『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』作者にして、著名ブロガー「ハックルさん」としても知られる岩崎夏海氏

津田:「岩崎さんは発表する場としての、ブログの延長上としてブロマガをとらえている?」

岩崎:「ブログは自分の意見を発信する場としてとらえていたんだけど、有料となるとパラダイムが変わります。僕ははてなでは暴れん坊で、ハックルさんというキャラクターができたんだけど、あれはブログというプラットフォームがあったからこそ生まれたもの。ブロマガになると、また新しいキャラクターが生まれるんじゃないかな。最近ツイッターを始めたんですけど、また新しいキャラが生まれています。最近、はるかぜちゃんに絡んでるんですが、あまりはるかぜちゃんオタからは絡まれなくて。なかなかツイッターだとはてなみたいなギスギスした感じにならなくて、もうちょっとギスギスしてもいいのになと」

津田:「岩崎さんと話すと、ちゃんと話してくれるモードになりますよね」

岩崎:「意外と良い人になっちゃうっていうね(笑)。気が弱いところがありますから」

川上:「はてなとツイッターと現実の岩崎さんと、同一人物に見えないですね(笑)」

津田:「ネットコンテンツは無料ばかりで有料は成立しにくいというのがずっと言われていました。佐々木さんは有料メルマガの先駆者の一人ですが、無料なら読むけどお金は出さないというネットの意識は変化してきていると感じていますか?」

ジャーナリストとして活躍する佐々木俊尚氏

佐々木:「難しい質問ですね。そもそもなぜメルマガをやっているかというと、ほかに課金モデルがなかったからというだけ。(メルマガは)97年くらいからある古臭いビジネスモデルで、こんなものに頼るつもりはなかったけど。将来的に目指すべきは、コンテンツのサブスクリプション(定期購読)モデルですね。英語圏であればキンドルやAppStoreのサブスクリプションがあって、実はあっちのほうが洗練されている。リッチコンテンツが可能で、テキストだけじゃなく動画や音楽も同時に配信できますから。意外と大事なのは、メルマガと違って取りこぼしがないこと。ぼくはメルマガの8割くらいを自前配信でやっているのですが、すると『届きません』というメールがたくさん届くんです。調べてみると、迷惑メールフォルダに入ってたというケースが大半です。メールというテクノロジー自体が古くて、そこに頼るのがおかしい。電子書籍のようなプッシュ配信が理想です。ところが日本ではそうした電子配信の強力なプラットフォームが存在しないので、メルマガに頼っている。つまりこれは、強力な配信プラットフォームが登場していない段階での、過渡的なビジネスモデルであることが明らかなんです。ドワンゴが今回、これ(ブロマガ)を始めたことで進化できるのか。いつまでもメールでやってるのはありえないんじゃないでしょうか」

川上:「メルマガが成功したのは、プラットフォームだったからなんです。サブスクリプションモデルというのは、まさに"プラットフォームを作る"ということだと思います。AppleにしてもAmazonにしてもコンテンツなわけで、これからのネット時代のコンテンツホルダーは、プラットフォームを取りに行かなきゃいけない。でもプラットフォームを独自で作るのは、これはこれで問題がある。ブログというものが登場して誰でも(コンテンツを)作れるようになったのと同じで、プラットフォームを手軽に作れるプラットフォーム、"プラットフォームのプラットフォーム"(を作ることが)がみんなが幸せになれる世界なんです。そんなものを僕らは目指している」

津田:「佐々木さんが、コンテンツに対するサブスクリプションのプラットフォームを作るのが大事だと言われましたが、もうひとつ有料メルマガが炙りだした論点って、"コンテンツに払っているのか、人に対して払っているのか"ということです。成功しているのを見ていると、中身がいいというよりも、この人だから払うというファンクラブ的なところがあります。このあたりはどうとらえていますか?」

佐々木:「定期購読モデルのいいことは、払っていることを忘れること。iモードの月額課金と同じで、月数百円だと忘れちゃうよねという。ファンコミュニティの概念って重要だと思っていて、ファンコミュニティを作るのは誰かという話になる。ユーザー管理をプラットフォーム側がやるのか、書き手の側に任せるのかは大きい(問題)です。まぐまぐとドワンゴは、(購読者の)メールアドレスを書き手に教えません。プラットフォーム側が管理していて、書き手は誰が(メルマガを)とっているのかもわからないわけです。するとプラットフォームの囲い込みになる。これは(プラットフォーム側の)戦略としてはきわめて正しいのですが、書き手としては読者との関係性を完全にプラットフォームに依拠してしまっていいのかという問題があります。ぼくが自前配信しているのはそこを手放したくないから。片方向のコンテンツ配信ではなくて、最終的にはコミュニティ化できないかなと思っています」……続きを読む