Tim Haysom氏

HSPAとスマートフォンによりモバイルブロードバンド時代が幕を開けた。現在、急成長が見込まれているモバイルアプリケーションだが、モバイルプラットフォームの乱立による分断化が市場の成長の障害になるという懸念も出ている。

モバイルのオープン性と標準化に取り組む業界団体Open Mobile Terminal Platform(OMTP)はこれにあたり、「BONDI」というイニシアティブを開始している。OMTPで最高マーケティング責任者を務めるTim Haysom氏にBONDIを中心に話を聞いた。

--BONDIについて教えてください。BONDI開発の背景は?

BONDIでわれわれは、2つの定義を進めています。1つはAPIセット、もう1つはセキュリティレイヤです。

APIセットは、メッセージング、アドレス帳、カレンダー、位置情報、デバイスステイタスなどの携帯電話の機能にアクセスするためのものです。Webの標準を定義しているのはご存知の通りWorld Wide Web Consortium(W3C)ですが、W3CはPC側にフォーカスしており、モバイルを考慮していません。そのため、携帯電話の機能へアクセスするための仕様を各社が独自に作るという状況がうまれています。

OMTPはW3Cに参加しており、BONDIの仕様ドキュメントをW3Cに提出しています。最終的には、BONDIのAPIをW3Cの一部とすることを目指しています。

われわれはここで標準を提供するだけでなく、BONDI内に拡張性をもたせます。これにより、端末が消費者の手に渡った後も最新のAPI定義にover the air(OTA)で更新できます。つまり、将来にわたって投資を保護できます。

2つ目のセキュリティレイヤでは、シンプルさと柔軟性にフォーカスしています。というのも、セキュリティポリシーや規制、フレームワーク、セキュリティに対する考え方は市場やセグメントにより異なるからです。たとえば、(わたしが住む)英国であるオペレータのショップで端末を購入すると、その端末にはオペレータ固有のサービスが入っています。この場合、オペレータがAPIへのアクセスを制限しています。一方、SIMカードと端末が別々で、端末とサービスは連携していない市場もあります。この場合、ユーザーがセキュリティを保守することになります。このように、ある市場向けのセキュリティポリシーが必ずしも他の市場には適しているわけではないので、柔軟性とシンプルさによりさまざまな国やセグメントに対応します。セキュリティAPIもOTAで更新が可能です。

BONDI 1.0は2009年6月に仕様が固まりました。端末メーカーらに実装を呼びかけており、BONDI 1.0を実装した端末は2010年前半に登場する見込みです。LiMo Foundationが「LiMo Release 2」でBONDIサポートを表明しています。

たとえばLGは開発者ネットワークでBONDIをサポートしたSDKを提供しており、開発者はこれを利用して、BONDIをサポートしたWebアプリケーションを開発できます。また、Joint Innovation Lab(JIL)もBONDI APIと連携可能としており、開発者から見ると1つのAPIセットで商用レベルではJIL、土台レベルではBONDIとW3Cをサポートしたアプリケーションが開発できます。

--モバイルプラットフォームの分断化はウィジェットとBONDIで解決できるのでしょうか?

わたしはWebアプリケーションで解決できると考えます。

高速、かつ端末のすべての機能を利用できるアプリケーションを開発する場合、ネイティブアプリケーションが選ばれるでしょう。ですが、実際にユーザーが使っているアプリケーションとなると、大部分がこのレベルを要求しないものです。また、ユーザーもこのレベルを要求していません。ゲームを例にとると、ユーザーは携帯電話のゲームは10分足らずの待ち時間に利用し、高機能なゲームはPS3などの専用ゲーム端末を利用する、と使い分けています。携帯電話では、大規模なメモリや処理能力を要求しないFlashベースのゲームで十分にユーザーのニーズを満たすと思います。

個人的な意見ですが、ユーザーが携帯電話に求めることは、情報の閲覧、アドレス帳やスケジュール、メールのチェックなど、便利な機能に迅速にアクセスすることだと思います。

「Symbian」「Windows Mobile」とさまざまなモバイルOS向けにアプリケーションを開発/提供するとなると、コストがかさみます。Webアプリケーションは一度に多くの端末をターゲットにできます。このようなことから、BONDIは分断化のひとつの解決策となり、大きな変化をもたらすと期待しています。もちろん、すべてを解決できませんが、開発者へのメリットは大きく、Webアプリケーションをモバイルで、という点では重要な標準になると思います。最終的には、ユーザーがさまざまなWebアプリケーションを利用し、選択できるというメリットを生みます。

われわれは次のフェーズとして、SIM(スマートカード)にも注目しています。

--モバイルアプリケーションで注目されているAppleの動向は?

AppleはOMTPのメンバーではありません。ですが、「iPhone」が搭載する「Safari」はW3C標準をサポートしています。BONDI特有のAPI実装についてはわかりませんが、BONDIがW3C仕様となった場合、Appleが実装する可能性は十分にあると予想します。

--次期版ではどのような強化を計画していますか?

ロードマップとしては、セキュリティの強化、ウィジェットとWebアプリケーションの推進が今後の方向性です。モバイル決済でも利用できるレベルを目指します。新しいAPIにより、スマートカードのインターコネクションを強化します。2010年にバージョン1.5の候補版を公開し、正式な仕様は2011年に完成を目指しています。

W3Cでも作業が続いており、われわれはスピーディに標準化作業を行ってW3Cに提案していきます。

--開発者側で何か取り組みはありますか?

現時点では標準化作業が中心ですが、ツールを平行して行う必要も感じています。現時点で、LGやLiMoのSDKではBONDIをサポートしています。また、サードパーティがアプリケーション互換性をテストするソリューションも開発しています。