時間不足の場合はコストが増えることも

新日本有限責任監査法人 パートナー 公認会計士 佐々木斉氏

初めに、新日本有限責任監査法人でパートナー 公認会計士を務める佐々木斉氏が、「IFRS( 国際会計基準) の概要と導入の影響」というテーマで講演を行った。

同氏はIFRSの強制適用のスケジュールとして、「導入時期は2012年を目途に最終決定し、2015年または2016年に強制適用がスタートする」と説明。ここで理解しておきたいのは、IFRSの財務諸表は比較年度の財務諸表とセットである点だ。したがって、IFRSへの移行は報告日の2年前となり、2015年3月期を報告日とするなら、移行日は2013年4月1日となる。

IFRSの強制適用のスケジュール

加えて、2005年からIFRSの適用が義務化されているヨーロッパでの教訓からも、「今からIFRSの移行プロセスを開始して決して早すぎることはない。2012年の決定を待ってから準備に取りかかっては間に合わない恐れがある」と、同氏は指摘した。対応が遅れたために、結果として、追加のコストが生じたケースもあるそうだ。

ヨーロッパでの導入から得られた教訓として、「ビジネス上の主要プロジェクトと同列に扱うこと」、「ITシステムの改修・機能充実」、「スタッフの教育」、「経営陣からプロジェクト初期から関与すること」、「ステークホルダーとのコミュニケーション」などを行うべきという、説明がなされた。

IFRSが会計に与える影響とは?

次に、佐々木氏はIFRS導入が会計に与える影響について話をした。まず、IFRSは原則ベースであるため、ルールベースの日本基準に慣れている国内企業は判断・解釈を求められる場面が増えることが予想され、会社としての判断の文書化(規定・マニュアルの整備)の必要性が高まるという。

「大きな影響が見込まれるのは、売上と固定資産会計」と同氏。日本の実務慣行では出荷基準による売上計上が少なくないが、IFRSでは物品販売における要件すべてが満たされないと出荷基準が認められない可能性がある。この出荷基準については、現在検討中だそうだ。

また固定資産会計は、日本企業の多くは税務上の法廷耐用年数を用いているが、IFRSでは使用見込期間を耐用年数とする。よって、法廷耐用年数と使用見込期間の関係性を整理する必要性が生じる。さらに、IFRSでは耐用年数を毎年見直すため、この点にも注意しなければならない。減価償却も、IFRSでは日本企業の多くは定率法を採用しているが、IFRSは定額法が一般的であり、点検が必要だという。

財務報告の変更以上にコストがかかるIT関連のプロセス変更

IFRSは当然、ビジネスにも大きな影響を与える。まず固定資産については、IFRSベースによる減価償却計算と日本の税法に差異が生じる場合、複数の固定資産台帳が必要となる。加えて、減損の戻入のための償却データや注記のためのデータを保持するために、固定資産台帳に記入すべき情報が増える。こうしたことを踏まえ、「システムでの対応が求められる」と、佐々木氏は指摘する。

また、IFRSの収益認識要件を満たすために、顧客の契約関係を見直し、システムでの対応が必要となる。例えば、IFRSでは製品の引渡し時点、契約時における契約資産・負債を把握することが必要になる可能性があるという。

IT面としては、「会計処理」、「業務プロセス」、「サポートするIT」においてIFRSの影響を受ける。同氏は、「ヨーロッパでは短期間でIFRSに移行するため、次善策としてマニュアル入力や"トップサイド"での修正処理を取り入れた。だがこれらの方法は非効率なため、現在は業務プロセスの再設計やシステム補強が行われている」と説明した。つまり、その場しのぎの策を打って困ることのないよう、事前に業務システムに機能を組み込んでおいたほうがよいというわけだ。

なお、業種によって変動はあるが、ITとサポート業務プロセスの変更は、コンバージョンコストの約50%を占めるという。

コンバージェンス、アドプション、強制適用の3段階で対応

クレオ ZeeM IFRS対応推進室 室長 浜野剛昭氏

クレオのZeeM IFRS対応推進室 室長を務める浜野剛昭氏からは、同社の会計ソフト「ZeeM 会計」シリーズにおけるIFRS対応の計画と機能について説明がなされた。前述したように、会計ソフトを利用している場合、IFRSの移行計画に会計ソフトにおける対応も視野に入れておく必要がある。

ZeeM 会計は、企業で利用されている業務システムのうち、「固定資産管理システム」と「単体会計システム」をカバーしている。同社ではIFRSへの対応を、コンバージェンス(収斂)対応、アドプション(全面採用)対応、IFRS強制適用に向けた機能強化の3段階に分けて実施していく。

ZeeM 会計のカバー範囲とIFRS対応の内容

コンバージェンス対応としては、「除去債務の計上・増加計上・減価償却」、「有形固定資産の除去履行」、「除去債務の財務諸表の開示」に対応する予定だ。

アドプション対応の最も大きな特徴は、複数帳簿への対応である。佐々木氏もIFRSの対応にあたっては複数の帳簿を作成する必要が生じる可能性があると述べていたが、同製品では「複数帳簿管理」、「IFRSベースの帳簿管理」、「ローカルベースの帳簿管理」の3方式への対応が予定されている。

浜野氏は「管理は日本基準をベースに行い、税務申告は組換仕分けを行ってIFRS対応とするのが、顧客に最も負担が少ない」と説明した。強制適用に向けた機能強化は、2012年1月以降、顧客の要望を取り入れた形で行っていくという。