「メタルギアソリッド」シリーズがジャンルの開祖的存在として知られるスニーキングアクションゲーム。ステルスアクションゲームともいわれるこのゲームの王様的存在には、もちろん本家の「メタルギアソリッド」シリーズがあるわけだが、欧米ではこれと双璧をなすほどの人気タイトルシリーズがある。それが「TOM CLANCY'S SPLINTER CELL」(スプリンターセル)シリーズ。そして、その「スプリンターセル」シリーズの最新作が『スプリンターセル コンヴィクション』だ。

Xbox 360『スプリンターセル コンヴィクション』のパッケージイメージ

「スプリンターセル」シリーズとは?

冒頭で述べたように「スプリンターセル」シリーズもステルスアクションゲームではあるが、「メタルギアソリッド」シリーズが"メタルギア"と呼ばれる巨大機動兵器の謎を機軸にした、クローン人間やサイボーグまでが登場するSF趣向の強い作品なのに対し、「スプリンターセル」シリーズは、やや近未来的描写はあるものの、基本的には現代技術をベースにした世界観で成り立っており、世界の軍事情勢に「もしも」の要素を取り入れたスリラー的切り口の作品になっている。

「スプリンターセル」シリーズは、「TOM CLANCY'S」の冠があることからも分かるように、『レッドオクトーバーを追え』『トータルフィアーズ』に代表されるハリウッド映画の原作者で軍事テクノスリラー作家のトム・クランシーが監修を担当しているのも特徴だ。世界情勢のタブーに独特な空想力で切り込んでいく氏の創作はまさにゲーム向きだといえ、UBISOFTからは氏が監修したタイトルが数多くリリースされている。

シリーズを支える主人公であるサム・フィッシャー(Sam Fisher)は、欧米のゲーム界では屈指の人気キャラクターだ。なにしろ、ゲームの主人公にありがちな若いハンサムガイでも、正義感の強い熱血ガイでもなく、極めて冷静沈着な年齢不詳の中年オヤジときていて、これまでのゲーム世界の主人公像とはかなり違った味わいを持っている。百戦錬磨の伝説のエージェントという点では、「メタルギアソリッド」シリーズのスネークに似ているが、サムはティーンエイジャーの子持ちであるという点で、社会生活に適合しているのがスネークとは違う(離婚しているという点でも平均的なアメリカ人ぽい)。

今作のサム・フィッシャー。祖国に裏切られた今作の彼の怒りは止まらない

サムの魅力はここでは語りきれないが、とにかく身体が柔らかく、声が低く、そして常にクールであるところが、彼のアイデンティティだ。その独特なバリトンボイスから発せられる、極限状況下には場違いなウィットに富んだ毒舌の数々はもはや詩のようであり、その兵器とも呼ぶに相応しい肉体から繰り出されるアクロバティック体術の連携はシルク・ドゥ・ソレイユをも超えた芸術の域に達している。

ただ、そんな彼も、スネークを少しは意識しているようで、これまでの作中で「潜入中にタバコを吸うヤツはダメだ」とさりげない駄目出しをしたこともある。常にクールなサムにも、お茶目でカワイイ部分も少しはあるようだ。

「アメリカン中年忍者」……第三作「カオスセオリー」までは、この形容が相応しい

閉塞空間では股割り状態で静止して、敵の頭上に隠れるサム。中年男の憧れの存在だ (カオスセオリーより)

さて、今作『スプリンターセル コンヴィクション』はシリーズ五作目(※)であり、今作発表時は"5"になぞらえて「CON"V"ICTION」の"V"の文字にアクセントが加えられていたのだが、最終的にはこの装飾は取り下げられたようだ。

今作のロゴ。"V"のアクセントは最終的には取り払われた

※第四作『スプリンターセル 二重スパイ』の後の物語がPSP『SPLINTER CELL: ESSENTIAL』として欧米で発売となっている(日本未発売)が、本稿では据え置き型向けとして『スプリンターセル コンヴィクション』を五作目としている。

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