Windowsプラットフォームにかかわる開発者であれば、マイクロソフトの開発ツール製品である「Visual Studio」を知らない人はいないはずだ。3月下旬には、現在ベータ版が提供されている最新バージョン「Visual Studio 11」に関する情報も一部公開され、注目を集めた。

日本マイクロソフト デベロッパー&プラットフォーム統括本部 開発ツール製品部 エグゼクティブプロダクトマネージャーの松井洋一氏

変化の激しいアプリケーション開発のトレンドに、常にキャッチアップしていくための環境を、開発者にむけて提供してきたVisual Studio。次期バージョンでは2012年のリリースが予想されている新たなクライアントOS「Windows 8」のアプリケーション開発基盤としての役割も担うこととなり、その重要性はますます高まることとなる。

本誌は、日本マイクロソフト デベロッパー&プラットフォーム統括本部 開発ツール製品部のエグゼクティブプロダクトマネージャーを務める松井洋一氏に話を聞いたので、その模様をお伝えしよう。

ALMとは?

次期Visual Studioでは、いわゆるIDE(統合開発環境)としての強化はもちろん、チームによる開発作業のさらなる効率改善、そして成果物の品質向上に向けた取り組みのサポート強化もポイントとして挙げられている。これは、いわゆる「ALM(Application Lifecycle Management)」の展開を、Visual Studioとして包括的に支援するという方向性を示すものだ。

ALMという考え方自体は、ソフトウェアの品質や開発生産性の向上を目指す概念として10年以上前から登場している。要求定義、設計、開発、運用、そして次の開発計画に至るまでの長期的なスパンでシステム開発をとらえ、各プロセス間の連携を高めて、ビジネスの変化に柔軟に対応できる環境を実現するための取り組みやツールを指すものだ。

近年、ソフトウェアが実際のビジネスや社会に与える影響がますます強くなっており、アプリケーションの品質向上や効率的なチーム開発を実現するALMへの要請も高まりつつある。Visual StudioにおけるALM関連機能の強化は、そうしたニーズに応えるものだといえるだろう。

人やツールに依存しない「Team Foundation Server」

Visual Studioでは、2005年にリリースされたVisual Studio 2005以降、コーディングを行うプログラマーだけでなく、テストエンジニア、アーキテクトなどを含むシステム開発にかかわるチーム全体の作業を向上させるための仕組みを積極的に取り入れてきた。その核になっているのは、現行の「Visual Studio 2010」でテスト環境管理機能を強化したファミリ製品である「Visual Studio Team Foundation Server」である。

Team Foundation Serverは、もともとVisual Studioファミリのソースコード管理ツールとして提供されていた「Visual SourceSafe」の後継製品にあたるもの。現在では、ソース管理だけでなく、要求管理、バグトラッキング、サーバビルド機能などを備え、加えてプロジェクトポータルの提供機能、タスク管理機能、レポーティング機能などによって、ALM全体をサポートするツールへと進化を遂げている。

現在「Visual Studio」は、コーディングツールだけでなく、ALM全体をサポートするマイクロソフトツール群のブランドに拡大している

また、アドオンである「Visual Studio Team Explorer Everywhere 2010」を導入することによって、LinuxやUnix上のEclipse IDEから、Team Foundation Serverへのアクセスが可能となっているなど、.NET開発だけでなく、Java開発などに対してもALMの環境を提供できるものとなっている。

日本マイクロソフトの松井氏は「マイクロソフトがTeam Foundation Serverで実現しようとしているALMは、SQL Serverという実績のあるデータベースを使って、開発工程にかかわるすべての情報を保存、共有しようというもの。フロントエンドになるツールは、マイクロソフト製品に限らず、さまざまな環境からアクセスが可能になっている。人やツールに依存しないサーバプラットフォームとして、チーム開発の生産性や、会社全体での競争力を向上させるための仕組みとして利用してもらえるよう、啓発を続けていきたい」と語る。