11月11~13日の日程で開催されたマーケティング関連ソリューションの専門展示会「デジタルマーケティングNEXT 2009」では、インターネットやモバイル向けのリサーチ、マーケティング、プロモーション等のツールおよびサービスを展開する企業が出展。それに関連する各種セミナーも開催された。このうち、12日に開催された特別セミナー「ユーザーの声を活かした『食』のマーケティングについて」では、ぐるなび 取締役マーケティング部門長 福島常浩氏と、クックパッド 執行役広告事業部長 森下満成氏が、それぞれのサイトにおけるクチコミの特性や活用事例について語った。

ぐるなび 取締役マーケティング部門長 福島常浩氏

クックパッド 執行役広告事業部長 森下満成氏

多方向からクチコミ活用を考える「ぐるなび」

飲食店の情報を掲載する「ぐるなび」は、母体となる会社の創業が1989年。2000年から「ぐるなび」として営業を開始し、現在の月間PVは約8億5,000万、UUは約1,800万に達している。ユーザーには課金せず、同サイトに情報を載せる加盟飲食店から掲載料と販促パック等のオプションプランで収益を得るというモデルで運営されている。

掲載店舗数とアクセス推移

ぐるなびの収益モデル

同サイトにおけるクチコミには3種類ある。ひとつは、店舗情報のページにユーザーが書き込む「ファンの声」。クチコミの中にはネガティブな書き込みもあるが、これについて「重要なのは、これに対する店舗側の対応」(福島氏)だという。福島はユーザーからのクレームに対して店長が謝罪し改善を行う旨を返信した事例を示し、クレームが書き込まれても店舗側の返信によって見る人の印象が変わると述べた。

店舗側の返信機能を活用し「やりとりは活発に行って欲しいと思っている」

次に挙げたのは、店頭での携帯電話向けクーポン配信サービス「ぐるなびタッチ」に導入されたアンケートシステムの回答だ。クチコミ情報においてはその信憑性の担保が課題となるが、このアンケートは店頭で配布されるという仕組み上、確実に来店した人だけが書いていることが保証される。現在この情報は外部に公開されていないが、今後はこれが信頼できる情報収集手段につながる可能性があることを示した。

当初はあまり期待していなかったが、意外に回答があるという

最後の「ぐるなび こちら秘書室」は、企業の秘書のみを対象にしたサイト内コミュニティだ。ここは「会員同士の活発なやりとりで情報が増殖し、うまく回っている」(同)事例。例えば、来客用の手土産に困っている人が多いことから作った情報ページに多数の投稿が寄せられたり、Q&Aでは体験を活かした質の高い情報が集まるなどの事例が見られる。

大企業の役員が使う店の8割は秘書が決めているというデータから立ち上げた

クチコミがサイトを活性化する「クックパッド」

約60万にものぼる料理レシピを掲載する「クックパッド」は、UU数約770万。ユーザーは女性が中心で、特に30代の女性では約1/3がユーザーとなっている。活用度が高いことも特徴で、全体の9割以上が同サイトのレシピを参考に食材を購入したことがあると回答している。またモバイル版もPV数でPC版を抜く勢いで利用が拡大中。こちらは20代がボリュームゾーンとなっている。

食卓への影響力の大きさをデータが示している

クックパッドにおけるクチコミは、レシピを見て実際に調理した人が感想を書き込む「つくレポ」という投稿だ。これは「写真+32文字」という非常にミニマムなフォーマットだ。つくレポが寄せられることで、自分のレシピに反応があること、誰かの役に立っているとわかることが、レシピ投稿者の喜びとなる。クチコミが同サイトのさらなる活用を促すエネルギーになっていると言えるだろう。

32文字に圧縮することで余計な情報をそぎ落とし「本当の意味での感謝が伝わる」(森下氏)

そのことは、同サイトを広告媒体として見たときに特徴的だ。単にスペックをアピールするだけのバナー広告では、ユーザーは動かない。例えば流通(小売店)では、旬の食材を利用した人気レシピに作者の思いや作った人の感想を添えて店頭配布することで、その食材の売り上げが向上したという事例がある。商品が"あるよ"と見せるだけでなく、"どう食べればいいのか"という疑問に応えることが効果につながると森下氏は分析する。

スペックよりもベネフィットを提供することで商品理解を促進した事例

新しい調理アイデアがユーザーの気付き・需要の底上げにつながった事例

いずれのサイトにも共通するのは、実際の体験や楽しんだという感動がクチコミを動かしているという点だ。クチコミマーケティングにおいて、今後の企業に必要な視点はどのようなものだろうか。福島氏はこれについて、「信憑性の維持と情報量」を重視しつつ、「店舗と利用者の双方向性」で一方的な情報に偏らないこと、さらに体験を共有するための「セグメント別コミュニティの親交」がポイントになるとまとめた。

また森下氏は、ただ広告として何かを伝えるだけでなく、クチコミを巻き込んで一緒に生み出していく感覚が必要だとし、「昔から言われる"ユーザーの声を聞こう"という考えとはまた異なり、企業のブランドで作ったアトラクションで、来てくれた人と何を生み出せるか」が問われているとした。