業界や業務に対する深い専門知識が必要とされるITコンサルタント。自身の専門知識をどのようにすれば幅広く生かすことができるのか。

食品・消費財業界の顧客に対して情報システムをワンストップで提供するNTTデータ ウェーブ。そのルーツとなるJT(日本たばこ産業)の情報システム子会社時代からSAPの導入コンサルティングで活躍し、現在は経営企画部長として自社の中長期経営計画の策定や情報システムに関わる松井憲司氏に、自身の経験に基づくアドバイスをお願いした。

執筆者紹介

松井 憲司(Kenji Matsui)
- NTTデータ ウェーブ 経営企画部 部長 兼 SAPジャパン・ユーザー・グループ(JSUG) 常任理事


1990年にJTの情報子会社であるジェイティソフトサービス(JTSS)に入社。1996年にJTのSAP導入プロジェクトにBASISのリーダーとして参画し、以降SAP関連業務に従事。

2002年6月にJTSSのソフトウェア事業部門が分社型分割しNTTデータ ウェーブが発足。同社にてSAPコンサルタントとして第一線で活躍し、2009年1月に経営企画部に異動。SAP ERPを含む自社の情報システム企画を担当。2000年ごろからJSUG活動に加わり、主にテクニカル系グループで活動。2008年にテクニカル部会部会長就任。また、JSUG運営委員会メンバとしてJSUGの活性化に関する活動を推進。2010年よりJSUG常任理事。

過去のやり方に固執せず、積極的なチャレンジを

SAP: 1996年にJTのSAP導入プロジェクトにシステム基盤構築(BASIS)チームのリーダーとして参画し、以降、SAP関連業務に従事されていたということですが、その経験の中で、プロジェクトを円滑に進めるために必要なスキル、必要な人材というものをどう捉えていますか。

松井氏: 専門に特化している人材というのは比較的豊富にいると思いますが、機能と機能の間を埋める人材、たとえばテクノロジーとアプリケーションの間を埋める人材など、隙間を埋めてくれる人材というのは非常に貴重です。

私が担当したプロジェクトで、ロジスティックスや、SAPのSD(販売管理)に関する高い専門性を持つ人材がいたのですが、彼はシステム管理的な知識や、開発の知識もあったので、ベンチマークテストやシステムチューニングの際、私との間を埋めてくれました。専門の知識を持ちながらも、幅広い知識を持ち、間を埋めることができる。そういうプラスアルファの知識を持っている人材というのは、プロジェクトを進める上ではとてもありがたい存在だと感じます。

それはたとえて言えば、「特定分野に関する深い知識・能力」と「幅広い知識を使いこなす能力」を併せ持ったT字型人材、π型人材です。自分の専門知識は持っている。その上で、たとえばSAPやシステム間の連携についても勉強して、自分の柱の上に、自分のできることを広げていく。そこは重要だと思っていますし、そういう人材がいれば、仕事をお願いする立場からしても大変ありがたいと思います。

SAP: 当時と今を比べて、求められている人材として変わってきているとお感じになっているところはありますか。

松井氏: 技術全般にそうですが、SAPも常に進化を続けています。前のバージョンと比べて新たな機能も加わっています。過去のやり方でやれば無難かもしれませんが、過去に固執せずに、新しい機能が出たら、新しい機能をうまく使いこなしていくということも必要ではないかと思います。古くからのSEは、当時のベストのやり方をそのまま踏襲し、使ってしまいがちです。プロジェクトを確実にこなすという意味では、正しいアプローチなのかもしれませんが、せっかくSAPの機能が進化し、新しくなっているわけですから、過去のものにこだわりすぎるというのはどうでしょうか。

それはSEから見ると、今まで自分が培ってきたものをある程度壊していかなければならないし、否定をしていかなければならないという面もあると思います。また、システムの不安定さへも挑戦していくということになるかもしれません。しかし、チャレンジしていかなければ進化はありません。システムをより良いものにしていくためにも、やはり新しい機能を取り込むなど、チャレンジをしてほしいと思います。

SEとしての成長に不可欠な好奇心と積極性

SAP: 松井様は、今は経営企画部に異動し、SAPR ERPの再構築プロジェクトなど、自社の情報システムの在り方を検討されています。経営の舵取りというお立場で必要だとお感じになっているものはありますか。

松井氏: SEとして会社に入って十数年やってきました。これまではお客様が経営企画部門だったということはありましたが、自分自身が経営企画部門というのはまったく初めての経験になります。そういう意味ではまだ考えも固まっていませんが、さまざまなことを社長から求められています。

たとえば、長期経営計画を検討していますが、3年ですら難しいところを、10年先を考えなさいという話になる。10年後なんて、自分自身ですらどうなっているかはっきりはわからないですし、業界がどうなっているかなんて想像の域を脱しません。しかし、経営企画としては常に先を読んでいかなければなりません。少し目線を高くし相場観をつかんでいこうと取り組んではいるのですが、そう簡単にできる話ではないので、苦労しています。

SAP: 反対に、松井様を追いかけて近づきたい、松井様のようなポジションに就きたいと思っている方に、何かアドバイスすることはありますか。

松井氏: SEについて言えば、新しいことに興味を持つということが大事だと思います。また、先ほど話したように、T字型人材、π型人材として自分の幅を広げるということも大切です。その時間は回り道になってしまうかもしれませんが、好奇心を持っていろいろなものを試してみることが後で生きてきます。

たとえば、自分の専門でなくても、ほかのモジュールや業務の勉強をしてみるとか、新しいものが出てきたら試してみる。そういったことで、自分の幅が広がり、新しい機能や技術についていくことができると思うのです。新しい機能が出てきたら、ボタンを押してみる。動かしてみる。そんなちょっとした勇気が、SEとしての自分自身の成長につながるのです。

うちの子供が3、4歳くらいの時に、パソコンに向かい、勝手にマウスを使って自分でゲームをやりだしたことがありました。子供がすごいなと思うのは、やりたいという気持ちがあるから一生懸命やります。そして、壊れるという概念がないから、とにかくやってみようということで、いろいろなことを試します。そうやって、知らない間に覚え、あっという間にできるようになるのです。同じ時期に実家でもパソコンを買ったのですが、触ってみて、何か分からないとすぐに電話がかかってきます。たとえば、もう一度クリックすればいいことでもそれができない。すごくおっかなびっくりですから、なかなか覚えない。その差は大きいですね。

SEも同じで、興味を示して冒険してみるという姿勢が大切だと思うのです。本当に壊されたら困りますけど、技術者ならどこまでやったらいいのか大体は分かっていると思いますので。(笑)

SAP: 子供みたいに冒険できないと伸びない。

松井氏: 技術面は特にそうですが、そういう人のほうが伸びていく可能性があります。昔は情報も限られていましたが、今は自分でやってみようと思ったらいくらでもネタは転がっています。評価版をダウンロードして、パソコンにインストールして自分で試したりすることもできます。ネット上のデモ環境も整っています。自分でいじり倒せる素材がいくらでも転がっているのです。最近は仕事に追われてあまり時間を取れなくなっているのかもしれませんが、できるだけ自分で興味を広げ、積極的に試してほしいと思います。