WindowsやLinuxの台頭が仮想化ニーズを加速

アクセンチュア テクノロジーコンサルティング本部 インフラストラクチャ コンサルティング グループ マネージャの中寛之氏

「IT運用管理という言葉を聞いて『ITIL』を連想される方も多いと思います。本日はこのITIL V3よりさらに一歩踏み出して、仮想化を意識した運用管理の方法について解説していきたいと思います」――アクセンチュア テクノロジーコンサルティング本部 インフラストラクチャ コンサルティング グループ マネージャの中寛之氏は、このように語って講演をスタートさせた。

1989年にイギリス政府が公表したITILは、ITに関する効率的な管理方法を集めたベストプラクティスとして広く知られている。2000年代初頭のITIL V2では大規模なシステムを前提とした運用管理が、2000年代後半のITIL V3ではより効率的な管理が記されてきた。中氏の講演では、このITIL V3よりもさらに先を行く運用管理が解説された。

氏は最初に、企業を取り巻く現在の状況について紹介した。まずはIAサーバにおけるOSのトレンドを見ると、UNIXの実装率が減少する一方で、WindowsおよびLinuxのシェアが大幅に拡大を続けている。特にx86サーバとLinuxの組み合わせは、エンタープライズレベルでミッションクリティカルなシステムが稼働できるほど成熟したという。

しかし、ここでいくつかの問題が生じ始めた。確かにWindowsやLinuxの活用が進めば、1台あたりの新規サーバ調達コストは減るだろう。だが、台数の増加によってサーバの電力や冷却にかかる費用、各種管理コストなどが増加の一途をたどっているのである。

「サーバ単位のコスト増加だけでなく、データセンターにおけるサーバ設置スペースの不足や、IT部門が抱える定型運用作業の増大など、企業はサーバ環境の変化に伴う数多くの課題に直面しています」と語る中氏。さらに、事業継続計画とSLAに合致しない部分がある、障害復旧用に過剰なサーバ能力を保持している、新アプリケーションの迅速な展開が利益につながる、x86サーバのプロセッサ能力が十分に生かされていない、社内でx86プラットフォームの増大を想定している、といった項目を挙げ、これらに当てはまる企業ならば仮想化戦略の利益を受けられると指摘した。

目先のメリットに捉われ、見落としがちな運用管理の重要性

仮想化の導入はサーバの設置台数や電力・冷却費用など、企業にとって数多くの直接的・間接的なメリットをもたらしてくれる。ただし、中氏が「メリットだけに目を奪われて『すぐに仮想化を導入しよう』と考える企業は多いのですが、実はここから先が一番難しい部分になります」と指摘するように、ポイントとなるのは"企業内でどこまで運用管理の重要性を理解しているか"という点だ。

一見するとメリットしかないように見える仮想化も、実はシステム規模や運用管理の方法しだいで割高になるケースがある。従来のような人海戦術で複雑化したアーキテクチャを運用するには、どうしても限界が出てくるわけだ。また、今まではコストの大部分をハードウェアが占めていたのに対し、仮想化を導入するとコスト比率自体も大きく変わってくる。

こうした背景から、仮想化には運用管理の変革が必要不可欠となるが、変革にあたってはアクセンチュアの次世代データセンタービジョンを形成する4要素「仮想化」「コモディティ化」「統合」「トランスフォーメーション」が重要な役割を担ってくるという。

では、これらを取り込んだIT運用管理像とはどのようなものなのだろうか。

まず、全テクノロジ階層にわたり仮想化を行うことで、データセンターのリソースを論理的にプールすることが可能になる。そうしたプラットフォームの上では、異なる種類のIT基盤、アプリケーション、サービスをターゲットとしたサービス提供も実現される。また、そのようなベースの上にITプロセス/ポリシーベースのIT自動運用基盤を構築することで、サービス指向のIT基盤や、サービスレベルの目標とリンクしたサービスが提供できるようになる。そのようなIT基盤ができれば、従来のような"対処的"ではなく、変化を予測して"先手"を打てる環境が出来上がるため、それに適した運用フレームワークを用意することで"ビジネスサービス"という概念でアプリケーションを管理できるようになるという。

すなわち、変化に即応可能なIT基盤の上でITとビジネスを強固に結びつけ、"ビジネスサービス"という従来よりも大きな単位でITを管理できるようになるというわけだ。

段階的な企業内改革に基づく、仮想化時代のIT運用管理

ただし、これらの取り組みを一度にすべて行うのは難しい。そこでアクセンチュアでは、成熟度に応じた3段階のソリューションを提供している。

具体的には、仮想化された本番環境を構築する「EV(エンタープライズ・バーチャリゼーション)」、サービス管理の強化とプロセスフレームへの準拠で仮想化のビジネスメリットを享受する「EVA(エンタープライズ・バーチャリゼーション・アクセラレータ)」、戦略的な管理ツールによるサービス管理とチャージバックモデルの統合・最適化を行う「EVU(エンタープライズ・バーチャリゼーション・ユーティリティ)」の3つになる。いずれも、それぞれの段階で導入すべき技術やプロセスが詳細に定義されており、仮想化時代のIT活用/運用管理がスムーズに進むよう工夫されている。

こうしたソリューションを適用する際のポイントとして中氏が強調したのが全社レベルの取り組みである。氏は「IT部門だけで進めても意味がありません。企業全体での合意が得られてこそ、仮想化成熟度のステップアップが可能になります」と説明し、社をあげて対応していくことが成功に不可欠な要素であることを改めて示した。

さらに中氏は"Beyond ITIL"を構成する要素として、成熟度に対する目標の指標化や、「CMDB(Configuration Management Database : 構成管理データベース)」についても紹介した。特にCMDBについては「分散型と集中型の2種類がありますが、企業の環境に応じて変わってきます」としたうえで、「異種混在環境におけるプロビジョニングツールはCMDBとワークフロー連携が必須となる」など、具体的なポイントもいくつか挙げた。

中氏は最後に「今回紹介した内容をすべて実現できれば、『うちのIT仮想化基盤は成熟している』と胸を張って言えます」と語り、ぜひ"Beyond ITIL"を目標に次世代のIT運用管理を推し進めてほしいというメッセージを残して講演を締めくくった。