普段から漫画をよく読むという方でも、あまり手を出さないジャンル――それがレディースコミックではないでしょうか。男性はもちろんのこと、女性でも何となく"18禁"的なイメージから敬遠している方も多いのではないかと思います。

しかし、だとすれば非常にもったいないと言わざるを得ません。

レディースコミックと一口に言ってもさまざまな作品があり、決して18禁漫画ばかりというわけではないのです。そもそも"レディースコミック=エロ要素を含む"というイメージ自体が正しいとはいえないのですが、その話は長くなるのでおいておいて、とにかくレディースコミックにも読みやすくてすばらしい作品はたくさんあるということを言いたいのです。

電子化資本サイト「Renta!」では、そうしたレディースコミックのラインナップが非常に充実しています。本屋さんで手に取るよりも物理的にも精神的にもお手軽に読むことができますので、先入観をいったん抜いていただいてご覧になってはいかがでしょうか。

……え? 何を読めばいいかわからない?

大丈夫、これから万人にオススメできるレディースコミックを紹介していきますから。

まんがグリム童話 オズの魔法使い

『まんがグリム童話 オズの魔法使い』(ぶんか社刊)

『オズの魔法使い』といえば、世界中にその名を知られた有名な童話です。アメリカ・カンザス州に暮らす少女ドロシーが竜巻に巻き込まれ、飼い犬のトトと一緒に「オズの国」へ飛ばされてしまうというファンタジックな物語に心をときめかせた方も多いことでしょう。

本作はそんな「オズの魔法使い」を、設定やストーリーはそのままに独自の味付けを施し、再構築した新生「オズの魔法使い」。童話なんて……とか、原作を読んだことあるし……とか思っている方にこそ読んでいただきたい傑作です。

本作の人物や世界観は基本的に原作を踏襲しています。ドロシーは竜巻に巻き込まれて愛犬のトトと一緒にオズの国へ飛ばされ、そこで脳みそのないカカシや心を失ったブリキの木こり、勇気のない臆病なライオンといった仲間たちと一緒に大魔法使い「オズ」が待つエメラルド・シティへ向かうことになります。

……しかし、逆にいえば人物とストーリー以外はかなり独自の味付けが加えられています。まずドロシーはカンザス州で娼婦をしている23歳の女性ですし、オズの魔法使いに会いにいく理由は、オズがイケメンという話を聞いて「結婚したい!」と思ったから。さらに脳みそのないカカシは女性が大好きで道中でナンパばかりしているお気楽キャラで、ブリキの木こりは超毒舌、臆病なライオンは原作以上に情けない性格と、それぞれが一筋縄ではいかない濃いメンバーとなっているのです。

こんなメンバーが一緒に旅をするのだから、ストーリーの方もはちゃめちゃ。行く先々で彼らを待ち受ける困難を、時にはドロシーが文字通り"体を張って"解決していくのです(どういうことかはご想像にお任せします)。

しかし、それでも何となく原作通りにストーリーが進んでいくのが本作の面白いところ。決して原作を破綻させているわけではなく、むしろ忠実ですらあります。笑いあり、涙あり、時には少年漫画顔負けのバトルありと、あらゆるエンターテインメントの要素がつまった新約「オズの魔法使い」。Renta!でも非常に高評価な作品ですが、一度読めばその理由はすぐにわかるはず。文句なしにオススメの作品です。

賢者の石

『賢者の石』(ぶんか社刊)

舞台は中世ヨーロッパ。賢者の石を求めて旅する黒髪の美青年・ロレンツォを主人公に据えた歴史ファンタジー。とにかくストーリーテリングと画力が抜群で、非常に安定して面白い作品です。

物語の構成は、ロレンツォを主人公にした中編集。1巻に3~5話ほど収録されており、ヨーロッパの各地がお話の舞台となります。錬金術を操るロレンツォはキプロス王家の血を引く若者ですが、ある事情から国を離れており、至宝と名高い「賢者の石」を探して旅を続けています。賢者の石があると聞けばどんなところにでもフットワーク軽く向かうため、毎回さまざまな土地でさまざまな事件に巻き込まれることになります。

この事件というのが毎回バラエティに富んでいて、ミステリーやサスペンス的な話もあれば、ファンタジックなものあり、時にはホラーテイストのものありと、次から次へと新しい面白さを出してきてくれるため、まったく飽きることがありません。この引き出しの多さと、脚本の巧さは、さすが安心の秋乃茉莉クオリティといったところでしょうか。

15世紀頃の中世が舞台ということもあり、昔すぎず、現代すぎない絶妙な時代の空気感を楽しめるのがミソ。串刺公ヴラドの怨念さまようトランシルヴァニアの城や、古代ギリシア神話の神々の末裔が住まうという幻の島、「蛇遺座(オフィウクス)」、スペインの聖地サンティアゴ・デ・コンポステラなど、歴史・ファンタジー好きにはたまらない作品となっています。

お見送りいたします

『お見送りいたします』(ぶんか社刊)

葬儀社を舞台にしたちょっと珍しいコメディタッチのヒューマンドラマ。少し前にブームになった"おくりびと"と近い物語なのですが、非常に完成度が高くブーム云々無関係にオススメしたい一作です。

突然父親を亡くした中学3年生の戸叶望は、葬式の時に会った葬儀屋の雲居野ヒカリに恋をしてしまい、彼女に近づきたいがためにアルバイトとして同じ葬儀屋に務めることになります。

そんな望の視点からさまざまな葬儀の現実と人々のドラマを描いていく本作は、人間の死という普段あまり意識されていない人生の終着点をリアルに描き出していきます。もっとも、物語そのもののタッチはかなり軽めで、コメディとは言わないまでもクスっとくるシーンも数多くあり、死をテーマにしていても決して重くはありません(むしろ死を扱っているからこそ意識的に軽めのタッチにしているのかもしれません)。

また、雲居野さんに恋をする望の思いが果たして成就するのかといった恋愛ドラマの要素もあり、単なるヒューマンドラマにとどまらない面白さを味わうことができるのも魅力です。

もっとも、そうはいっても大テーマとなるのはやはり「人間の死」であり、「葬儀」です。現代の日本において人が死ぬというのはどういうことなのか。新米おくりびとの目線を通して、じっくりと考えてみてはいかがでしょう。