今年もいよいよ解禁です

11月第3木曜日。

2011年のボージョレ・ヌーヴォー

のっけから個人的なことで恐縮だが、ここ数年、ボージョレ・ヌーヴォー解禁にあたっての深夜0時のカウントダウンには参加していない。朝のニュースでその話題をチェックするだけである。大抵の報道は、その賑わいを伝えるだけでその年の味わいについてはふれない。今年もそうだった。ただし、今年は大幅な円高ユーロ安で、例年にくらべると価格が随分と安くなっていることがクローズアップされていた。カウントダウンには参加しない代わりに、解禁日の昼間に行われる記者会見で今年のヴィンテージについて話を聞き、その後のテイスティングに望むのが常例となっている。

毎年、ボージョレ・ヌーヴォーにはサブタイトルがついているのだが、誰もが手放しでその出来を喜んだ2009は「50年に一度」、2009ほどではないにせよ果実味、酸味があって軽やかだった昨年は「ボージョレらしいボージョレ」。そして今年は「3年連続で偉大な品質となったボージョレ! 」

試飲会場には60種類のボージョレ・ヌーヴォーが

ボージョレワイン委員会の報告によると、2009年は凝縮感のある熟度と酸のバランスがすばらしく、2010年は正統派でアロマの表情がすばらしい。そして2011年は豊満で絹のように滑らか、熟度は見事だが2009や2010に比べると酸は極端に少ないという。

ボージョレワイン委員会会長ドミニク・カパール氏は、「今年はヌーヴォーが制定されてからちょうど60年の節目。日本とは1985年から共にヌーヴォーをお祝いしている。3月11日の震災に際しての日本人の勇気と団結力にはブラボー! と言いたいし、この偉大なヴィンテージと共に日本で一緒に祝えることを誇りに思う」と話した。

ボージョレワイン委員会会長ドミニク・カパール氏をセンターに、乾杯!

委員会のペットボトルに対しての考えは…

また、2年ほど前からペットボトルによる販売が横行し、これに関してボージョレ・ワイン委員会は断固として反対の立場をとってきた。近年のヌーヴォーは品質も向上し、生産コストも上がっているゆえ、ガラス瓶での出荷を奨励しているからだ。だが今年になってフランス政府から自由競争の妨げになるとして、委員会サイドの訴えは退けられてしまった。その結果、ペットボトルは増加に拍車がかかり、さらには大手スーパーなどではペーパーボックスによる輸入も始まった。これにも規制はなく、「ならばせめて(ペーパーボックスには)消費期限を大きく表示するべき。紙には限界がある」と声を荒げる。

続けて「スーパーでの客引きに(ペットボトルやペーパーボックスの)低価格ヌーヴォーを使われるのは本当に悲しいことだ」と憂いた。

「ヌーヴォー解禁は喜びを分かち合う日(=フランス語でコンヴィヴィアリテ)。今年も高い品質に仕上がったヌーヴォーを共に喜びましょう! 」。フランス大使館臨時代理大使のフランソワ・グザビエ・レジェ氏の音頭で乾杯となった。

晴れてようやく飲め……、いや、テイスティングのときがきた。

確かに委員会の言うとおり、果実味がありアロマも豊か、確かに絹のように滑らかな口当たりである。去年は"赤い果実"、例えばイチゴやラズベリーのようと表されていたが、今年は赤い果実に"黒い果実"、黒すぐりやブルーベリーなどが混在している。色も昨年に比べるとやや濃い。60種類ほど試飲したが、中にはコショウの様なスパイシーさ、喉の奥に貼りつくようなタンニンを感じるものもあって、造り手によるがこのまま2~3年は熟成できるのもあるかもしれない。

というわけで。

近年最も偉大な年と謳われていた2009年のヌーヴォーを2010年のヌーヴォー解禁日に開けてみて、見事大成功(熟成はそんなに進んでいなかったが、1年経ってもまったくへこたれていなかった)したのに味を占め、今年も2011年の解禁日に2010年のヌーヴォーを開けてみることにした。2009年のヌーヴォーに比べるとアルコール度数もタンニンも少なく、1年を経た今も耐えうるワインなのか、正直実験である。

1年寝かせておいた2010年のボージョレ・ヌーヴォー

陽にさらしておいたわけでもないが、特にセラーに入れておいたわけでもない。常温で夏を越した。ボトルは立てたままであった(コルク栓のフルボトル)。結果、透明ボトルのわりには劣化はしていないようだ。色は若干濃くなっているような印象。気のせいか、香りは昨年の象徴だったイチゴの香りはなくブラックベリーのような黒い果実系の香りに変わっていた。ただし香りの強さ自体は若干弱まっているかもしれない。甘い羅漢果の香りもでてきた。

飲んでみると、2010年の象徴であるチャーミングな酸味は健在、アルコールのボリュームもまだまだ十分あるが、アロマがトーンダウンしているために単調なややバランスの欠いたものになってしまっていた。もちろん個体差も保存状態の良し悪しもあるだろうから2010年を1年寝かすとこうなる、とは一概には言えないが。これはこれで個人的には楽しめた。

今年も編集部のH女史が試飲会に同行していたわけだが、彼女は帰り際に駅のホームで持ち帰ったボージョレ・ヌーヴォーを誤って落として割ってしまったらしい。まぁ、ガラス瓶にはたまにこんなリスクも潜んでいるのも事実ではある。

彼女の周辺にはたちまちすばらしい香りが広がり、見知らぬ駅の通行人たちと喜びを分かち合った(コンヴィヴィアリテ! )ようである。