アカデミー賞の監督賞を2回、脚本賞を1回獲得しているオリバー・ストーン監督の最新作『野蛮なやつら』が8日に公開される。同作は映画『キック・アス』(2010年)で主演を務めたアーロン・テイラー・ジョンソンや映画『ジョン・カーター』(2012年)のテイラー・キッチュ、TV「ゴシップガール」のヒロインであるブレイク・ライブリーなど、今をときめく俳優が登場することで注目を集めているが、この作品の題材である"麻薬戦争"を、ベトナム戦争に実際に参加し、"本物の戦争"を知るオリバー・ストーン監督がリアルに描いた作品であることも注目すべき点だ。原作(ドン・ウィンズロウのベストセラー小説『野蛮なやつら』)をより"リアル"にこだわって映像化したという監督に話を聞いた。

オリバー・ストーン
1946年9月15日、米ニューヨーク州生まれ。ベトナム戦争時代の1967年に陸軍に志願し、従軍。帰還後、ニューユーク大学で映画を学び、映画『邪悪な女王』で監督デビュー。アラン・パーカー監督の映画『ミッドナイト・エクスプレス』(1978年)の脚本でアカデミー賞の脚本賞を獲得すると、1986年には自身のベトナム戦争体験を反映させた『プラトーン』(1986年)にてアカデミー賞の監督賞を受賞、その後も『7月4日に生まれて』で二度目のアカデミー賞の監督賞を受賞している。そのほかにも、監督作品として『ウォール街』(1987年)、『トーク・レディオ』(1988年)、『ドアーズ』(1991年)などがある

――まず、この作品の制作期間などを教えて下さい。

オリバー・ストーン監督「撮影期間は58日くらいかな。今回はスタジオでの撮影をほとんど行わず、ロケにこだわったんだけど、ロケはロサンゼルスとインドネシアで行ったんだ。予算も携わったスタッフの人数もハリウッド映画としては中規模のものと言えるだろうね」

――『JFK』(1991年)や『ニクソン』(1995年)、『ブッシュ』(2008年)など、政治を題材とした作品を多く撮られていますが、今回の作品を制作しようと思ったキッカケを教えて下さい。

オリバー・ストーン監督「僕はどうも誤解される人間で、堅い作品を撮影する一方で、『ナチュラル・ボーン・キラーズ』(1994年)や『Uターン』(1997年)といった、わりと堅くない題材の作品を撮ると"彼らしくない"などと言われことがあるんだ。だけど、僕から言わせてもらえば、そういった政治の絡む作品を撮ると毎回批判されてしまい、個人的には"正しく"判断されていない気がしてしまうんだよ。自分としては色々なジャンルの作品を撮っていることに違和感はないし、むしろ普通なことだと思っているよ。だから、僕としては、周りの人が"これはオリバー・ストーンじゃない! "と思わせる作品を世に出していきたいと思っているんだ」

――なるほど。

オリバー・ストーン監督「同じジャンルの作品ばかりを作っているというのは、映画制作ということだけでなく、あらゆるクリエイションを考えたときに、最悪なことだと思うんだ。同じようなものをまとめていることになるからね。だから、観客には、"この監督ならこういう作品だろう"という先入観をもたずに、映画を観るときは、誰が作ったかなんて気にしないで観てほしいね」

――この作品に出てくるリアルに描かれた残虐なシーンは、監督ご自身がかつて陸軍に所属し、戦争に参加した実体験に基いているものなのですか。

オリバー・ストーン監督「そういったシーンに関しても、とても現実的に描きたいと考えているよ。この作品の場合、クライマックスでスナイパーが出てくるシーンがあるんだけど、それは"実際にああいう風な状況になったら"と考えた結果なんだ。あれは自分なりのクリエイションだったと言えるね。また、これまで自分が作ったアクションや暴力シーンは基本的には自分自身がこれまでに経験したことをべースにしているんだ」

――本作はドン・ウィンズロウのベストセラー小説『野蛮なやつら』を原作としたものですね。

オリバー・ストーン監督「原作は"別の動物"だと思っているよ。(映画と小説は)別の種族だからね。だけど、今回の原作に関しては、とてもフレッシュでオリジナルで、この後どうなるんだろうと思う、数少ないものだったね。でも、この小説をすべて映画で描こうとすると5時間ほどの作品になってしまうので、絞っていかなくてはいけなかったけど。あと、原作から変えた点としてはジョン・トラボルタが演じたデニスというキャラクターだね」

――では、監督の独自の考えがジョン・トラボルタの演じたデニスというキャラクターに詰まっていると。

オリバー・ストーン監督「原作の終わり方はとてもロマンチックで、僕自身、それはそれでとても良いと思うんだ。だけど、この題材の場合、現実には原作のような終わり方にはならないと僕は思っている。だから、ジョンの役に原作以上の知性を与えた。もし、この話が現実だったら終わり方は違うという意志を込めてね。現実味をもたせるためには彼に知性を与えなかればならなかったんだ」

ラグーナ・ビーチを拠点とする2人の若き実業家、平和主義のベン(アーロン・テイラー・ジョンソン)と親友の傭兵経験のあるチョン(テイラー・キッチュ)。彼らが始めた事業(高品質なマリファナの栽培)は大成功を収める。二人は幼馴染の美女オフィーリア(ブレイク・ライブリー)との一種独特な恋愛関係まで共有する仲だ。しかし、メキシコの麻薬組織が、この三人を支配下に治めようと進出し、オフィーリアを拉致。脅迫してきたことから事態は一変する。ベンとチョンは、麻薬組織バハ・カルテルに勝ち目のない戦いを挑む

――監督は常に映画の最新技術に興味を持っているとのことでしたが、IMAXなどにも興味があるのでしょうか。

オリバー・ストーン監督「IMAXは3D映像がとても美しいね。まだIMAXカメラで撮影したことはないんだ。時間もお金もかかるからね。だけど、『ライフ・オブ・パイ』IMAX3D版を観て、是非撮影にIMAXカメラを導入したいと思ったよ」

――最後に、将来監督のようにハリウッドで活躍したいと思っている日本のクリエイターにアドバイスをお願いします。

オリバー・ストーン監督「僕は脚本を書くところからキャリアをスタートしたわけだけど、まず脚本のことを徹底的に学んだんだ。また俳優学校にも通い、色々な人が演技するのを見て、色々な監督がどう演出するのかを見てきた。あと、とにかく本をたくさん読んで、映画をたくさん観ること。そして一番大事なのは基礎をしっかり学ぶことだと思うよ。走る前に、まず歩かなくてはいけないからね。だから、脚本を自分で書いて、最初は低予算なものでもいいから、とにかく何かを作ってみることが大切だね」

映画『野蛮なやつら/SAVAGES』は、2013年3月8日より、TOHOシネマズ みゆき座ほかで公開。

(C)Universal Pictures