ハウステンボスの公用語が英語のエリアにアトラクションを開設したジャイロスコープの代表取締役社長を務める桂次郎氏

長崎県佐世保市にあるハウステンボスが目指しているのは「観光ビジネス都市」である。旅行大手のエイチ・アイ・エスの傘下に入ってから、ハウステンボス代表取締役社長に就任した澤田秀雄氏(エイチ・アイ・エス会長)は、「立地条件や投資規模などを考えると、テーマパークとしての存続だけでは限界がある。ベンチャー企業誘致、医療観光の実現などにより、観光ビジネス都市としての発展が成功の鍵を握る」と語る。

そのベンチャー企業誘致の第1弾となるのが、ジャイロスコープによるアトラクション「TOMODACHI FACTORY」だ。2011年7月から開始したこのアトラクションは、ハウステンボスを訪れて英語を学ぶという新たな提案を行うもの。英語を公用語としたウォーターマークホテル長崎とともに、「イングリッシュ・スクウェア」に位置する「TOMODACHI FACTORY」は、果たしてどんな成果をもたらすのだろうか。今回、ジャイロスコープの代表取締役社長を務める桂次郎氏に話を聞いた。

日立時代の経験を生かしベンチャーを設立

ジャイロスコープは、日立製作所で米国やオーストラリアなどで海外営業を担当していた桂次郎氏が2010年7月に設立したベンチャー企業だ。日立オーストラリア社長や日立アメリカ上級副社長などを歴任した同氏が、長年にわたり海外でビジネスをするなかで、日本人が海外に出て物怖じするシーンを何度も見かけ、そうした日本人の姿から英語を積極的に話す台湾、韓国、中国などのビジネスマンに後れをとるのではないかと痛感していた。

そこで、日立製作所に在職時に、日本の社会のグローバル化と日本人の国際対応力強化の必要性を論文としてまとめたところ、これが東洋経済新報社『週刊東洋経済』の高橋亀吉記念論文で優秀作を受賞。それが経営学者である野田一夫氏の目に止まり、このアイデアを具現化するプランの1つとして、ハウステンボスの澤田氏に、英語が公用語のエリア「イングリッシュ・スクウェア」を開設する話がもたられさた。

ハウステンボス再建に挑む澤田氏もこのアイデアに注目。トントン拍子に話が進んでいった。「話が進みすぎて、会社をやめざるを得なくなった」と桂氏は笑うが、その眼は期待に満ちている。2010年7月に日立製作所を退職して、ジャイロスコープの設立準備を開始。1年を経て、2011年7月からハウステンボス内に新設されたイングリッシュ・スクウェアに、「TOMODACHI FACTORY」をオープンした。

「イングリッシュ・スクウェア」に位置するTOMODACHI FACTORY」

英語を楽しみながら学べる「TOMODACHI FACTORY」

TOMODACHI FACTORYは、外国人のスタッフで構成され、大人も子供も、英語で会話をしながらコミュニケーションを図ることができるアトラクションだ。

TOMODACHI FACTORYを訪れたら、受付で6枚あるいは11枚の「ラッフル」と呼ばれる回数券を購入する。6枚つづりは600円、11枚つづりは1,000円だ。必要に応じてこのラッフルを使用してアトラクションに参加する。

例えば、TOMODACHIアクターズでは、外国人スタッフが、医者や学校の先生、探検家に扮して、英語で会話するというもの。ラッフルは1枚使用すれば済む。また、リトルカーニバルでは米国直輸入の玩具を使いながら、輪投げや数字あわせなどのゲームを行う。1ゲーム1枚のラッフルで参加でき、賞品も用意される。屋外ではバスケットボールのオリンピック代表強化選手にも選ばれた男性がバスケットボールのレッスンを英語で行うというアトラクションも行われている。

TOMODACHIアクターズでは、外国人スタッフが医者や学校の先生、探検家に扮して、英語で会話する

子供たちが実際に商品を購入するシーンは英語で体験できるコーナー

2005年に日本代表のオリンピック強化選手に認定されたAubrey Gantt氏。日本名は太田匠さん。英語を使ってバスケットボールを教える。実は日本語は流暢に喋れる

TOMODACHI FACTORYで使用する「ラッフル」

このように自然な形で、気軽で英語に接しようというのが、TOMODACHI FACTORYのアトラクションの狙いとなっている。

外国人スタッフは、ハウステンボスに隣接する米海軍佐世保基地のキャンプからも採用しており、人材確保の苦労は比較的少ないと言えよう。

「なかなか英語に触れようという来場者が少ないため、まだまだ実績は少ない。しかし、8月上旬には修学旅行にハウステンボスを訪れる小学生および中学生がTOMODACHI FACTORYで学習することが予定されている。まずは1日250人の参加を目指したい」という。

初年度の売上目標は8,800万円。まずは、ハウステンボス入場者の2.5%のアトラクション参加を目指すが、「2012年後半には、これを入場者数の4%にまで引き上げたい」と、桂氏は意欲を見せる。

TOMODACHI FACTORYのオープンに合わせて、ハウステンボスでは、英語を公用語とする日本唯一のリゾートホテル「ウォーターマークホテル長崎」をオープンしている。オーストラリア出身の総支配人をはじめ、スタッフ全員が英語によるサービスを行うというユニークなホテルだ。

英語を公用語とする日本唯一のリゾートホテル「ウォーターマークホテル長崎」

プレオープン時には、日本人観光客に配慮して日本語も一部併用していたというが、利用者から「すべて英語でやってほしい」という要望が出されるなど、日本の中で外国を体験するという点でも注目を集めるホテルとなっている。

さらに、イングリッシュ・スクウェア内には、スタッフが外国人で構成されるホットドック店「ロックンロールブラッツ」もオープン。英語で注文したり、本場のヒップホップダンスを見たりといった体験もできる。

ホットドック店「ロックンロールブラッツ」

桂氏は、「ウォーターマークホテル長崎のオープンとともに、ハウステンボスを『英語体験のメッカ』にしていきたい」と語る。修学旅行生の学習体験のほかにも、日本人が英語を学ぶ場として、ハウステンボスを活用するなどの提案を加速したいという。

ハウステンボス全体では、外国人観光客の集客にも積極的であり、来年3月には長崎-中国・上海を結ぶ定期航路を就航して、中国からの集客拡大を目指す考えだ。

ハウステンボスの澤田氏も「将来的には全体の3~4割を外国人が占めるという集客バランスを目指したい」としており、その点でも英語を利用できるアトラクションは将来に渡って、注目を集める可能性がある。

ベンチャー誘致の第2弾とも言うべきか、ハウステンボスでは、今秋から「医療観光」といった観点から予防医療に焦点を当てたアトラクションをスタートする予定で、ここでもベンチャー企業の誘致によって新たなアトラクションを展開していくことになる。ベンチャー企業の力を活用することで新たなサービスを創出する仕組みとしても、ハウステンボスの取り組みは今後ますます注目されていくだろう。