アドビ システムズは、デザインとテクノロジーをテーマに、Web業界のキーパーソンが出演した「FITC Tokyo 2011」に参加。カンファレンスの冒頭セッションにて、同社プリンシパル・プロダクト・マネージャーのマイク・チャンバーズ氏から、同社が取り組んでいる最新のプロジェクトやテクノロジーの紹介、HTML5 / Flashの位置づけ、2012年以降注力する事業などを発表した。
FITC Tokyo 2011は、カナダを発祥地とする人気のカンファレンスで、12月3日~4日の2日間に「HAL東京 総合校舎コクーンタワー」(東京・新宿)にて開催。日本開催は今年で3回目を迎え、日本からはWebデザイナーの中村勇吾氏、Flashアニメーターのポエ山氏、メディアアーティストの真鍋大度氏らが登壇した。
アドビが考える、Flashの今後の方向性
同社によるFlash Player開発中止の報道以降、HTML5 / Flashの位置づけが大きな注目を集めている。これまではWebコンテンツの制作を始める際、HTML5とFlashのどちらを選択するべきかは非常に分かりやすかった。おおまかに、表現力の高いリッチなコンテンツを制作する場合はFlash、ドキュメントが中心のシンプルなコンテンツを制作する場合はHTMLといった棲み分けだった。
しかし現在は、ブラウザのイノベーションが速まってきていることを背景に、テクノロジーの選択が難しくなってきている。リッチなコンテンツを制作する際に、これまでのように選択すべきテクノロジーがFlashとHTML5で混在しつつあるのだ。これまでFlashで主に制作していたWebクリエイターにとっては大きな変化である。
例えば、電気自動車「日産リーフ」のWebサイトは、Flashで作られたような表現力の高いサイトだが、実はHTML5で制作されている。
サイトでは日産リーフの外観、インテリアを3Dで鑑賞できる。HTML5がテキストセレクションや右クリックに対応しているので、高いユーザーエクスペリエンスを提供している。
LES ENFANTSTERというWeb制作会社は、レベルの高いFlashデベロッパーが多いことで知られているが、HTML5の利用を検討してWebサイトを再構築しているという。HTML5の特徴の1つであるビデオ再生機能を実装し、HTML5の強みであるモーション、トランジションを取り入れながら、Flashの強みであるビデオ機能を活かしている。
Web開発者や企業によるHTML5への関心の移り変わりを、同社は決して「HTML5 vs Flash」という二項対立で捉えているわけではない。むしろ、HTML5とFlashは組み合わせることができる補完関係にあるという立場を取っている。Flashは開発にかかるコストを抑えることができ、HTML5はブラウザとの連携が優れているため、ユーザーエクスペリエンスが高く、またモバイルブラウザでの再現力が高い。Flash Playerの開発が中止になったとはいえ、Flashはこれからも長期にわたり存在するテクノロジーであろう。HTML5ではなにが実現できるのかを理解し、携わるプロジェクトの性質からケースバイケースでテクノロジーを選び、クライアントやパートナーに説明すべきである。同社のゴールはプラットフォームやテクノロジーに左右されず、Webの表現力を高めること、Webコンテンツでも、電子媒体でも同じ姿勢を保ち続けると強調していた。
HTML5についてアドビがどのような活動をしているか
また同社は、HTML5を使いやすくするために、デベロッパーのワークフローを改善することに注力している。例えばツールの拡充においては、Adobe EdgeやFlash ProfessionalでHTML5を活用できるようにしており、モバイルサポートも組み込んでいる。また、Webキットがオープンソースになってきたことを背景に、ブラウザ内でクリエイティブを作り込めるようにするための開発をここ数カ月で行ってきた。現時点では発表していない機能の拡充もあるが、数カ月以内に新たな発表も予定しているそうだ。
その一環で開発しているCSS Regionの目的は、紙媒体が持つ柔軟性をWebで実現すること。CSS Regionでは、CSSスタイルシートで形を定義してその中にテキストを自動的に入れるテキストエクスクルージョンという機能を実装している。CSS3のスタンダードにこの機能を入れることを、WS3Cに提案した。
また、CSS Shadersもあわせて紹介された。これは、Flashで構築してきたものをブラウザでそのまま表現できるとして開発したもので、ページをクリックするといろんな形で動かすことが出来る。従来のブラウザでは表現できなかったような技術を開発したとしている。
その他、アドビによるHTML5に関する活動の最新情報はこちらのWebサイトから確認できる。
Flashについてアドビがどのような活動をしているか
今後のFlashの役割はこれからも変わらず「Webを前進させる。いままで実現できなかったことをWeb上でエクスペリエンスとして提供していくこと」である。アドビはこれまで、業界で起こっている様々なトレンドにあわせて、Flashのフォーカスポイントを変えてきたが、モバイルブラウザー用にFlashの開発は行わないと決めたのもその一環である。モバイルのエコシステムがよくないことがその主な理由で、デスクトップほどのユビキタス性を実現できないと判断したからである。
一方、今後Flashが貢献できる分野はアドバンスビデオ、そして特にゲームであるとし、今後Flashをゲーム制作ツールとして進化させていくために、積極的にリソースを投下していく方針を明らかにした。実際に、ゲーム市場においてFlashは重要な地位を築いており、Webブラウザゲームの70%、facebookゲームトップ10の内9つ、google+ゲームの70%、iOS / AndroidOSのトップセールスゲーム、EA / ZingaのトップセールスゲームはFlashで作られたものである。
ゲーム制作に活かせるツールとして紹介された最新のFlash Player11は、HDビデオの再生をサポートしており、3Dレンダリングが従来の1,000倍のスピードで可能になった。また、Adobe Airがあれば、iOS / AndroidOS / Blackberryにも対応可能である。
収益を考えたときに外せないiOSネイティブアプリについては、Flashを使ったApp Storeに公開されているゲームをアップルはサポートしていると語った。アップルはFlashを使ったゲームのマーケット公開を承認しているだけではなく、大きな成功を収めているゲームを積極的にプロモーションしている。アップルによってゲームオブザウィークに選ばれた「machinarium」も、一秒あたり60フレームで動くハイパフォーマンスのFlashゲームである。Adobe Air3.0であれば、ネイティブアプリ内での購入、AdMob / gamecenterもサポートしているため、収益にさらに貢献できる。
次のバージョンで搭載されるFlashの特徴は、スプライトシートエクスプローディングと呼ばれるもので、フレームの中のシートに対してレンダリングできる。また、Flashで作成したアニメーションをHTML5に書き出すこともできる。
3DのFlashゲーム制作において重要なのが、Stage 3D。マウスロック、マウス中央のボタン、右クリックのイベントを認識できるほか、GPU上でレンダリングができるのが特徴である。Stage 3Dを活用した初めての商用事例である「nissan-stagejuk3D.com」が紹介され、クルマの姿形をカスタマイズできるカーコンフィグレーター、テストドライブのデモが実演された。stage3Dの開発手法は、基本的にActionScriptを書き続けること、フレア3D、Away3D、alternative3D、unityなど、他社が開発している2D/3Dフレームワークを使用することである。
そのほか、Stage3Dをモバイル端末向けにも開発していることを明らかにし、そのデモが初公開された。今後はモバイルでの3Dゲームが、実現されていく、これはFlashビデオファンには待ち遠しい機能になるだろう。
また同社は、3Dだけではなく2Dのゲーム制作環境にも力を入れており、スターリングという2Dゲームを作るためのフレームワークに資金協力している。
このように、同社はHTML5とFlashは組み合わせることができる補完関係にあることを強調し、その補完関係をより強固なものにするためのツール開発に注力している。デベロッパーがWeb業界における勢力争いに振り回されることなく、テクノロジーの選択に裁量を持てる環境が保たれることを期待すると同時に、デベロッパーとしては今後も各テクノロジーについて正しく理解を深めていく必要がある。