日本を代表するグローバル企業と聞かれた時、真っ先にソニーを思い浮かべる人は多いだろう。ソニーは戦後、トランジスタラジオ、ウォークマンと数々の技術を通じ、現在の「コンシューマー家電」カテゴリーを開拓した。だが、ここ数年はスランプに陥ったかのようにヒット製品が出ず、業績から見ても苦戦が続いている。

ソニーが2011年度の業績見直しを下方修正した後、Forbesのコラムニストがソニー失敗の原因を「産業経済学とMBA風のリーダーシップ」と分析した記事を公開しているので、ここではその見解を紹介したい。

記事を執筆したAdam Hartung氏はビジネス・経営を専門とするコンサルタントで投資企業のパートナーも務める。著書に『Create Marketplace Disruption: How to Stay Ahead of the Competition』があり、ハーバード大経営大学院でMBAを取得している。

Hartung氏はまず、共同創業者の盛田昭夫氏の下で行われた技術革新と成長を称え、「新しい市場を作るという情熱を持った企業で、コンシューマー家電のクリエイターであり、独占的な存在だった」と記す。当時、ソニーの幹部は85%の時間を製品開発や研究に費やしており、人事と財務に割く時間はわずかでそれぞれ10%と5%だったという。

「盛田氏にとって業績は単なる結果にすぎなかった――新しい製品と市場開発という仕事の結果が、業績だった」とHartung氏。製品と市場開発がうまくいけば、結果はよし。このやり方がソニーを大きくしていった。そして、80年代半ば、ソニーを筆頭とした日本企業は米国を脅かす存在となった。

そのソニーがなぜ方向を誤ったのか? Hartung氏は1つの原因として、「国をあげての産業経済学への執着」を挙げる。これは50年代に日本を訪れたWilliam Edwards Deming氏が品質と生産性改善の教えを説いたことに遡るものだ。Deming氏の言葉通り、日本企業は「よい品を、より速く、より安く提供すること」を実現し、日本製品は世界を制した。ところが、日本のリーダーたちは「この執着により、研究開発やその実装、イノベーションが関係するスキルを失った」とHartung氏、ソニーは新しい市場を開拓するのではなく、製品製造の犠牲となっていく。

例えば、ソニーのPCブランド「VAIO」。VAIOには「ソニーの功績と思える独自技術はほとんど投入されていない」とHartung氏。「ソニーはDell、Hewlett-Packard、Lenovoらとのコスト/価格/製造の戦いとなり、エキサイティングな製品を作るよりも価格競争に陥った」と指摘する。ソニーがプッシュしたBlu-Rayについても、「戦略が産業的で、ソフトウェア技術をプロプライエタリにすることで自社のみがBlu-Rayプレイヤーなどの製品を販売することを狙っている」と分析する。

それを許してきたのがソニーの経営者だ。盛田氏の後、ソニーの経営の中心は米国風MBAで鍛えられたビジネスマンだ。彼らは、数字第一で製品や市場は後回しにした産業的戦略を実践する。土台にあるのはイノベーションによる成長ではなく、ボリュームと製造。量産によりコストを下げられれば成功するという考えだという。

この考えは2005年頃に最高潮に達し、ソニーはHoward Stringer氏をCEOに迎え入れた。Stringer氏はソニー米国法人時代に約3分の1の人員削減を行った人物で、その戦略はイノベーション、技術、製品、新市場にフォーカスしたものではなかった。「盛田氏が会議の85%の時間をイノベーションと市場に費やしていたのに対し、Stringer氏はモダンなMBAのアプローチを取り入れ、数字が最優先となった」とのことだ。Stringer氏がCEOとしてソニーを率いた時代は、「新製品ではなく、2度にわたる大規模な人員削減で思い出されるだろう」と記されている。

Hartung氏は、Stringer氏の跡を継いで今年CEOに就任した平井一夫氏も産業的戦略を踏襲すると見ている。平井氏の下、ソニーは業績悪化への対策として、全従業員の6%に当たる1万人規模の人員削減を発表したばかりだ。「ソニーのリーダーは失敗戦略の共謀者だ」とHartung氏は手厳しい。

ソニーに投資すべきかどうか。この問いに対し、Hartung氏はソニーはすぐには潰れないだろうとしながらも、4年連続で赤字であることに触れながら、「サヨナラと言うべき時だろう。ほかにも面白い企業はたくさんある」という結論を出す。ソニーの失敗、Appleの成功から学ぶことはたくさんありそうだ。