早稲田大学(早大)は12月26日、放射能の密封性を損なうことなく水対燃料体積比を低減できる、核燃料棒を隙間なく束ねた新燃料集合体を考案し、世界で初めて「軽水冷却原子炉による高増殖性能」を計算上ではあるが達成することに成功したと、同大大隈会館(画像1)にて行われた会見にて発表したので、その画期的な発表の模様をお届けしたい。

会見を行ったのは、早大理工学術院 先進理工学研究科 共同原子力専攻の岡芳明特任教授(画像2)。今回の発表に関する詳細な内容は、12月21日付けで「日本原子力学会欧文誌」オンライン版に掲載された。

画像1。早稲田大学のマスコットキャラクター「WASEDA BEAR」の人間大サイズのものが展示されている大隈会館にて会見は行われた

画像2。今回の発表を行った早稲田大学の岡芳明特任教授

国内では「もんじゅ」がそれに当たる「高速増殖炉」は、発電をしつつ消費するよりも多くの核分裂性物質(燃料)を生成できるため"夢の原子炉"と呼ばれ、世界中で研究開発が行われている。その主流である「ナトリウム冷却高速炉」は冷却材として液体ナトリウムを用いるための対策設備が必要で、まだ実用化に至っていない。

また、日本でも建設数の多い軽水冷却原子炉(加圧水型、沸騰水型、改良型沸騰水型など種類は複数ある)での高増殖性能も長い間にわたって研究されているが、こちらも今もって達成されていない。

もんじゅが莫大な費用をつぎ込みつつも現時点で実用化されていないことからわかるように、軽水冷却発電技術の延長上で高速増殖炉を実現できれば、使用済燃料処理処分やウラン資源有効利用のための核燃料サイクル実用化の途が開けることから、非常に望ましいのは説明するまでもないだろう。

使用済燃料を再処理し、核燃料サイクルを産業として実現することは、資源の有効利用のみならず、放射性廃棄物問題への対応の点でも必要なのである。

国内では、2011年3月の東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所の事故に伴い、原子力発電は一般的には否定的な意見が大勢を占めており、今後、段階的に廃炉にされていく方向だが(建設中の発電所も複数ある)、実は世界では原子力発電は進められている(ドイツのように原子力からの脱却を決定した国家もある)。

よって、使用済燃料の処分方策としての核燃料サイクル技術を確立することは、日本の原子力発電技術を国際展開する場合に、使用済燃料処分のオプションを提供できる点で日本の立場を強化できるというメリットもあるというわけだ。

原子力発電技術の開発の歴史は、1970年代に入って軽水炉の実用化時代の長期化を背景として、高転換軽水炉が世界的に研究されるようになり、日本国内ではメーカーや研究開発機関による研究が行われてきた。

これまで最高の増殖性能を示したものは「軸方向二重非均質炉心」の「低減速沸騰水型炉(RMWR)」である。しかし、「核分裂物質炉心装荷量」が大きいため「複合システム増殖時間」は約245年もあり、液体金属冷却炉のような高い増殖性は達成できておらず、そこが弱点となっていた。

ちなみに複合システム増倍時間は「複利システム増倍時間」とも呼ばれ、単純にいうと、生成されるプルトニウムなどの核分裂性物質(燃料)の量が最初に使い出した時の2倍になるまでの年数のことである。

この場合の計算は、最初に複数の高速炉を稼動させていた1基分の燃料が生成されたら、ただちに新たに1基の高速炉を追加で稼動させ、またもう1基分が生成されたら、さらに次の高速炉を稼動させるというもので、どんどん増える量が増していく仕組みだ。

この複合システム増殖時間は50年を切ることが、理想としてされている。その理由は、日本を含む先進7カ国の平均的なエネルギー需要の伸びが約50年で2倍になると計算されているからだ。

エネルギー需要の伸びは国民総生産(GDP)の伸びと比例関係にあり、経済協力開発機構(OECD)のデータによると日本を含む先進7カ国の最近の10年間の平均成長率は1.4%。結果として、約50年でエネルギー需要が2倍になるので、複合システム増倍時間は50年を切ることが望ましいとされるのである。

それには増殖性能を向上させる必要があり、その対応方法としてこれまでの研究から判明していることが、水対燃料体積を低減させることだ。つまり、水/燃料の値を小さくするということであり、水の体積が同じなら燃料の体積を増やすか、燃料の体積が同じなら水を減らすということだ。これまでのところRMWRでは、燃料棒の間隔を狭くした稠密燃料格子を用いることで水対燃料体積の低減が実現されている。

そして今回、岡特任教授らが考案したのが、水対燃料体積比をさらに低減する構造であり、それは燃料棒を隙間なく束ねる新燃料集合体を用いるということだ(画像3)。その新燃料集合体の内の3本を拡大し、燃料棒で囲まれる流路(燃料格子)を示したのが画像4である。

燃料集合体は隙間なく束ねられており、3本の燃料棒で囲まれる領域の中央に円管状の流路がある構造だ。これにより冷却流路面積が減って、水対燃料体積比が低減するというわけである。ただし、円環状の流路がもっとも冷却効率的に見て優れているかというと、そうではないため、もっと隙間に合わせたような形も研究しているという(画像5)。

新燃料集合体では、従来の燃料棒のように上下端で端栓が被覆管に溶接されているので、燃料棒の放射能の密封性を損なうことなく水対燃料体積比を低減できる。

画像3。新燃料集合体。燃料棒同士が接しているのが特徴

画像4。新燃料集合体の内の3本の燃料棒を拡大したもの。常に燃料棒3本に囲まれる形で冷却水が流れるようになっている

画像5。円環でない冷却水流路の例。あまり隙間に沿って角をとがらせてしまうとそれはそれで問題が発生してしまうという

今回の新燃料棒を用いた「軽水冷却増殖炉」の設計計算も行われ、最高の増殖性能が得られた炉心の配置図の水平断面図が画像6で、軸対称の垂直断面図が画像7だ。

RMWRとの特性比較をまとめたのが、画像8の表。さらにほかの多数の方式と増殖性能の比較をしたのが、画像9の表である。そして、軽水冷却増殖炉のより詳しい特性をまとめたのが画像10の表だ。

画像6。炉心配置図の水平断面図

画像7。炉心垂直断面図(軸対称)

画像8。増殖性能の比較

画像9。ほかの多数の方式との増殖性能の比較

画像10。軽水冷却増殖炉の特性

なお、新燃料棒を用いた場合の増殖性能(複合システム増倍時間)は43年であり、RMWR(低減速BWR)の5分の1以下という非常に高性能を実現している。50年を切っており、前述した日本を含む先進国の平均的なエネルギー需要の伸びを上回る高増殖性を達成できる計算だ。

ちなみに画像8の増殖性能の比較では、熱出力型軽水冷却増殖炉ではRMWRの3分の1以下だが、これは炉心のサイズなどが同じではないためで、性能的に劣っているということではないそうである。

今後は、まず今回の設計値が、第4世代として現在世界中で開発が進められている「スーパー軽水炉」「スーパー高速炉」と呼ばれる「超臨界圧軽水冷却原子炉」(画像11)のものなので、現行の沸騰型軽水炉の条件での設計を行うとしている。そのほか、安全性の確認、温度分布なども含めた新燃料集合体の詳細設計と試験、原型炉での性能確認などが挙げられた。

実際に原子炉を開発しての実機による試験などは、メーカーや日本原子力研究開発機構などの範疇となるため、今回の「理論上は可能である」という発表は、メーカーや日本原子力研究開発機構などに影響を与えることを狙いとしているという。今後、メーカーなどから岡特任教授へ協力の要請があれば、いつでも行うとしている。

今回の発表は計算上のものではあるが、発電用に長年用いられてきた軽水冷却技術により高増殖が可能になることから、波及効果や社会的影響として大きいのは間違いない。

経験豊富な軽水炉の技術を用いて高速増殖炉が実現し、大量の使用済み核燃料の処理処分、核燃料サイクルの実用化の展開をもたらし、原子力の国際展開、平和利用に役立つという意味を考えれば、重要な意義を持つ発表であるといえる。