セルシスが5月に発売したMacにも対応する次世代ペイントツール「CLIP STUDIO PAINT PRO」。前編ではペイントソフトとしての基本となる描画ブラシを、中編では「CLIP STUDIO PAINT」ならではといえる、線画・マンガ作成機能を紹介した。シリーズ最終回となる今回は、便利な描画補助機能を紹介しよう。

【レビュー】次世代ペイントツール「CLIP STUDIO PAINT PRO」、使い勝手はいかに?(前編)
【レビュー】次世代ペイントツール「CLIP STUDIO PAINT PRO」、使い勝手はいかに?(中編)

精巧な作画をサポートする定規機能

CLIP STUDIO PAINTでは様々な定規機能が用意されている。定規とは、ガイドラインを設定し、描画時にそのガイドラインに沿って描くことができる機能だ。マンガでよく使われる流線や集中線といった効果線は、機械的な製図ではなく手描きのニュアンスを残すことで自然な動きや感情を描き出しているが、本製品にはこういった効果線を手早く描くための特殊定規が多く用意されている。中でも便利なのが、奥行き感を表現する「透視図法」のための3Dパース定規だ。消失点を設定すれば、フリーハンドでもそれぞれの消失点にきっちり沿うように線を描くことができる。

パース定規を使って三点透視で建物を作図してみた例。フリーハンドでサクサクと正しいパースを描くことができる

付属の素材も盛りだくさん!

また、本製品の目玉ともいえるのが、付属する豊富な素材だろう。収録素材以外にも、セルシスが運営するWEBサイトなどを通して、様々な素材が配布されているのも大きな魅力だ。様々な用途にわかれるが、代表的なものを紹介しよう。

・パターン/スクリーントーン
マンガ表現に欠かせない「スクリーントーン」は基本となる網点、万線、模様などを収録。どれもパターンの密度や角度をあとから自由に変更できるのが魅力だ。現物のスクリーントーンが1枚500円前後することを考えると、このトーン素材だけでも充分に元がとれる

豊富なスクリーントーンとパターン素材。基本の網点から、模様など様々な素材がある

・クリップアート系素材
マンガ用の背景素材、クリップアートなどが収録されている。クリップアートはデコレーションブラシとしても利用が可能だ。

背景などのクリップアート素材。カラー、モノクロ、線画と様々なパターンがある

・3D素材
画面上で自由に角度やポーズを変更できる3D素材として、人体と建物が収録されている。建物素材はマンガの舞台に多い学校、マンションなどが用意されている。また、たとえば教室では、内装を変更するパラメータが用意されており、机を木製のものに入れ替えたり、内装の色を変更することも可能だ。

人体はプレーンなデッサン人形と、キャラクター4体が付属している。自分でポーズをとらせることも、すでに用意されている様々なポーズを使うことも可能。 デッサン人形は体型を変化させたり、キャラクターは表情や制服、アクセサリーなどをカスタマイズできる。なお、自分で用意した3D素材も表示させることができる。読み込めるのはc2fr、fbx、lwo、lws、objフォーマットだ。

収録されている3Dの教室と人体。人体はポーズはもちろん、服装や髪型、表情まで変更することができる

これらの素材はそのまま背景に使ったり、下絵として参照することができる。3Dはオブジェクトを回転させたりポーズを取らせる操作に慣れが必要なのが難点だが、セルシスでは3D人体を自由にポージングできるフィギア型コントローラー「QUMARION」の発売を予定しており、より手軽にポーズ人形を利用できる日も近い。(なお、本ソフトではQUMARIONを同時に複数台接続することができるため、ソフト内の複数のキャラクターのポーズを同時につけることが可能だ)

フィギア型ポーズ入力デバイス「QUMARION」。フィギアにポーズを取らせると、ソフト内の3D人体も同じポーズを取る

「Tab-Mate Controller」にも対応

本製品は、同社が開発した左手用リモートデバイス「Tab-Mate Controller」にも対応している。このコントローラーはゲーム用スティックのような形状で、スクロール/拡大縮小/回転などの画面操作や、取り消し、スポイトなど、頻繁に使うツールのショートカット操作ができるというもの。実際に使ってみると、ショートカット操作のためにキーボードに手を伸ばさなくても済む上、ジョイスティックによる画面回転も非常に使いやすい。CLIP STUDIO PAINT PROでは、ボタンやジョイスティックに自分好みの機能を自由に割り当てることも可能なほか、クイックメニューに多数の項目を設定できる。また、今回、これまで未対応だったMacにも対応したとのこと。

別売りのTab-Mate Controller。ジョイスティックによる画面回転が使いやすい

ジョイスティックを傾けると画面上にメニューが表示されるクイックメニューを新たに搭載

さて、3回にわたって紹介してきたCLIP STUDIO PAINT PRO。これだけ豊富な機能と、プロユースに耐えうる基本性能を搭載しながら、1万円を切る低価格は文句なしだろう。入門者、ホビーユースには充分な性能だ。しかし、プロの目から見ると、手描きのイラストレーション作成機能は文句なしだが、CMYK表示、プロファイル埋込などカラー印刷に対する機能が無いこと、フィルタが少ないこと、スタンプツールがないこと、他のアプリケーションから画像をペーストできないことなど、いくつかの不満点もある。秋にリリースが予定されている上位モデル「CLIP STUDIO PAINT EX」および今後のアップデートでの対応が待たれる。

日本のアニメ、マンガスタイルの絵は我々には見慣れたものだ。しかし浮世絵がそうだったように、世界的に見れば日本独特の表現として評価されている。海外でも日本のアニメ、マンガを見て育った世代がこういったスタイルの絵を好む傾向が増えてきているという。日本のノウハウが詰まったこのアプリケーションが世界に与える影響は小さくないだろう。