NTT東日本が、回線とセットで提供しているAndroidタブレットが「光iフレーム」シリーズだ。2011年末には、より高性能な「光iフレーム2」も登場。1台月額525円で使えるタブレット端末を使ったサービスは、主にコンシューマー向けに展開されている。

「光iフレーム2」

そして、この端末を法人向けに展開しようとしているのが、NTT東日本-東京だ。2010年4月に発足したオフィス営業部 企画部門の市場開拓担当は、NTTの各種サービスを投入する新しい市場を開拓することが使命だが、その1つとして行われているのが「光iフレーム2」の法人導入だ。

市場開拓担当を構成しているメンバーの多くは女性であるため、女性の視点を活かした市場開拓が行われており、保育園での写真販売への対応や学習・教育系需要の掘り起こしなども行う中、現在導入を推進しているのが美容院での利用だ。

「以前より、美容業界に対してデジタルサイネージやタブレット端末を活用できないか、美容師の生の声を聞きながら市場調査を行ってきました」とオフィス営業部 企画部門 市場開拓担当 白戸冴子氏は語る。

「市場調査を重ねていく中で、弊社のAndroidタブレットである光iフレーム2を活用し『従来のカットモデルを主体にしたヘアカタログとは異なる、お客様一人ひとりの髪型を記録する電子カルテ』としてお客様と美容師の間のコミュニケーションツールとして活用する利用シーンを想定しました。そこで、世の中にあるデバイスやサービスを幅広く組み合わせて実現できないか検討を重ねてきました」と白戸氏は強調する。

「ビューティアルバム for 光iフレーム2は、美容院での施術後のスタイルを画像で残し、電子カルテを作成するソリューションです。もともとカットモデルが主体のヘアカタログサービスはあったのですが、お客様一人ひとりが主役になる電子カルテは従来にないサービスであった為、これをAndroid対応にしてもらいました」と語るのは、オフィス営業部 企画部門 市場開拓担当 主査である柳梨江子氏だ。

サービス自体は、ユニティーベルが提供する「UB@mode. ビューティアルバム」を採用している。このサービスは、ブラウザを利用してアクセスするWebサービスで、すでにPCで利用している美容室もあった。しかし、カメラとの連動が欠かせないサービスであるため、別途撮影したファイルを取り込んで利用するという方法は手間がかかるという問題もあった。なお、UB@mode. ビューティアルバムは現在、Androidのほか、iPadにも対応している。

「UB@mode. ビューティアルバム」

「光iフレームの場合、本体で直接撮影することができ、画像をそのまま登録するだけなので非常に簡単です」とオフィス営業部 企画部門 市場開拓担当の坂本綾子氏は語る。

手書きカルテでは情報量が不足、収納にも問題

美容室では一般的に、顧客ごとにカルテを作る。カルテには、住所等の基本情報に加えて、顧客の好みや使用した薬剤の情報、施術内容などが記録されるが、多くの場合は手書きだ。当然、施術の細部についてはうまく記録されておらず、美容師が変われば漠然とした内容しか伝わらない。顧客自身も細部までの記憶がないため、次回来店時などに希望を伝えるのが難しい。

「たとえば、『前回の髪型をもっとこうして欲しい』というような希望があってもお客様自身が細部を覚えていませんし、言葉だけではうまく伝えられませんので、曖昧なままになっていました」と坂本氏。実際には、前回だけでなく、1年前の髪型の話になることもあり、記憶だけでは対応しきれなかったという。

「UB@mode. ビューティアルバム」での履歴管理

「カルテが手書きだと、単純に収納の問題もあります。収納場所の確保も大変ですが、美観も損ねるため、どうにかしたいという希望は多くありました。しかし、美容業界向けに提供されているカルテ作成サービスは少なく、ASPサービスとしてはUB@mode. ビューティアルバムくらいという状況です。そこで、光iフレームへの対応をお願いしました」と柳氏は語る。そして、誕生したのが「ビューティアルバム for 光iフレーム2」だ。

本体で撮影した写真を使って簡単にカルテを作成

「ビューティアルバム for 光iフレーム2」の具体的な利用方法としては、顧客の基本データをあらかじめ登録しておき、施術後に顧客の写真を撮影して登録する。光iフレームで利用する場合、本体内蔵のカメラで撮影してギャラリーに格納されている写真を、ブラウザ上から選択し、登録することになる。

顧客登録画面

コメント登録には、基本的にオープンなコメントを登録するフォームと、クローズドコメントの登録フォームの2種類がある。「ビューティアルバム for 光iフレーム2」は、顧客1人ごとに1IDが作成され、顧客自身が自宅からカルテを参照することもできる。その際、顧客も閲覧できるのがオープンコメントであり、店舗側だけが閲覧可能なのがクローズドコメントだ。

顧客検索画面

「たとえば、中にはあまり話しかけて欲しくないというお客様もいらっしゃいます。そういう場合には、クローズドコメントに無口な方、雑談は嫌い、というようなコメントを残しておきます。そうすることで、次回来店時にはきちんと好みに合った接客ができるわけです」と坂本氏。

「ビューティアルバム for 光iフレーム2」では、一度の施術ごとに最大4カットまでの画像を登録することができ、過去16回の施術分が記録できる。これを超える分に関しては古い記録を削除したり、毎回の記録ではなく任意回だけを登録するなど、店舗ごとに工夫して利用する形だ。ASP利用契約1つにつき、最大400ユーザーまでが登録可能だ(いずれも基本料金の場合で、拡張も可能)。

「ASPの利用料金は月額1万500円です。光回線1本に対して最大5台の光iフレーム2を利用できますが、端末の利用料金は1台あたり毎月525円。最初に端末を購入しなければならないのに比べ、初期導入コストが少ないのがメリットです」と、柳氏は小規模な美容室でも導入しやすい点を強調した。

1件あたり5分で登録できる手軽さが現場にも好評

すでに導入している美容室は数件あり、現場では好評だという。多くの美容院ではブログを使ったプロモーションを行うなど、すでに光回線を導入しているケースが多い。初期コストの低さと、1件ごとに約5分程度で登録できる簡易さなどが魅力のようだ。

また、「光iフレーム2の大きさがよいという声もあります。大きなタブレットだと片手では持ちずらいですし、鏡の前に置いておくにも邪魔になります」(柳氏)と、扱いやすいサイズであることが現場で重視されているようだ。

実際に導入している東京・吉祥寺の美容室「美容室アントリール」では、これまで利用していたiPadと光iフレーム2が併用されている。

同店の1カ月の来店者数は400-500人程度で、一人平均で年間4.4回の来店があるという。この店では、もともと顧客の髪型を紙のカルテで管理し、髪型をデジカメで撮影後、プリントアウトしてカルテに貼り付けていた。ただ、写真は正面だけの場合が多く、横や後ろの長さまではわからなかったという。

アントリールが利用している紙のカルテ

店長の小川千春さん

店長の小川千春さんは、「文字やイラストで残すことには限界があります。それが写真であれば、お客様から『もう一度、この髪型で』といわれたときに、再現することができます。うちではiPadも利用していますが、光iフレームはiPadに比べ軽さとスピードの面で優れています」と語る。

美容院では、芸能人と同じ髪型にしてほしいという要求もときどきあるが、この店舗では、インターネットを利用して芸能人の髪型を実際に閲覧し、顧客が抱くイメージと合っているか確認しているという。

アントリールでの利用風景(左が店員、右が顧客)

NTT東日本では、今後は採用店舗数の拡大を目指すとともに、用途の拡大も狙う予定だ。たとえばデジタルサイネージのように使う方法や、施術中に雑誌代わりに閲覧してもらうことも考えている。

「Androidであれば、Flash動画がそのまま利用できるのもポイントです。市場開拓担当は広くNTTの製品を他社とアライアンスを組んで伸ばして行こうという使命を持っていますが、新しい利用シーンを考えると可能性を感じるのは光iフレーム2です。今後はもっといろいろな形で活用できるよう検討していきたいですね」と柳氏は語った。