KDDIがスマートフォン向け公衆無線LANサービスである「au Wi-Fi SPOT」において採用したのが、米Ruckus Wireless(以下、ラッカス)製の無線アクセスポイントとコントローラだ。これを利用したネットワーク構築を、三井情報が担当する。

ラッカスは、日本ではあまり馴染みのない社名だが、すでに世界市場で成功を収めているベンダーだ。2011年には日本法人も設立され、日本市場でのビジネスを強化しつつある。

米Ruckus Wireless CEO セリーナ・ロー(Selina Lo)氏

「元々はIP TVの分野でビジネスを始めました。当時おもしろいビジネスを探していたのですが、自宅でテレビ配線工事をした時にあまりにも不便だったので、ワイヤレスでテレビが使えればいいのにと考えたのが始まりです。この分野では十分な成功を収めましたが、IP TVそのものの成長を超えることはできないのが問題だと考え、2008年からはエンタープライズ向けのWi-Fi事業に着手しました」と語るのは、米Ruckus Wireless CEO セリーナ・ロー氏だ。

エンタープライズ向けの無線LAN機器は、シスコシステムズやアルバネットワークスが大きなシェアを持っている。大手企業が特にシスコシステムズ等の製品を採用していることが多い。これに対抗する方法として、ラッカスは中堅企業をターゲットにした。

「シスコシステムズやアルバネットワークスがフォーチュン500に載るような大企業をターゲットにするならば、我々はそれに入らない中堅企業を狙ったのです。Wi-Fiの世界ではシスコシステムズを採用する大企業と、バッファローのような家庭用機器を採用する中小企業という形に分かれていて、その間がありませんでした。そこを狙ってラッカスは展開しています」とロー氏。

ビジネスはアジア市場を中心に展開され、成功を収めた。日本での本格展開は2012年からとなるが、すでに数社での導入実績もある。

干渉のない通信を実現する技術でKDDIが採用

KDDIでの採用にあたっては、「au Wi-Fi SPOT」の採用試験中にリピーターに着目されたのがきっかけだ。

「他社のアンテナを利用して構築を試みたところ、屋内に十分な電波が届かなかったようです。そこでラッカスのリピーターを出して欲しいと言われたのですが、リピーターはあくまでローエンド向けの製品なので、それだけを提供する気はありませんでした。サポート体制も整えた上でアンテナごと担当させて欲しいと言ったところ、テストに参加できることになったのです。台湾から機器とエンジニアを送り込んだところ、パフォーマンスがよいということで選定されました」とロー氏は採用の経緯を語る。

日本では3G網が非常に発達していることもあり、公衆無線LANの整備が遅れていた。そこに爆発的なスマートフォンブームが到来したことで、各キャリアはネットワークの増強を迫られ、トラフィックを分散させる効率的な手法として公衆無線LANが注目されている状態にある。しかし、従来型の機器を多数設置するという方法では解決できない問題もあるようだ。

「多数の電波の中から自分が受けるべき信号かどうかを判別し、クライアントに直接信号を届ける技術がラッカスにはあります。公衆無線LANで大きな問題となる干渉に強いのです」とロー氏。ラッカスのアダプティブアンテナには60の特許技術と80の特許出願中技術が盛り込まれているという。

「KDDIでの採用決定から1年が経過し、全国に約10万のスポットが設置されています。日本オフィスも現在は3人ですが、今後さらに拡大したいですね。もちろんKDDI以外とのビジネスも展開したいと考えています」とロー氏は日本市場への期待を語った。

ラッカスのWi-Fiアクセスポイント。中央がKDDIに採用された製品