宇宙航空研究開発機構(JAXA)は12月26日、相模原キャンパス(神奈川県相模原市)において、現在開発中の小惑星探査機「はやぶさ2」をプレス向けに公開した。小惑星イトカワに着陸し、2010年6月に地球に帰還した「はやぶさ」の後継機。現在、探査機の構体と太陽電池パネルのフライト品が完成したところで、今回初めて披露された。

公開された小惑星探査機「はやぶさ2」。まだ開発中のため、完成時とはだいぶ様子が異なる

これは1/20スケールの模型。下面の中央にある円筒形の装置が、今回注目の「インパクタ(衝突装置)」

「はやぶさ2」での変更点 - じつは背も伸びた

「はやぶさ2」は、大きさ1.0m×1.6m×1.25m(本体)、重さ600kg(推進剤込み)の小惑星探査機である。初代の「はやぶさ」と同様にサンプルリターンを目的とした探査機で、打ち上げは2014年12月を想定。帰還は2020年末になる見込みだ。

今回、公開されたのは、完成した構体と太陽電池パネルに、ダミーウェイトを取り付けたもの。ダミーウェイトは、現在実施している振動試験用に装着されているもので、本来の搭載機器と同じ重さ・重心になるよう作られている。振動試験では、探査機に打ち上げ時の振動を加えて、各部に過度な振動が発生していないかを確認する。

探査機の斜め後方から撮影。構体と太陽電池パネルはフライト品だ。構体は8枚のアルミハニカムパネル(外周の6枚+内部の2枚)で構成されている

この4つの穴にはイオンエンジンが搭載される。手前にあるのがイオンエンジンのダミーウェイトで、穴の奥に見えるのは推進剤タンクのダミーウェイト

上に飛び出ているパイプのようなものが目立つが、これはミドルゲインアンテナのダミーウェイトとのこと

左側面方向から。片翼あたり3枚の太陽電池パネルは畳まれており、探査機本体の側面は見ることができない

傘が付いているのがサンプラーホーン。このサンプラーホーンもフライト品だという。その手前にある円筒は、小型ローバー「ミネルバ2」用のケース

反対側の側面から見たサンプラーホーン。「ミネルバ2」は合計3台搭載されるので、こちら側にも円筒形のケースがある

探査機の前面側には回り込めなかったのだが、この写真でギリギリ見えているのは帰還カプセルのダミーウェイト

探査機が乗っているのは垂直方向への振動を加える試験台。探査機からは、加速度センサーの赤いケーブルが伸びている。手前にあるのは水平方向の振動台

初代「はやぶさ」からの主な変更点は以下の通り。

搭載機器の比較(1)

搭載機器の比較(2)

まず外観で目立つのは、パラボラ型のハイゲインアンテナが、2枚の平面アンテナに置き換わること。このうち1枚は初代と同じXバンド(7~8GHz)用のものだが、もう1枚は周波数が高いKaバンド(32GHz)用のものとなっており、より高速な通信が可能になる。冗長性を確保すると同時に、より多くのミッションデータを送信できるようになる。

小惑星まで往復するためのカギとなるのが、燃費に優れるイオンエンジン。4基搭載することは変わりないが、1基あたりの推力は8mNから10mNに向上している。初代では、打ち上げ直後に1基が不調になったり、帰還前に中和器の寿命が問題になったりしたが、こうした信頼性や寿命についても改善が図られている。

注目したいのが新規開発の装置「インパクタ(衝突装置)」だ。この装置は、爆薬の爆発によって2kgの銅製の衝突体(ライナー)を秒速数kmに加速、小惑星表面にぶつけて直径数mの人工クレーターを作るというもの。表面物質は宇宙風化により変質しているのだが、作成したクレーターに着陸すれば、風化前の内部物質のサンプル採取が可能となる。

「サンプラー(試料採取装置)」については、大きな変更はないものの、サンプラーホーンの先端の内側に爪を追加して、採取量を増やすような改良も行われている。また、弾丸を発射するプロジェクタは3本から4本に増加、サンプルを格納するサンプルキャッチャーの内部は2部屋から3部屋へと部屋数が増えている。

分離して小惑星に投下する小型ローバーは、初代では「ミネルバ」1台だけだったが(イトカワへの着陸には失敗)、「はやぶさ2」ではこれと同等の大きさのものを3台搭載する(総称として「ミネルバ2」と呼称)。また欧州が開発する小型ランダー「MASCOT」も搭載する予定だ。

初代「はやぶさ」は、S型と呼ばれる岩石主体の小惑星が目的地であったが、「はやぶさ2」は有機物や水の存在が期待されるC型小惑星の1999JU3に向かうため、観測装置も変更。「近赤外分光計」や「中間赤外カメラ」などを搭載する。近赤外分光計は初代にもあったが、水の吸収帯が見えるよう観測波長を変えている。

探査機の構体は同じように見えるが、じつは初代に比べ、大きさは高さ方向に15cm延長されており、重さは100kg近く増える予定。これらの増加分は、前述のような新規開発装置の追加や、初代で発生した不具合の対策などのために割り当てられている。

打ち上げまであと2年、待ったなしの開発

「はやぶさ2」の開発はすでに始まっているものの、国の財政状況が厳しい中、開発に必要な予算が満額認められるかどうかは予断を許さない状況で、開発の遅れが懸念されている。打ち上げ時期は2014年12月を想定しているが、もしこれに間に合わなかった場合は、次の打ち上げチャンスは10年後。事実上、プロジェクトの継続は不可能になる。

C型小惑星からのサンプルリターンには大きな科学的意義があるが、C型が多く存在するのは火星・木星間のメインベルト。地球から遠すぎて、「はやぶさ」クラスの探査機では、往復することができない。ところが1999JU3はイトカワ同様、地球近傍の軌道にある小惑星で、大きさや自転周期も着陸の条件にあう。ほとんど唯一の探査可能なC型小惑星だ。

「はやぶさ2」のミッションを実現するためには、どうしても1999JU3に行く必要がある。しかし、地球から他天体に向かう場合には、目的の天体の位置や軌道により、打ち上げられる時期は限られる。「はやぶさ2」の場合、これが2014年12月というわけだ。

「はやぶさ2」が目指すことには、3つの意義がある

ミッションシナリオ。初代にはなかったミッションも

小惑星の選定方法。この条件を満たすのが1999JU3

1999JU3について。正確な形はまだ分かっていない

JAXAの國中均・はやぶさ2プロジェクトマネージャは、「2014年の打ち上げは死守したい」と強調する。一応、翌年の2015年6月と同年12月にも、「軌道は確かに存在する」(同)。だが、いずれも2018年6月という到着日は変わらないため、打ち上げが遅れれば遅れるほど、イオンエンジンの運用には無理が生じてくる。

國中均・はやぶさ2プロジェクトマネージャ。初代の開発では、イオンエンジンの担当者だった

2014年12月の打ち上げであれば、イオンエンジンの稼働率は80%ですむ。しかし、1年後の2015年12月になってしまうと、小惑星に到達するために96%の稼働率が求められる。これは1週間に7時間しか休めない数字。「地球と通信するために5~6時間は停止しないといけないので、ほとんど限界一杯の条件」(同)なのだ。トラブルが起きた場合、挽回するのも難しくなってしまう。

現在、相模原キャンパスにある「はやぶさ2」だが、年明け早々には筑波宇宙センターへ輸送され、音響試験を実施。1月中旬に相模原へ戻り、電気噛み合わせ試験やコンポーネントの性能試験などを行い、来年10月からは最終コンフィギュレーションの製造に着手、2014年夏頃までに完成させる計画だ。今後も随時、公開が行われる予定とのことなので、引き続き「はやぶさ2」に注目していきたい。