モバイルとソーシャルサービスによりショッピングが変わっている――今後3年間で、これまでの20年間を上回る大きな変化が起きる、とeBayのCEO、John Danahoe氏は予言する。Eコマース(電子商取引)の次のショッピングのトレンドとは何か? 小売店が直面する課題は何か? これらをテーマに、eBayのCEOが11月はじめにスピーチを行った。

eBay CEOのJohn Danahoe氏

Eコマースは終わりに - オフラインとオンラインの境界があいまいに

世界最大のオークションサイト、eBayを2008年より率いるDanahoe氏は冒頭、「この12~18ヶ月で根本を揺るがす変化が起こっている」と述べた。いったいどのような変化なのか?

米国では、2010年に小売店で発生した商取引のうち、約半分がその過程でWebにアクセスしているという調査がある。決済まですべてをEコマースサイトで行った場合もあれば、実店舗で購入したものの、商品情報をチェックしたり、価格を比較するためにWebを利用したというユーザーも多数いる。

eBayが展開するEコマース市場は3500億ドル市場だが、これは小売業全体の4%を占めるに過ぎない。Eコマースが占める比率が今後増えることは間違いないが、それよりも重要なこととして、「Eコマースと小売店の境界線がぼやけてきた」とDanahoe氏は述べる。

「将来は、Eコマースなのか小売店(実店舗)なのかではなく、自分がほしいときに、好きな手段、好きな条件で購入するようになる」とDanahoe氏。別の見方をすれば、これまでユーザーは何かを購入するという目的を持ってショッピングを行ってきたが、ショッピング体験が変わりつつあるということになる。第一段階のEコマースは終わったといってもよさそうだ。

この変化に大きく寄与しているのがモバイルだ。そして、過去20年をしのぐという「今後3年間におきる変化」では、Facebook、Twitterなどのソーシャルネットワークサービスも影響を与えることになる。

小売店の課題 - マルチチャネル対応

Danahoe氏は、「(コンシューマー側の変化が)世界中の小売店や店主に大きな変化を強いる」とも述べる。実際、小売店の多くが店舗とWebサイトだけでは不十分だと感じており、eBayの下に「モバイルを含むマルチチャネル展開をしたいが、どうすればよいかわからない」といった問い合わせが多数寄せられているという。

Danahoe氏はこれらに加え、2つの課題も提示した。

1つ目は、マーケティングだ。これまではTV、新聞、チラシやDMなどの既存広告とGoogle AdWordsでよかったが、FacebookやTwitter、Grouponなどのソーシャルを利用したマーケティングや広告活動への展開が求められている。

2つ目は、AmazonなどのWeb専業小売との競合だ。店舗の場合、購入した顧客の情報は収集できるが、クレジットカードシステムとCRMは連動しておらず、購入にいたらなかった顧客の情報は収集できない。だが、Amazonはどの顧客が何を購入したのかだけではなく、サイト内をブラウズしてどのような商品を閲覧したのかなど、詳細なデータを収集している。

小売店を支援するプラットフォームを目指すeBay

市場の変化、そして顧客である小売店の課題に対応すべく、eBayは新戦略を打ち出した。1つ目はモバイル対応を含むPayPalの強化、2つ目はマーケティングなどの電子商取引ソリューションGSI Commerceの買収、3つ目はECプラットフォーム「X.commerce」だ。この中で、Danahoe氏はX.commerceを中心にeBayの戦略を説明した。

X.commerceはeBayが10月に発表したもので、モバイル対応、PayPalによる決済、商品検索、受注管理など、小売店がオンライン展開するのを支援するプラットフォーム。「小売店が新しい世界で競合できるようにする」とDanahoe氏、同時にeBayが提供するのはあくまでもプラットフォームであり、(Amazonとは違って)小売店と競合することはない点を何度も強調した。

X.commerce

Danahoe氏はeBayのモバイル展開についても説明した。eBayは3年前よりモバイルアプリを提供しているが、ダウンロード数は5600万回に達しており、年間50億ドルの商取引がモバイルで成立している。モバイルでのPayPal利用は、額にして年間35億ドルに達しているという。

たとえば同アプリを利用して毎週約11万7000点の車用の部品/アクセサリの取引が行われているという。車そのものも、週に約2600台が取引されている。「モバイル端末で車を購入するなんて、数年前まで考えられなかった」とDanahoe氏は述べる。

さらにDanahoe氏は、「コンシューマーのコンテキストの中にショッピングを入れる」として、いくつかの例を紹介した。車愛好家向けのサービスでは、車の修理中に部品の写真を撮り、そのまま注文できるアプリを開発している。また、商品名を電話に向かって言ったり写真を撮ったりするとそのデータを含むアイテムをWeb上から集め、表示する機能も紹介した。携帯電話側のマイクやカメラ機能を利用する例だ。検索結果には、eBayだけではなく、Amazonなど他サービスを含む。「コンシューマーはすべての情報を知りたいと思っている」とDanahoe氏、囲い込みは無意味であり、顧客はオープンさに価値を見出し、結果としてひきつけることができる、との見解を示した。

ソーシャルネットワークでは、eBayはFacebookとの協業を発表している。だが、Danahoe氏は、ソーシャルコマースの動向を予言するのは時期尚早とする。「ソーシャルコマースは間違いなく新しいトレンドだが、ソーシャルとコマースが交差しつつある段階で黎明期にある。モバイルコマースでいえば3年前の段階」とDanahoe氏。今後、さまざまなプレイヤーが実験を行い、1、2年で方向性が見えてくるとした。ただし、独占的なプレイヤーが出てくるとは見ていないようだ。若い女性と車愛好家では明らかに求めるソーシャルコマースは異なる、とDanahoe氏は述べた。

モバイルオペレータでは、一部オペレータも関心を示しているが、これについてはアプリなどのデジタルグッズではオペレータの役割があるが、物理的な製品を販売するビジネスは適さないのではないかとの見解を示した。