世界に1億人以上ものユーザーを抱え、毎秒2,000ドルもの売上を上げるインターネットマーケットプレイス「eBay」。彼らは、24時間とどまることのない膨大なトランザクションを確実に処理するため、コストを抑えつつ可用性を高められ、柔軟性も高いシステムを常に探していた。創業からビジネスの拡大も伴って、12のデータセンターを構築しており、運用コストは年々増大していた。

そこでeBayは2010年、データセンターを3か所に統合する大規模なプロジェクトを立ち上げた。その目標の1つが「4年でコンピューティング性能を倍にしつつ、電力コストを半分にする」という壮大なものだった。

この理想を実現するにあたり、大きな貢献を果たしたのがラリタンの電源供給・管理システムである。この大規模プロジェクトに直接関わった、ラリタンのパワービジネス担当ディレクターであるデイビッド・ウッド氏に話を聞いた。

--eBayのプロジェクトで採用されたラリタン製品について

米ラリタン パワービジネス担当ディレクター デイビッド・ウッド氏

デイビッド 当社のPDU(Power Distribution Unit)と温湿度センサーを中心に、電源・温湿度管理システムを提供しました。ただし、単純に機器を納品したわけではありません。このプロジェクトでは、サーバやラックなどさまざまなメーカー製品が用いられたので、eBay以外の企業とも話をもって、最適な形で導入できるようにしました。

業界団体グリーン・グリッドは、データセンターの消費エネルギーの効率化に取り組んでいます。eBayでは、彼らが提唱する「電源効率性(PUE)」を非常に重視しており、データセンターの効率を向上させるための事実上の標準として用いています。そのため、サーバ1台1台のエネルギー消費を正確に把握する必要がありました。

このプロジェクトで採用されたインテリジェントPDU「PX2シリーズ」は、個別の機器ごとに±1%という高い精度で、消費電力量(キロワット/時)の情報を提供することができます。この情報は、eBayのビル管理・資産監視システムへリアルタイムに送信されます。この仕組みは、グリーン・グリッドで条件とされているPUEカテゴリ3測定の規定を満たすものです。

また私たちは、環境の監視に関して、米国暖房冷凍空調学会(ASHRAE)の基準に準拠するように、ラックのホットアイル側とコールドアイル側、さらにそれぞれ上部・中部・下部に温湿度センサーを設置しました。これらはPX2シリーズのオプション製品であるため、容易に統合管理できます。この情報を用いてeBayは、冷却設定を細かに調整し、障害状態も瞬時に把握することが可能となりました。

--単純な機器提供にとどまらなかったのはなぜですか

ラリタンのWi-Fiソリューション(DPX2-WIFI-KIT)

デイビッド 当社の製品・サービスの特長は、徹底した"インテグレーション"にあります。顧客が抱える問題について、私たちはその解決策を十分に考えて製品をカスタマイズし、必要とあれば新しい製品や技術を開発します。

例えば、基本的にPX2シリーズでは、センサーの情報を有線で管理システムに送ります。しかしeBayのシステムでは、配線コストも抑えたいというニーズがありました。そこで私たちは、今回のシステムに無線LANを組み込んだのです。

またこのデータセンターでは、サードパーティ製のラックを使用しており、しかも搭載される機器は頻繁に変更・移動する可能性がありました。そこで私たちは、新たに資産管理システムを開発し、どのようなラックにも設置でき、サーバ1台1台の状態が一目でわかるようなセンサーを作りました。

--なぜカスタマイズを重視するのでしょうか

ラリタンのアセット管理ツール

デイビッド 私たちは、顧客の問題へ既存の製品を何とかしてはめ込むよりも、必要なものを開発する受注設計生産(ETO)のほうがよいと考えています。なぜなら、そのほうが適切なソリューションを提供できるだけでなく、そうした開発の中から次世代の製品が生まれるからです。その方針によって、すでにカスタマイズ品をふくむ500以上の製品ラインナップの実績を積んでいます。

eBayの例で言えば、PDUやセンサーなどの管理インフラとしてWi-Fiキットを選択できるようになりました(日本国内提供は2013年内予定)。また、資産管理システムは「インテリジェントアセット管理ツール AMT/AMS」として製品化されました。AMT/AMSは、Interop TOKYO 2012のBest of Show Award特別賞を受賞するほど、魅力ある製品となりました。

開発・導入プロセスの最後が非常に重要なのですが、私たちは顧客と一丸となってシステムのテストを行います。それはつまり、製品の最終テストを実際の現場で行うことができるということです。だからこそ、優れた製品を新たな顧客に提供できるのです。


--このデータセンターは砂漠に設置されたとのことですが

デイビッド このプロジェクトでは、非常に高密度なコンテナ型のデータセンターが構築されました。ラックに多数のサーバを搭載し、コンテナ自体にも多くのラックを詰め込みました。しかも、このコンテナはアリゾナ州フェニックスの砂漠に設置されたのです。気温が40℃にも達するような過酷な環境下です。

冷却システムには高度な技術が使われましたが、これを支えていたのは、ラリタンの温湿度管理センサーから提供されるリアルタイムで詳細な情報であったのは言うまでもありません。

また耐熱性で言えば、一般的なPDUは45℃程度までしか正常に動作しないでしょう。しかしラリタンのPDUは、60℃まで耐えられるように設計されています。砂漠の炎天下でも安心して利用できる信頼性は、当社製品ならではと言えます。

--ほかにラリタン製品はどのような場面で活躍しますか

デイビッド 私たちが推奨する環境の一つとして、コロケーションサービスプロバイダーがあげられます。従来は、ラックごとに6台のPDUを搭載して、3つの顧客のシステムを管理するという手法が一般的でした。当社製品ならば、2台のPDUのみでコンセントごとに情報を得られるので、より細かに顧客のシステムを管理して使用料の請求を行うことができます。中には、電力管理ソフトウェアPower IQのダッシュボードをカスタマイズして、顧客ごとに専用の管理画面を提供し、満足度を向上させている事例もあります。

また、eBayの事例でも述べたように、非常に重要なサービスとなっているクラウドコンピューティングでは、非常に高密度なサーバ構成を採るため、高消費電力のラックが標準的になりつつあります。ラリタンのPDUならば、最大で400Vの三相電源によって30A/60Aの電流を実現し、17kW/33kWの電力を供給することができるため、このニーズにマッチしています。