雄鶏と雌鶏の愛の下に生み出された卵は、適度な温度で温められることで3週間後にヒヨコになる。しかし孵化数日前の状態の卵を取り上げ、茹でて食べてしまう。そんな食文化が東南アジアから中国南部にかけて存在するのをご存知だろうか。この「未完成のヒヨコ入り茹で卵」は、タイで「カイハンハン」、ベトナムで「ホビロン」、フィリピンで「パロッ」などとそれぞれ呼ばれる。文字の国・中国に至れば「喜蛋」「破胎蛋」「活蛋」あるいは「毛蛋」など、その命名は実にダイレクトだ。
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アジア旅行時の珍食体験として紹介されることが多いヒヨコ入り卵だが、現在では東京都内でも一部のアジア食材専門店で購入が可能。筆者もネット上の情報をもとに、ヒヨコ入り卵を仕入れてみた。ヒヨコ入り鶏卵は10個入り1パックで1,000円。通常の鶏卵の5~6倍の値段だが、見た目に違いはない。
これを食すには、まず通常のゆで卵の3倍に当たる30分をかけて茹でるとのこと。鍋に張った水に卵を入れれば、面白いようにプカプカ浮き上がった。そのありさまに「産みたての新鮮な卵は水に沈む」との言葉は本当だと感心する。やがて沸騰する湯の中、卵は対流につられグルグル踊り始めた。
汁は「鶏がらだしの卵スープ」の味
30分かけて茹で上げた卵の「丸い部分」を丁寧に叩いて小さな穴を開ける。そこから耳かき一杯分の塩を落とした上で汁気をすすり込めば、「鶏がらだしの卵スープ」の味がする。多少の生臭みがあるものの、淡白な味わいで実においしい。次に全体の殻をむけば、薄緑色に固まった白身の表面は、網状の血管で覆い尽くされている。下側には歪んでへばりついた黄身と、関節らしきもの……。違和感を覚えながらもサクリとかみ切る。
その瞬間、硬く固まった白身の中から鶏肉そのままの味が広がる。細かい肉のスジと同時に羽毛らしきもの、細かい骨を舌先に感じるが、決して食欲を妨げるものではない。生まれかけの鶏肉は実に柔らかい。まさに滋味だ。
東南アジアでは精力剤や妊婦の栄養剤、あるいは軽食として広く親しまれているヒヨコ入り茹で卵。姿かたちの先入観など気にせず、ぜひ味わってみるべきだろう。