ホタル生態環境館の阿部宣男館長

福島第一原子力発電所の事故後、汚染水の浄化システムのトラブルが続くなか、夏の風物詩でもある"ホタル"の再生用浄化水システムが、放射性物質のろ過に有効と注目されている。

同システムを発案したのは、東京板橋区のホタル生態環境館の館長を務める、阿部宣男氏。茨城大学でホタルの生態に関する研究で学位を取得した、知る人ぞ知る"ホタル博士"だ。全国でホタルの再生・育成プロジェクトにも取り組み、数々の実績を持つことでも知られる。

「ホタルほど環境のバロメーターになる生物はいない。ホタルは発光細胞と反射細胞と呼ばれる発光器官によって、身体を光らせることができるが、自然界以外の放射性物質はホタルの発光器を破壊する。ホタルの発光は繁殖活動の1つでもあるため、発光できなくなると繁殖機会を失い、種の存続ができなくなる」と語る阿部氏。浄化された水環境が不可欠とされるホタルの生息に、阿部氏が目を付けたのが、ナノ純銀粒子だった。

古くから銀には除菌・抗菌効果があることが知られる。ナノ銀とは、10ナノメートル程度からそれ以下の粒子径にした銀のこと。阿部氏によると、ナノ純銀粒子には、銀イオンが飛び出しても瞬時に元の金属の状態に戻る特異性があり、その際に発生する電気的エネルギーの電位差は1600mV以上となり、放射性物質のマイナスイオンをナノ銀のプラスイオンで瞬時に吸着できるという。

一方、福島第一原発では、現在、汚染水の処理として、活性炭やゼオライト、フェロシアン化鉄といったろ過材が用いられているが、阿部氏は次のような問題点を指摘する。

「これらの素材は、吸着作用は優れているが、吸着効果期間が短く交換がすぐに必要になってしまう。ゆえに、吸着材そのものが使用後に汚染された廃棄物になってしまう。また、多孔質である、活性炭やゼオライトは孔内に細菌類が繁殖しやすく、定期的な殺菌処理が必要」

さらに、阿部氏によると「半減期が短い放射性ヨウ素から最近はセシウムへの関心が高くなっているが、原子力発電所からはそれ以外の危険な放射性物質も生成されている可能性が高い。例えばストロンチウムは、β線というヨウ素やセシウムが出すγ線よりも危険な放射性物質。今、原発で使っているろ過材はストロンチウムには効果がない」とのこと。

これに対し、阿部氏が有効だと唱えるのは牛骨炭だ。ストロンチウムというのは、カルシウムに似た性質を持ち、骨炭に含まれるカルシウムがストロンチウムを吸着する効果が期待できるとし、「骨炭も多孔質の構造だが、ナノ純銀を付着するための担持材として用いることで、双方の相乗効果による優れた放射性物質のろ過材となりうる」と説明する。

一方、阿部氏によると、東京都水道局が5月に公開した実験結果でも、ナノ純銀粒子担持牛骨炭によるヨウ素の高い除去率は実証されているという。実験によると、ナノ純銀粒子担持牛骨炭による非放射性ヨウ素の除去率は約60%以上。御影石など他の担持材に比べて高い除去率を示し、牛骨炭が高い除去率を示した理由として、イオン交換による除去効果を挙げている。「牛骨炭と御影石を両方使ってろ過した場合は88%。素材の量次第では100%除去も可能かもしれない、と水道局の水質センター所長とも話していた」と語る。

阿部氏発案による、ナノ純銀粒子担持牛骨炭によるホタル再生技術は特許も取得している。阿部氏は、ホタル再生技術を応用した、原発における冷却水の浄化システムを、既に政府や東京電力に対しても行っているという。また、板橋区ホタル生態環境館では、天然白御影石と牛骨炭を担持材に用いたナノ銀による家庭用の「簡易飲料用ろ過セット」の研究開発も行っている。

板橋区ホタル生態環境館が研究開発を手掛ける「簡易飲料用ろ過セット」
2種類のろ過材をろ過用パックに入れ、水道水をろ過する。ナノ銀粒子が放射性ヨウ素、セシウム、ストロンチウム等のほとんどの放射性物質が付いた塵やホコリと微生物を分解。分解された不要な成分は骨炭に吸着され、安全な飲み水として浄化するという。効果は3年間有効で、メンテナンスは半年ごとにナノ銀担持骨炭を水洗いした上で天日干しする程度と簡単。茨城大学のベンチャー企業・ルシオラが販売。1セット3,000~4,000円前後