東京スカイツリーのふもとにある「すみだ水族館」のロゴデザインを手がけたデザイナー・廣村正彰氏。同氏がロゴマークに込めた想いについて語っていただいた後、ロゴと共に手がけた館内の「サインデザイン」についてもお話を伺った。
廣村正彰 |
数あるデザインの分野の中で、サインデザインはあまり派手な存在ではない。しかしその一方で、ほぼ毎日誰もが目にしているものでもある。商業施設や公共空間など、数多くのサインデザインを手がけてきた同氏は、同館のサインデザインにどのような想いを持っているのだろうか。
――廣村さんはすみだ水族館のロゴのデザインだけでなく館内のサインデザインも手がけていらっしゃいますね。
実は、順序が逆で、当初の依頼はすみだ水族館のサインデザインだったんです。その流れで、結果的にロゴマークのデザインも手がけることになりました。
――「サインデザイン」は普段誰もが目にしているものの、ピンと来ない人が多いかと思われます。すみだ水族館の事例の前に、簡単にご説明いただけますでしょうか。
通常言われるサインデザインというのは、とある目的地に誘導するとか、その中身をグラフィカルに表示するというところだと思うんですね。あるいは水族館の説明板のように、情報をきっちりまとめるのもサインデザインのひとつです。
――では、「すみだ水族館」のサインデザインを行うにあたって、工夫された点は何ですか?
この水族館をデザインするにあたって、子どもはもちろん、大人や知識のある方にも耐えうる館であるべきだと考えて、求めれば深くまで入ってこられるサイン計画を目指しました。
エリア分けや展示の説明なども含めて、辞書のようにしたいなと思ったんですね。まずは大きく"どういうものか"ということがわかる。そして、もっと知りたければある程度のところまで現場で知ることができる。そこから先は、インターネットを使ってもっと深くまで潜っていける……といった形で、いくつかの段階を経て理解できるようにしたい、と思いました。
また、水族館に限ったことではなく、日本は昔からユーザーをかなり手厚く扱うところがあります。ユーザビリティやUD(ユニバーサルデザイン)といったことにも、すごく熱心ですよね。一方、海外では、ある程度のところまではきっちりやりますが、あとは自己責任というところが大きい。日本の場合は、ユーザーを手厚く保護するがために、環境やグラフィックが損なわれるケースが多いんです。
そこで、ある程度のところまでは示して、それ以降は各人の本来持っている能力を出してあげるような展示の仕方と情報のあり方を目指しました。その一手段として、生き物はエッチングのような絵で描いてあります。実際の色は展示されている生物を見てもらい、文字情報で生息地などの簡単な情報を示して、自分で感じてもらう。来場者と常にある一定の間隔を取っているような形で計画を進めました。
――すみだ水族館のサイン計画で、特に印象に残っているエピソードは何でしょうか?
水族館は基本的に暗いので、トイレのサインがとても重要になるんです。なるべくならサインは小さくつけたいのですが、大きめにして色もつけて、何カ所にもつけないといけない。実は今回も何度もそういった点で指摘を受けて変更を加えました。
もちろん、数や大きさなどで解決できる問題もあるんですが、僕は本質的な問題は解決しないのではないかと思っています。トイレというものが、"本当は行きたくないところだけれども行かないといけないところ"というような位置づけになっているわけなんです。
ですが、多くの施設でトイレは環境の一部であると思って作られていて、すみだ水族館でもトイレはとても丁寧に作られています。だから、ぜひ入ってみてほしい。そう思った時に、すみだ水族館のトイレに期待できるようなサインにしたかったんです。つまり知らず知らずにトイレに入ってみたいという気持ちがインプットされることが重要なのではないかと思うんですね。