インターナルクラウド構築の次のステージとは

Cスタジオ 代表取締役社長 千貫素成氏

2010年、「ITによる豊かな未来社会の創出」を掲げて株式会社Cスタジオを設立し、企業の経営改革支援に携わる千貫氏。氏の前職は日本を代表する大手メガバンクのIT部門で、長年にわたってミッションクリティカル業務を支える堅牢なシステム基盤やアーキテクチャの構築を手がけてきた経歴を持つ。そんな千貫氏が現在、世の企業に広く訴えていきたいとして注力しているのが、仮想化/クラウド時代に対応したシステム基盤のあり方である。

近年、社内に散在する複数のサーバやストレージを集約・統合する目的で仮想化技術の導入が加速し、現在ではプライベートクラウドやインターナルクラウドと呼ばれるクラウドコンピューティング技術の活用へと発展している。千貫氏の会社でも、この数年来、オープンソース・ソフトウェア(OSS)を活用したPaaS(Platform as a Service)型のインターナルクラウドを提案し、顧客企業の導入を多数支援してきたという。その経験を踏まえて同氏は次のように語る。

「インターナルクラウドは、今や多数の大手企業がすでに採用し、必然的な選択にはなってきています。でも、実際にメリットを享受できているのかというと、まだ至っていません。現在、顧客と一緒にチャレンジをしているところです」。千貫氏は、現在のようなPaaSやIaaS(Infrastructure as a Service)の構築でとどまっていてはメリットを得られず、インターナルクラウドの構築に関する考え方自体を根本から見直す必要があると指摘する。「IaaS型でインターナルクラウドを構築して、それで運用にかかわる要員を減らして他の業務に振り向けることができているでしょうか。答えはノーで、まったく減っていない。本当にインフラ運用を合理化していきたいなら、DevOpsの考え方まで突き詰めていく必要があるでしょう」

インフラ運用の概念を塗り替えるDevOps

アジャイル開発の最前線に立つエンジニアたちが提唱し、2011年頃から急速に広まってきたDevOpsは、「開発と運用の協調・一体化」といった説明がなされる新しい考え方だ。「プログラマーがインフラの開発と運用の両プロセスで主導権を握るDevOpsは、Amazon Web Services(AWS)が以前から掲げてきた「プログラマブル・データセンター」のコンセプトをまさに具現化するもので、運用側にとっては既成概念を塗り替える破壊性を持っています」と千貫氏。このDevOpsの方法論を取り入れて、短期間でイテレーションと呼ばれる反復型開発プロセスを繰り返してゴールに向かうアジャイル開発のスタイルを、運用プロセスにも適用していくというのが同氏の提案だ。

千貫氏によれば、現行の一般的なインターナルクラウドでは、APIが仮想化セルフサービス・ポータルからしかコールされてなく、結局は人間の手を煩わせていたという。「そうではなく、APIを活用してプログラマーがみずからデータセンター自体をコーディングしていくのです。これにより、業務システムの要件定義の段階から、データセンターの要件定義もなされていくことになります」と千貫氏は説明。同氏自身、現在顧客とDevOpsに基づくシステム基盤の刷新プロジェクトを進めており、取り組む意義の大きさを実感しているという。

仮想化/クラウド時代に求められるシステム基盤のグランドデザイン

「DevOpsの世界では、インフラ運用という概念すらなくなっていきます」と千貫氏。アジャイル開発のスタイルを取り入れた際、エンジニアは、エンドユーザー、すなわちプロダクトオーナーと密にコミュニケーションをとりながら、1週間単位のサイクルで受け入れテストを小刻みに繰り返すことになる。「つまり、受け入れと実装をもの凄いスピードでやらないといけないので、開発環境として必然的にパブリッククラウドも活用していくことになります」と千貫氏。アジャイル開発の環境は、チケット管理システムやコミュニケーションツール、GitHubのようなソースコード管理システムなど、すべてをSaaS型のパブリッククラウドが担っている。

その際に解となるのがハイブリットクラウドによる共通基盤である。千貫氏は、その構築にあたって必要になるものとして、データ連携基盤と認証基盤を挙げ、次のように説明する。「ハイブリッドクラウドの共通基盤を構築していく際に、各種のシステムやサービスをバラバラにつないでいくと当然、セキュリティホールが発生しますので、統制をかける仕組みが必須で求められます。外部との連携はすべて、ハイブリッドクラウド構築・管理チームが用意した枠組みの上で行わせるような統制の仕組みであり、それを実行するサーバ・ハードウェアにも確かな選択が求められるでしょう」

「無論、事務処理系システムのようなアジャイル開発のスタイルが向いていない領域もあります。したがって、DevOpsをエンタープライズシステムに適用していくうえでは、適材適所のアプローチが必要になります。オフショアで経済的なメリットが出るのであれば、ウォーターフォール開発でインターナルクラウドを選び、しっかり統制をかければよいわけです。一方、ネットビジネスやコンシューマー向けビジネスではやはりアジャイル開発で、ピボタルに変化に対応していくのが当たり前になっています。よって、私からのメッセージは、大企業も両方のスタイルを柔軟に使い分けられるよう、仮想化/クラウド時代のシステム基盤のグランドデザインを描きましょう、ということになります」(千貫氏)

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千貫氏は、2月6日(水)に開催される「マイナビニュース仮想化セミナー【Day1】コスト削減とリスクヘッジを実現する今後の仮想化環境 ~Red HatとIBMが提供するローリスクなOSSの活用~」に登壇する。セミナーでは、ここでは紹介できなかった、DevOpsの推進を支援する有用なOSSツールや、最近の潮流となっているサーバサイドJavaScriptの活用なども紹介・解説される予定だ。 ビジネス環境変化の激しい今の時代にふさわしいシステム開発・運用のありかたを検討している企業ユーザーにとっては、必聴のセッションとなるだろう。