サイエンスライターをやっているぐらいなので、かくいう自分も例外なく宇宙が好きで、宇宙に目覚めたのは記憶にある限り小学校に上がる直前。父親が奮発して図鑑を行きつけの書店(自宅から結構遠い)でシリーズを20冊ほどどっさりと買ってくれて、自転車でどうやってだかわからないのだが(きっと、大きな段ボール箱に詰め込んで荷台にくくりつけてきたんだろうと思う)、持って帰ってきて驚かしてくれたのだが、その中に宇宙と地球を題材にした、いわゆる地学的な分野の1冊があった。

で、もう宇宙の項目が大好きで大好きで、そこばっかり読んでいたのだが、その項目の中でイラストで紹介されていた情報の1つが、太陽系の火星以降の惑星すべてを探査機で観測するという「太陽系グランド・ツアー計画」だった(手元にもうないので、ちょっと不確か)。太陽系を真上から見下ろして各惑星の軌道が同心円状に描かれており、そこをらせんを描くようにして探査機が冥王星(当時は当然まだ惑星だった)まで回っていくというラインが描かれているものだったのである。

いわゆる、NASAのボイジャー1号&2号の計画に関する初期のものが紹介されていたのだが、もうそれにはしびれた。各惑星に到達する年も記されていたはずで、その年が来るのが楽しみで仕方がなかったし、冥王星に到達する頃(実際には、ボイジャー2号は海王星での観測を充実させるため、冥王星の探査は切り捨てた)には自分がすっかり大きくなっているな、遠い未来だなーと思ったりもしたのだが、木星、土星、天王星、海王星とその探査報告をチェックしてきて、そんなこんなでボイジャー1号&2号は、自分にとっての「オレ探査機」であり、「オレの青春はボイジャーとともにあった」というぐらい、まぁ、惑星探査機が幼少時から10代にかけて大好きだったのである(ほかにもロボットアニメとかサイエンスとか、自分の青春とともにあったものはいくつかあるけど)。

だから、運のいいことにマイナビニュースでサイエンス系の記事を書かせてもらえるようになったので、人工衛星とかロケットとか宇宙開発系の記事も書かかせてくださーい! などとおこがましくも思ったりもするのだが、そうは問屋が卸さなかったのだ。マイナビニュースには、宇宙開発系のライターとしては日本でも屈指の実力を誇る大塚実氏が参加しているからである。

もう、大塚氏といったら、人のよさそうな優しい目をしたひげ面をしたオジサンのなりかかり(実年齢±10歳という年齢不詳の人物で、20代後半とも40代前半とも見える不思議な人)なのだが、その取材力や豊富な知識は半端ない。大塚氏を差し置いて宇宙開発系記事を書くなんてのはもってのほかで、それこそ、目の下に変な斜めの線があるカミソリのような目をした某暗殺者に、家が建つような金額の依頼料をスイス銀行の口座に振り込んで、こっそりヒットでもしてもらわない限り無理なのである。

ちなみに大塚氏がどれぐらいすごいかというと、たぶんテレポート能力があるんじゃないかと思う。いや、実は三つ子なのか、分身能力があるのかもしれない。昨日はつくば、今日は府中、明日は相模原など、どれだけ機動力があるんだとタフなんだという案配だし、脳にコネクタがあって外部記憶装置を活用しているのではないかというぐらい豊富な知識があって、なおかつ時間的に加速した状態で執筆しているんじゃないかというぐらいズンドコ記事を量産しているので、自分なんかじゃとても太刀打ちできないのだ。というか、同じ数の取材をして同じペースで原稿を書こうとしたら、それこそバリュートシステムやフライングアーマーどころか、耐熱タイルの1枚もなしに大気圏に突入するようなもので、すぐ流星になってしまうほどである。

と、前振りが長くなったが、そんな大塚氏が編集協力としてNECの「人工衛星」プロジェクトチームとともに全身全霊をかけて作り上げたのが、本書「人工衛星の"なぜ"を科学する」(アーク出版・A5判型約200ページ:税込み1680円)だ。人工衛星・探査機の専門書というか、それらについて学びたいのなら、「絶対に読んでおけ」という1冊である。もう、自分が人工衛星開発の責任者だったら、新人には間違いなく厳命するほどだ。

そもそも、一般的に人工衛星についてどれぐらいのことが理解されているのだろうか? 「ロケットで打ち上げられる」、「地球の周囲を回っている」、「高性能で高価」、「GPS衛星とか気象衛星とか軍事衛星とかいろいろとある」といったレベルではないかと思う。どんな種類があるのかというのはもちろん、具体的にどうやって軌道に投入されるのか、どんな高度を回っているのかなど、具体的な話になったら、そうとう好きな人ではない限り答えられないのではないだろうか。

さらに、どんな材料を使っていて、どんな設計で、どんな人たちが、どんな風に作っているのかなんて話になったら、悩んでしまうかも知れない。というわけで、よくよく考えたら、そんなスラスラっとは答えられない「なぜ」がいっぱいあるのが人工衛星なのだ。そして、その沢山の「なぜ」がわかるのが本書なのである。