タイトル『009 RE:CYBORG』とともに並ぶキャッチは『終わらせなければ、始まらない』。完結させるだけではなく、新たな始まりも予感させている。

神山監督:「あそこで完結していないがゆえに、そこから先のエピソードをなかなか作れなかったと思うんです。もう一回リスタートするためには、単純にリブートして(過去を)忘れちゃって作る、という手もあるんですね。でもあれだけの作品なので、僕としても忘れる事はできなかった。そこを抜きにして『009』を描いても、なんとなく据わりが悪いなと。そして、完結してないがゆえに完結させて、それによって『009』をまた作れるんじゃないか。今回『RE:CYBORG』というタイトルに込めたのはそういう思いなんです」

『RE:』という文字はEメールの返信を思い起こさせる。石ノ森氏から読者に投げかけられたメッセージに対する、これが神山監督による返信なのかもしれない。


キャラクター性と"アニメらしい動き"の表現

今回、原作に比べてかなりリアル寄りになったキャラクターデザインを見て驚いた人も多かっただろう。しかし実際に完成した作品を見ると、原作のキャラクター"らしさ"は確実に引き継がれ、物語の中で大切に表現されていることが感じられる。

神山監督:「古くからのファンの方からすると、なぜ原作そのままでできないのかと思われるかもしれませんが、今回、立体視であるということがすごく大きいんです。立体視はなかなか(絵的な)"ウソ"がつけないんですね。おそらく、石ノ森先生の絵そっくりに見えるように、立体のキャラクター単体を作る事は可能なんです。でも、そうするとあのキャラクターが座れるイスとか、あのキャラクターに合わせておかしくないドアのサイズを作らなくてはなりません。マンガでは一枚絵の中で成立しているものでも、3Dで作ってみると、キャラクターが立ち去るとイスが不思議な形をしていたり、ドアに対してドアノブがすごく大きくなってしまったりするんです。

これは本当にジレンマなんですけど、アニメーションにする時はそういうのをどこかで吸収しなければなりません。手描きであれば、ある程度それが可能だった部分はあるんですけど、3D(立体視)ではとたんにバレてしまうんですね。人間に近い頭身にすることで、人間が乗るであろう自動車や、人間が座るであろうイスが、ようやく成立してくるんです。そういう技術的な理由もあって、どうしてもキャラクターをリニューアルせざるを得ない部分がありました。ただその中でも、リスペクトした上でのリファインという意識で、キャラクターのオリジナリティを可能な限り損なわないようにしたつもりです」

一方で、これまでの3DCGでは、モーションキャプチャや物理演算などでリアルな動きを追求するほど、アニメーションとしては違和感を与えてしまう、いわば"不気味の谷"が付いてまわる印象がある。しかし、本作はCGらしい"モーション"ではなく、セル画のようなタッチとともに、「コマを抜く」ことでセルアニメの動画のような動きを実現している。

神山監督:「映像では1秒間に24枚の絵が動いていますが、アニメーション、特に日本のリミテッドアニメーションと言われる手法では、1秒間に8コマか12コマなんです(=これを各3枚または2枚ずつ撮影することで24枚/1秒間の映像にしている)。CGでは、キーフレーム(=キャラクターの動きの要所になるポーズ)から次のキーフレームに向かって動きが作られるのですが、例えば24コマ中6コマかけてあるキーフレームから次のフレームに動くとするなら、それをあえて半分から1/3にしてしまいます。それも、ただ減らすだけでは見た目の印象が通常のモーションとそれほど変わらないんです。

手を右から左に動かすという動作を(リミテッドアニメーション的に)作るとすると、動かし始めはちょっとだけ動かして、スピードが出てくるから2枚目は大きく動いて、最後は止まる動作が入るから少しゆっくりになる。"タメツメ"と呼んでいるんですけど、(3DCGのモーションから)真ん中をごっそり抜くとタメツメになり、そこからさらにわずかな修正を加えて、抑揚がつくように動かしていく、というような作業を地道に繰り返すことで、悪く言えばぬるぬると動くような、従来のアニメと違う印象の動きではなくなるんですね」

従来のアニメーションでいう"原画"と"動画"の考え方が、CGの動き作りに取り入れられている。キャラクターを動かす作業が「鉛筆で描いて作る場合とそんなに変わらない」という理由はここにあったのだ。……後編へ続く

(C)2012『009 RE:CYBORG』製作委員会