企業はネットユーザーの欲望に向き合っていない!──中川淳一郎に聞く

後編はこちら:ソーシャルメディアで人生は変わらない──中川淳一郎が語るネットの"幻想"

『ウェブで儲ける人と損する人の法則』の著者に聞く!

インターネットやウェブサービスの優れた部分にばかり目を向けネットを礼賛する風潮に対し、異を唱え続けてきた中川淳一郎氏。著書『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社)では、大部分のネットユーザーたちの欲望に忠実なネット利用動機や利用実態を赤裸々に語り、ネットの汚い「現実」を抉り出した。そして、著書最新刊となる、ネットマーケティングにスポットをあてた『ウェブで儲ける人と損する人の法則』(ベストセラーズ)では、多くの企業がネットに対し過度な期待を抱いている現状を指摘し、ネットの「現実」を上手く利用して儲ける方法を提言している。TwitterやFacebookといったソーシャルメディアへの関心が益々高まっている今、中川氏はこの流れをどのように感じているのか? そして、ネットで儲けるための具体的な施策とは? 直接本人に考えを伺った。

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──「インターネットで世界が変わる」「人生バラ色」「これこそ平等な言論空間」「みんながアナタの会社のファンになる」などなど、ことさらにネットを礼賛したり、万能感を醸成したりする論調に対して、歯に衣着せない言説で異を唱えてきた中川さんですが、今回"ネットで儲ける"という切り口から本書を執筆された意図は?

中川　これまでネットに関連する著書を3冊出させていただきまして、本書は4冊目になりますが、「2006年からニュースサイトの編集に携わってきた中で、イヤというほど経験してきたネットの実像を書く」というスタンスはこれまでの著書と変わりません。ただ、本書の場合はそこからもう一歩先に進んで、「ネットの現実を踏まえた上で、ネットで儲けたり、上手に付き合っていったりするための考え方やアプローチ術をまとめてみたい」という意図で執筆しました。

といっても、実は本書で語ったような事柄は、ネット関連の最初の著書である『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社)でも要点を書いていたんですよね(第4章「企業はネットに期待しすぎるな」)。それで、読んでくれた学生さんから「この章、ジャマ! 」みたいに指摘されたりする一方で、広告やマーケティングの現場で働く方々からは「第4章がとても参考になった」と支持していただいた。実際、自分の専門分野というか、日ごろ自分が関わっている仕事にもっとも関連する領域でもあるから、いつかきちんと一冊にまとめてみたいと常々考えていたんです。今回、キレイごとばかりでは済まない、現場感ドロドロのネットマーケティング本としてまとめることができたので、達成感はありますね。

既存のネットマーケティング、ネットブランディング関連の本で手に入れられるタイトルはほとんど読んだと思いますけど、どれもこれもキレイごとばかり書いてある。「あ、これならネタはカブらないな」と確信できたのも執筆理由のひとつです。最近はPRやキャンペーン施策など広告絡みの案件で企業とお付き合いすることがとても増えたのですが、そこで感じるのは「ネットでバイラルを起こしたい」「ネット発の注目トピックとして取り上げられたい」「ソーシャルメディアで広がりたい」など、ネットを上手いこと活用して何かイマドキっぽい話題づくりを仕掛け、結果を出せないかなぁ……なんて考えている担当者が非常に多いこと。でも、よくよく話を聞いてみると「とりあえずネットで情報発信すればすぐに話題になって、バイラルが起きて、みんながウチの会社を好きになってくれて、商品を買ってくれる」みたいな楽観をしている人が、未だにたくさんいるんです。

──本書で「本気ですか?」「ネットで広がるだけの実力を持ったネタをあなたたちは作っているのですか」と指摘されている点ですね

中川　ええ。本書にも書きましたけど、「面白いものをクリックする」「面白いものを広げる」「自分が得する情報を収集する(自分が得するサイトを閲覧する)」という多くのネットユーザーが備える3つの基本スタンスを踏まえて情報発信をしないと、なかなか話題にはしてもらえません。要するに、楽をしたい、得をしたい、何か面白いことないかな、モテたいな……といった"人間の本能"がモロに現れる、身も蓋もない世界であることを受け入れる必要がある。だけど、広報マンや宣伝担当者の多くはネットで話題を仕掛けたいと強く望む一方で、「話題にはなりたいけど、炎上が怖い」「ネガティブ要素は一切出したくない」「2ちゃんねるで揶揄されるのは困る」と腰が引けてしまうんです。

品行方正なことばかりやっていては、ネットで注目なんてしてもらえません。というか、ネットの身も蓋もない部分もひっくるめて特性を理解して、上手に活用すればいいのに、といつも感じています。ネットには、確かに人間の欲望むき出しの、下品で汚い側面もある。上品な企業人の皆さん、ネットを理想郷や世界を変える万能ツールのように礼賛する識者の方々からすれば、筆舌に尽くしがたいほど荒くれた世界に映るかもしれません。でも、そこにはある種の作法や行動特性、「ネット文脈」のようなものがあって、それを踏まえればいろいろな施策ができることを見逃してはならないと思います。