日本NCR 代表取締役社長 三ッ森隆司氏

日本NCRは今年2月に創業90周年を迎えた。1884年に設立した米NCRの日本法人として、1920年に日本金銭登録機を設立。その後、日本ナショナル金銭登録機への社名変更を経て、1973年には日本NCRに社名を変更。グローバルに展開する外資系IT企業としては、最も長い歴史を誇る日本法人だともいえる。長年に渡る金融/流通向けソリューションでの実績に加え、ここ数年はセルフレジ分野に力を注ぐ一方、ホテル向けセルフチェックイン/チェックアウトシステム、DVD自動レンタル機ソリューションといった新たな分野でも成果をあげている。日本NCRの三ッ森隆司社長に、90周年を迎えた同社のいまと未来について聞いた。

--日本NCRが90周年を迎えた日、社員に向けて何かメッセージを発信しましたか。

2月24日は社員に2つの話をしました。ひとつは、今日は創立90周年を迎えたということです(笑)。しかし、ひとくちに90年といっても、この変化が激しい業界のなかで、90年間に渡りビジネスを続けるというのは大変なこと。それができた理由はどこにあるのか。私は変えなくてはならないところ、変えてはならないところをしっかりと捉えてきたことにその理由があると思っています。

時代の変化にあわせて、変えなくてはいけないことはたくさんある。日本NCRは、以前は「レジ屋」と言われてきたが、いまではPOSや金融システムなどを手掛けるITソリューションの会社へと進化してきたのもその表れのひとつです。一方で、変えてはならないという点では、流通/金融といったコアビジネスにフォーカスし、その上で長年に渡り培ってきた信頼性を、さらに強固なものに進化させてきたことがあげられます。信用して当社の製品を使っていただけること、顧客に対して、誠意を持ち、真面目に取り組むという姿勢には変わりがない。ここに当社が90周年を迎えた理由があると思います。これまでは伝えることが10もあるのに、外には2ぐらいしか発信してこなかった反省がある。IT業界では10を15、20にして発信するところもあり、その点では真面目すぎるところでもある(笑)。10あるのならば、10に近いメッセージを発信しようということを言っています。

--もうひとつのメッセージはなんですか。

2つめは、これからも進化し続け、挑戦を続けていこうということ。日本NCRは、創業以来、「Progress Through Change(変化をして進化していく)」をモットーとしてきました。これまでにも、流通業や金融機関をはじめととして、日本のさまざまな企業に、ビジネスの変革をサポートする製品やソリューションを、グローバルな観点から提供してきました。さらに、新たな領域という点では、ここ数年はセルフレジ分野に力を注ぎ、これが少しずつ成果になってきた。また、ホテル向けセルフチェックイン/チェックアウトシステムや、DVD自動レンタル機ソリューションでも成果があがりはじめている。こうした新たな領域にも積極的に取り組んでいきたい。日本NCRは、日本に根を下ろした会社ですから、当然のことながら米国本社で開発した製品をそのまま持ってくるだけでは意味がない。たとえば、日本のユーザーが求める使い勝手/品質を実現するために、セルフレジのキャッシュリサイクルシステムには、日本の顧客向けに、より信頼性が高い部品を組み込んで提供している。加えて割り箸を置く場所を用意するというのも日本のユーザーにあわせた仕様変更です。またDVD自動レンタル機ソリューションの開発では、日本から開発者を派遣して、日本からの意見を数多く反映した。極論すれば、同ソリューションやホテル向けセルフチェックイン/チェックアウトシステムのソフト部分は、日本法人が開発したといってもいいぐらいの踏み込み方をしている。こうした新たな領域に対しても、日本が積極的に関与し、挑戦していくことができています。日本の役割が、グローバル戦略のなかに入り込むことで、大きな存在感が出てきている。それが日本のユーザーに対してメリットを享受できるというサイクルにつながります。

自動DVDレンタル機ソリューションを見かけることも多くなった。「セルフレジの市場のブレイクはこれから。いまはイノベーションを進め、マーケット自体の拡大を図るとき」(三ッ森社長)

--2007年5月に日本NCRの社長に就任してから、社内改革に積極的に乗り出してきました。その成果はどんな形で表れていますか。

最大の変化はマネジメントが若くなったということでしょうね。私が社長に就任したことで若返ったというこもありますが、主要なポストにも若手を積極的に登用した。かつての日本NCRのイメージは重厚な会社というものでした。これが最近になって、柔軟で、スピードのある会社というように変化してきた。そして、チャレンジすることを評価する文化を作ることにも力を注いだ。かつては、年初に掲げた目標を最後まで完遂することを目標としてきたが、それでは時代の変化に追いつかない。1年間、同じスコープでビジネスをやるのではなく、状況の変化に応じて変えていくことが大切であるという意識改革にも取り組んだ。長年お付き合いのある会社からは、当社が変化することを懸念する声もありましたが、いまではむしろその点を評価していただいています。「日本NCRは変わったね」「まるで違う会社のようだ」と言われることが、私にとって最大の評価だと考えています。

もちろん、単に変わるだけでは駄目で、先に触れたように、残すべきものは残す。それは顧客に対する信頼性という点に尽きると思います。また、変化に対しては社員の間からも、当初は戸惑いもありましたし、それを悪くいうこともあった。やったことがないことに対しては、批判的な意見が出るものです。しかし、それも変わってきた。社員に自信がついてきたからです。

--2010年を「変革の開花へ」と位置づけていますが、この意味はなんですか。

これまでやってきた変革を、成果に結びつける年に入ってきたという意味です。私が社長に就任して最大の変化は、それまで長年に渡って別々の組織となっていた金融と流通の組織を一本化したことでしょう。この3年間は、無茶苦茶なことを言っているなと思った社員も多かったはずです(笑)。しかし、この組織になってから、売上高は右肩上がりで上昇している。社員も自信を持ち、モチベーションもあがっている。成功事例が出て、勝ち癖もついてきた。いま、組織を一本化したことに対して、「間違っていた」とする社員は一人もいません。社員が自信を持ってビジネスができる体制がこの3年で出来上がったと考えています。

これをベースに、より高い成果という形で、もっと開花させたい。また、セルフレジは、一昨年末までの累計導入が約250店舗だったものが、2009年の1年間だけで、ほぼ同数の店舗へ新規に導入できた。セルフレジを導入した店舗では4台から8台、12台と増設するケースが目立っている。しかし、個人的には、ここはもっと広がるだろうという思いがあり、実績との間にギャップがある。今後、日本は少子化の流れにあり、雇用においても課題が生まれることになります。そこに、消費者が主体的に利用する「セルフサービス」は、これからの消費生活のキーワードとなっていくだろうと考えています。すでに米国では、セルフレジの導入が促進されていますが、日本でもそれが促進されるのは明らかです。また、将来的には新興国にも導入が始まっていくでしょう。いま、セルフレジ分野で日本NCRは7割のシェアを持っていますが、このシェアをいつまでも維持できるとは考えていない。市場の拡大に伴って、日本からの参入企業も増えていくからです。しかし、セルフの文化は、NCRによって広がっています。この分野ではNCRの強みが発揮できる。またホテル向けセルフチェックイン/チェックアウトシステムのように、日本が先行しているセルフ分野もあります。ますます大きなビジネスに拡大するのは明らかです。それに向けて体制を強化していきたいと考えています。

--そもそも、なぜ金融、流通の組織を一本化したのですか。

考えてもみてください。銀行ATMは、銀行だけが対象ではなく、いまやコンビニにも広がっている。いや、むしろ流通業界における主要なツールのひとつにATMが位置づけられている。一方で、コールセンターソリューションは金融業界も、流通業界もターゲットとなっていますし、金融ソリューションと流通ソリューションが連動するケースも増えてきた。これが別々のビジネスユニットの体制だと、お互いに情報交換することもなく、それぞれが蓄積したノウハウを生かせず、ビジネスチャンスを逃すことにもつながっていた。金融、流通のそれぞれの分野では強かったが、それが融合したソリューションになると弱いという状況を生み出していたわけです。それを一本化することで、ビジネスチャンスを逃さない体制とし、さらに効率的にビジネスが行える体制としたのです。

--今後、日本NCRはどう進化しますか。

日本に根づいた企業として、またグローバルであるという強みを生かした提案をし続けるという点では変化はありません。海外進出する顧客をしっかりとサポートする体制も確立していきます。また、その一方でセルフレジ、高速イメージスキャナといった新たな領域、ユニークな領域にも積極的に展開していきます。90年という歴史は、単に古いということや、重厚で堅いということではありません。それは、信頼の証であり、その伝統はしっかりと受け継いでいく。そして、柔軟性とスピード感を兼ね備えた企業であることも忘れない。歴史によって培われた信頼の基盤と、全社一丸で行っている「変革の開花」によって、セルフサービスソリューション分野へのさらなる注力と、金融/流通ソリューションを支える強固な基盤作りを推進していきます。

「日本社会に根付いた企業としての立ち位置、そしてグローバルカンパニーの一員としての自覚、どちらも大事です。両方の間でバランスをとれる人材を育てていきたいですね」(三ッ森社長)