米Evernoteが8月18日(米国時間)に、米サンフランシスコで初の開発者カンファレンス「Evernote Trunk Conference」を開催した。その基調講演でCEOのPhil Libin氏は「Evernoteを100年続く企業に育てていく」と宣言、同社の短期および中期の計画を説明し、そして残り97年の展望を語った。

Evernote CEOのPhil Libin氏。登壇したら、まずEvernoteに会場をキャプチャ

100年続く企業を目指すと宣言

Evernoteがメモリーキャプチャと呼ぶサービスをベータ公開したのは2008年6月だ。3年が経過し、現在の登録ユーザー数は1,250万人である。1年前の400万人から213%増だ。現在の1日あたりの新規ユーザ数は4万2,000人。順調に利用者を増やしている。

Evernoteの登録ユーザー数、30日間のアクティブユーザー数、1日あたりの新規ユーザー数、プレミアユーザー数のデータ(1年前と比較)

日本市場で大成功しているのもEvernoteの特徴。ユーザーの割合では現在、1位の米国(36%)と2位の日本(27%)が圧倒的。

中小規模のWebスタートアップには、ある程度の成功を収めた段階でゴールとして売却を模索する会社が多いが、Libin氏は「Evernoteが出口戦略(Exit Strategy)に進むことはない」と断言した。それは同社の「使えば使うほど価値が増すサービスを提供する」という哲学に起因する。

Evernoteはフリーミアム・モデルを採用している。フリーミアムには有料サービスに引き込むために無料版ツールの機能を限定しているものが多いが、Evernoteはフル機能のツールを無料提供している。これはユーザーが最善のツールを手にしてこそ、サービスの本当の便利さが伝わり、ひいてはサービスを活用するアイディアが広がると考えているからだ。Evernoteでは、無料サービスでも有料サービスと同じ利用体験を得られる。無料版を使っているうちに、例えばEvernoteに投げ込んでおいた情報が外出先で役立ったりすると手放せなくなる。時間とともにデータが蓄積するほどにEvernoteは便利なものになり、次第にユーザーの生活の一部にとけ込む (=価値が高まる)。下の写真のグラフは、使用時間(横軸)と有料プレミアサービス・ユーザーの比率(縦軸)のグラフだ。見事に、使用期間が長いほど有料サービスに切り換えるユーザーが増えている。

横軸はメンバー登録からの時間(0-36カ月)、縦軸はプレミアユーザーの比率

逆に言えば、Evernoteのビジネスモデルを機能させるにはユーザーに長く使ってもらわなければならない。そのカギとしてLibin氏は「信頼の獲得」を挙げた。売却の可能性がちらつくようでは、ユーザーは根づかない。Evernoteは「時間と共に価値が増すサービス」として成功しているからこそ、今「100年企業宣言」なのだ。今回サービス公開から3年で初の開発カンファレンスを開催したのも、Evernoteがスタートアップではなく、プラットフォーム提供企業として残り97年を生き抜いていこうという決意表明に感じられた。

ユーザーに長く使ってもらうには、ユーザーが手放せなくなるようにツールを改善し続けることも重要だ。Evernote Trunk Conferenceでは「Skitch」の買収が発表された。写真やスクリーンショットに、簡単にメモや絵を加えられるMac用アプリケーションを提供している。Evernoteのツールやサービスには文字認識やデジタルインク技術が組み込まれており、画像への情報追加や画像を用いたコミュニケーションを可能にするSkitchはEvernoteの可能性を広げるものになるだろう。最善のツールを多くのユーザーに使ってもらうのがEvernoteの戦略の第1歩である。SkitchはMac App Storeで19.99ドルで販売されていたが、Evernote傘下になったことで無料化された。カンファレンスではまた、SkitchがAndroid版を発表、さらにiOS版の提供予定を明らかにした。

Skitch創設者のCris Pearson氏とKeith Lang氏が登場

Evernote傘下になったことで、19.99ドルだったMac版Skitchがフリーウエアに