原 智美氏だ。自身もNATULUCKという会社を立ち上げた経営者である。トルコ・イスタンブールでDellが開催した女性起業家向けのイベント「Dell Women's Entrepreneur Network(DWEN)」で菅原氏に、起業や就職などさまざまなテーマについて女性を切り口に語っていただいた。

――女性経営者エメラルド倶楽部について教えてください。なぜ立ち上げようと思ったのですか?

エメラルド倶楽部は法人化している女性起業家や経営者向けの一般社団法人で、4年前に立ち上げました。会員数は500人に達しつつあります。売り上げは問いませんが、会員は年商1億円以上の「ダイアモンド」、個人事業向けの「ルビー」、それに株式会社として経営していれば年商は問わない「エメラルド」の3種があり、ダイアモンド会員が全体の3割を占めます。

私自身はレンタルオフィスと貸し会議室をビジネスとするNATULUCKを8年前に創業しました。起業したての人のスモールオフィスとして使ってもらっています。都内を中心に直営12カ所、提携を合わせると200拠点ぐらいあります。

エメラルド倶楽部を立ち上げたとき、女性経営者を集めたいという願いがありました。日本で一番多いのは個人事業主の女性社長、自分が好きなことをビジネスにしていて儲かっていなくても好きだからいいというスタンスです。ですが、女性経営者と女性社長は違います。経営者はスタッフを雇用し、事業を大きくしていくというミッションをもってやっている人たちで、私が増やしたいのはこちらです。従業員を雇用して利益を上げたい、大きくしたいという意欲のある人たちです。そういう人たちが成功し、事例が増えていけば、日本はもっと活性化されると信じています。

――起業にあたって女性であることのメリットは何でしょうか?

最近はFacebookやTwitter、ブログが普及し、口コミが信用される時代になってきました。ここは女性が得意な分野で、高い投資をして広告を打つことなく、自分がいいと思うものを口コミで広げていくことができるようになりました。これは活用すべきです。

――女性起業家が増え、成功し、ロールモデルが生まれて、新しい女性起業家につながっていく……そのような好循環を作り出すにあたって何が欠けていると考えますか?

まずは、みんなが学び、刺激し合える場所がないことです。

また、よく相談されることが資金関連です。男性起業家と比べて資金が得にくいということよりも、女性なので警戒しなければならないこともあるようです。女性だからこそ応援したい男性はたくさんいるようですが、資金を出して上げるといわれても何か下心があるのではないか、会社を乗っ取られるのではないかと警戒したり、また資本についての基本的知識がない場合も多いです。

エメラルド倶楽部では、毎月セミナーを開催しています。政府は女性起業家を増やす活動を展開しており、今年4月より起業家支援として資金の3分の2、最大200万円を創業補助金として受けることができます。こういう制度すら知られていないので、利用方法、事業計画書の作り方などを学んでいただけるようにしています。

――起業以前の問題として、女性側の職業意識に問題はあると思われますか? 学生など若い人の間で、専業主婦志向が高くなっているという指摘もあります。

問題はかっこいいと憧れるような働く女性、女性経営者が少ないことだと思います。見本となる人が周りにおらず、自分が働いているイメージがつかめないから、主婦でいい、旦那の収入で生活する方が楽しいと思うのかもしれません。

職業意識については、組織の中で上を目指していると組織側から「女性だから結婚がある、出産がある」となる。重要な任務に付けないから、結婚して主婦になったほうがよいと。また組織の中に長くいると"お局さん"ではないが、煙たがられるかもしれない、だからといって責任のあるポジションについている訳ではないし……という悩みはありそうです。

――女性の活躍にあたって男性側になにか問題はあると感じていますか?

古い体質の会社ほど、女性だからという考えが残っていることが多い。ここは変えていくべきだと思います。

女性経営者が増えると女性の気持ちが分かるし、女性の雇用も増えると思っています。つまり、男女の差のない会社になるでしょう。やる気や志のある人はぜひ起業してほしい。そんな人が成功することが女性の雇用につながると思います。

採用には直接関わる。「運がいいですか?」が最初に聞く質問だという

――少子化と女性の社会進出の関連性は?

講演などで、年配の方から女性経営者が増えると子どもが減るから少子化が加速するといった意見が出ることがありますが、そんなことはないと思っています。エメラルド倶楽部のメンバーには、子どもが2~3人いてバリバリと仕事をしている人もいます。女性がいきいきと働けば家庭も円満になるし、経済も活性化して子どもが産めると思います。女性が社会で活躍することは少子化対策にとって良いことだと考えます。

海外ではワークシェアリングが普及していたり、託児のコストが日本ほどかからないなど環境が整っているようです。そのような世の中にしていくことの方が重要ではないでしょうか。

――全日空エンタープライズ(全日空のホテル事業子会社、2003年解散)でキャリアをスタートされました。能力があるのに対等に扱われない"ガラスの天井"を経験されましたか?

20年ぐらい前は総合職か一般職かを選ばなければならず、女性は出世できないと感じていました。全日空エンタープライズの後に携帯電話会社(LiCROSS)に入社し、スタッフから始めて10年をかけ社長を任されたという経験があります。だから、女性だから不利だったと感じたことはありません。逆に、女性だからこそ目立って認められたと思っています。

――いま就職活動をしている学生にメッセージを。

会社の規模、知名度、報酬や待遇、休暇などの条件で選んでいる人が多いかもしれませんが、結局どこの会社も入社したら同じようなものです。自分がどう思うか、どう取り組むのかが大切です。

夢、目標がない学生がすごく多いように感じます。3年後、5年後の自分の姿を描くことができれば、必ず実現に向かうでしょう。まずは自分が何がしたいのか、どうなりたいのか、ここをしっかり描いてから就職活動なりを進めていくべきです。

――社会に出た当時、いまの自分をイメージされていましたか?

していましたね。起業したいと思っていました。

就職した当時はバブル絶頂期で、お金持ちがたくさんいました。全日空のホテルで働いていたときにお客さんがフレンチのレストランで1本10万とか20万円するワインを飲んでいる姿を見たとき、(従業員である)私は(出世してホテルでマネージャーになるよりも)そのお客さんの方になりたいと思いました。そのためには経営者にならないと!と(笑)。