【インタビュー】
コマーシャルの世界では商品の魅力を伝えるコピー同様、どれだけ印象的なビジュアルを残せるかも作品の質を大きく左右する。たった15~30秒のテレビコマーシャルや街中で一瞬だけ目に入る広告ポスターに物語があり、企業メッセージが凝縮されるとあってそのビジュアルには強いインパクトが必要だ。そこで「広告ビジュアルの作り方、考え方」についてハイドロイド代表取締役社長・谷合孝志氏に話を聞いた。
ハイドロイドは、2010年4月にアマナグループから新設された会社。主な業務内容はCGを用いたイメージおよび商品ビジュアルの制作だ。代表取締役社長としてハイドロイドを率いる谷合孝志氏は、1980年後半より写真レタッチに携わる、いわばコマーシャル分野における画像加工のプロフェッショナルだ。
「私たちが広告コンセプトを具現化するプロセスには主にふたつの特長があります。ひとつはCGを用いたドローイング、もうひとつが3DCGを使用することです。そして、表現においてもっとも重要視しているのが"ビジュアルコミュニケーション"です。クライアントが思い描くイメージは、どんなに言葉で語り尽くしても伝わらないことがあります。これをビジュアルで表現すれば誤差も少なくなり、装飾的な言葉も必要なくなるのです」
広告主やプランナーがいくら良いアイデアを思い付いたとしても、それを具現化するために予算が掛かりすぎては諦めざるを得ない。しかし同社の手に掛かれば、決められた予算の中で広告主がアピールしたいポイントをビジュアル化し、さらにクリエイティブな見せ方で提案できるという。これが同社の大きな強みだとのこと。
リーマン・ショック以降、今は広告の分野も湯水のように制作費が使えるわけではない。そのため、ひとつの広告作りの中でできるだけ無駄なコストはかけたくないと考えることが一般的である。
谷合氏によれば、広告制作の初期段階で"プレビジュアライゼーション"を実行することにより、時間やコストは大幅に削減できるという。プレビジュアライゼーションとはすなわち、企画段階のアイデアをいち早くビジュアル化すること。これを広告主とクリエイターが共有することで、いざ本番となったときに齟齬のないスムーズな仕事ができる。
「当社では3DCGで制作した自社オリジナルの素材データをいくつも持っています。たとえばこれをプレゼンテーション時に使えば、広告主がイメージする世界をスピーディにビジュアライズし、具体的に見せてオリエンテーションすることができるのです。イチから作るコストがなくてもアイデアさえあればクリエイティブなものが作れるのです。一方で、ある菓子メーカーのパッケージ写真に使われているCGは、最初にワイヤーフレームをひとつ作ってから商品数が増える度に色や質感を変え、多くのバリエーションを生んできました。これまで化粧品や食品はCGで表現することが難しかったのですが、このチョコレート菓子に関してはメーカーに期待されていたシズル感が上手く表現できていると評価され、さらに撮影などの時間やコストを掛けずに実物を具現化する良い例になっています」
こうした3DCGのメリットは、コストに限った話ではない。谷合氏は「ワンシチュエーションだけではなく、アングルや、ライティング・質感・色を自由に変えられることも大きなメリットでは?」と話す。最近ではひとつの素材で複数のメディア展開をすることが珍しくない。この場合も、3DCGであればスチールだけではなく、コマーシャルやWebなど多様なメディアを選ぶことができる。
ハイドロイドがグループ会社として名を連ねるアマナグループはもともとレンタルポジ業務を生業としていた。しかしデジタル化の波をいち早くキャッチし、所蔵するポジフィルムをデジタルデータ化し、さらにストックフォト販売やデジタル制作分野にトライ。現在では「ビジュアルコミュニケーション」の根幹をサポートするグループ企業として大きな成長を遂げている。
広告制作においても、アナログからデジタルへという大きな転換期が訪れた。制作ワークフローそのものが変わり、クリエイターの役割もそれに伴い徐々に変化。現在ではフォトグラファーが動画の撮影も手がけるなど、「デジタルフォト」の意味合いも拡がってきている。
「レタッチャーとしてフォトレタッチペイントシステムを使っていた90年代初頭は、アートディレクターなどが指示した内容に応えるだけで膨大な時間が掛かりました。現在では指示されたものに加えて、さらに突っ込んだ表現が必要とされています。だから私は、デジタル全盛の今だからこそ"本物志向"が求められているのではないかと思うんです。CGを用いたドローイングでも3DCGでも、機械的に作られたものではないリアルな質感や手触り、そして人々の記憶色を上手く取り入れたビジュアルが、今後さらに期待されるのではないでしょうか。想像の世界はコンピューターでいくらでも作れてしまいますが、すぐにバレる嘘は広告ビジュアルとして失敗の類に入るでしょう。やはり、嘘の中にも受け手を納得させるリアルさが必要になってくるのです」
デジタル時代だからこそ、アナログの質感を表現する。ディスプレイ上で全ての作業を終えてしまうようでは、こうした観察眼やアイデアは生まれない。だからこそ谷合氏は、「ハイドロイドのスタッフにはなるべく本物を見て触れる」ことを求めるのだそうだ。
「アナログからデジタルへというトピックで言えば、2011年のテレビ放送における変化もそうですね。我々はスチール撮影から派生しているので、動画は解像度が低いという考え方です。一方、これまで動画を中心にしていた制作会社は地デジ化によって高解像度データ(ハイビジョンでは既存の3倍近いデータとなる)を扱わなければならなくなりました。この高解像度データを扱うにはそれなりに設備投資をしなければなりませんから、現状では企業間の統廃合も増えてきているようです。広告制作においては、こうした時代の流れに即応していく体力も必要になってきます」
現在アマナグループには、ハイドロイド以外にもポリゴン・ピクチュアズやナブラ、ワークスゼブラ、アマナシージーアイなどスチール撮影はもちろん、3DCGの各分野におけるトップクリエイターや企業も所属する。これらのグループ企業はライバル関係にもあるわけだが、同じグループ内でノウハウの共有も可能と企業競争力として大きな強みになっているそうだ。
「ハイドロイドも単にレタッチャーという枠を越え、プロデューサー的な役割を果たすことが多くなってきました。グループ企業それぞれの得意分野を活かし、ハイドロイドで受注した仕事を他のグループ企業で作業してもらったり、また逆にビジュアル制作を請け負うなど、有機的に繋がった仕事のやり方が生まれてきています。先に、レタッチャーと言えどクリエイションが大切と話しましたが、多企業間でのグループワークにこそ、この発想力が必要になってくるんですね。プロデューサー的な役割を果たすには、ビジュアルコミュニケーションを軸にすることが新たな広告制作のポイントになってくるのではないかと思います」
商品の魅力を伝える広告ビジュアル制作の背景には、こうしたクリエイターのイメージをブラッシュアップする会社があった。「これ写真なの? CGなの? 」と受け手のイメージをかき立てる広告のため、ハイドロイドのチャレンジはこれからも続く。
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