正確さとは「わかりやすく」「100%」伝えること

小木氏は本セッションにおいて、「伝えたいモノ、伝えたいヒトが存在する以上、帳票開発においてもデザインのエッセンスは応用できる」として、配置(レイアウト)・色・文字の話を中心に、正確に情報を伝えるための手法の解説を行った。小木氏によると、そのためのデザインの基本原則は以下の4つだそうだ。

コントラスト

メリハリをつける(伝えたいものとそうでないものの差をつける)

反復

繰り返し行う(見出し、書体、文字の大きさなど、情報に序列を作って一体感を生み出す)

整列

きっちり並べる(グリッドシステムなどの手法を使い、見出しなどのアイテムや図版などのビジュアル要素を見やすく配置する)

近接

要素の関係性を意識する(グループ化がこれに該当する)

『+DESIGNING 』編集長 小木昌樹氏

「グリッドシステム」は誌面を升目(グリッド)で埋め、グリッドの単位に沿ってパーツを置いていくデザインの方法のこと。これを使うと、オブジェクトのサイズを2倍→4倍……といったルールで規則的にオブジェクトを配置することが容易になり、結果的に非常に見やすいデザインが出来上がるという。小木氏は実際の商業誌のサンプルをもとに、できるだけ専門用語を排除しながらこのグリッドシステムによるレイアウト手法の説明を行った。

「デザインの目的はわかりやすく、そして100%正しく情報を伝えること」と語る小木氏だが、このグリッドシステムはそれを実現する重要な要素である。国内の帳票の世界では、正にExcelがこのような形で使われていることが少なくないが、その意図を理解するのにデザインの考え方は有用なはずだ。

「配置」「色」「文字」のルール

続いて小木氏は、配置、色、文字に関する基本的なルールを説明した。配置のルールに関しては、縦組みの誌面の例を使い、「三角形の構図」と呼ばれる安定した誌面を作るコツを紹介。これによって読みやすさが実現されているわけだが、プロの世界で当たり前のように行われているこのような考え方は、帳票に限らずドキュメント作成に携わる者にとって参考にすべき点は少なくないだろう。

また、色のルールに関しては「カラーホイール」と呼ばれるドーナツ型の補色関係を示すチャートを紹介。プロのデザイナーは、対角線上の2色を混ぜ合わせる補色に加え、等しい距離にある3つの色を組み合わせる「トライアド」といったテクニックを使うことで、「伝えたいモノ」「伝えたいヒト」に適した色を作り出しているという。

文字については、小木氏でも「和文書体だけでもいくつあるのか把握できない」と言うほど、PC上で使える書体が多数存在するとのことだが、基本的には「明朝体、ゴシック体、筆書体」の3つを、見出しや本文といった役割や、高齢者や子どもといった対象に合わせて組み替えればいいという。

デザインの世界にも「ユニバーサルデザイン」の流れ

本セッションの最後に小木氏は、今のデザイン界における大きなトピックスの1つとして「ユニバーサルデザイン(UD)」の流れを紹介してくれた。

文化や言語、国といった障壁を越えるこの概念は、「工業デザインの世界ではすでに前提条件となっている」(小木氏)とのことだが、これの流れが今、グラフィックデザインの世界にも届いているそうだ。すでにUDing CFUD」「UDingシミュレータ(いずれも東洋インキ製造株式会社)といった無償ツールも提供されており、色覚障がいを意識したデザインが求められる場合に活用できるとのことだ。

グラフィックデザインの世界におけるUDの概念は色と文字に適用されており、いずれもすでにマーケットで使われ始めているそうだ。「今後は官公庁の入札案件などでUDフォントの使用が義務付けられるようになるのではないか」という小木氏の見通しを踏まえると、現時点で調査を進めておいても損はないだろう。

小木氏は最後に、「デザインには様々なことに共通する要素がたくさんあるため、今日の内容を帳票開発だけではなく、企画書などビジネス文書の作成時にも応用してほしい」というメッセージを伝えてセッションを終えた。