会場は都立中央図書館の4階企画展示室。ガラスケース内の展示品も展示期間外なら同館にて誰でも閲覧が可能だ

東京・広尾にある都立中央図書館では、9月8日~10月19日までの日程で「文字・活字文化の日」記念の企画展示「文字は文明の乗り物 - 時空を超えて情報を伝える」を開催している。第1期となる9月8日~17日までは、「1.文字の起源-古代文明と文字」「2.多様な言語、多彩な文字」の2つのテーマで、様々な古代文字や文字の研究に関する資料が展示されていた。

文字の起源 -古代文明と文字

ここでは古代シュメールの楔形文字、エジプトのヒエログリフ、中国の甲骨文字など、古代文字の研究書や解説書、またこれらの文字で書かれた文書を収録した本などが紹介されていた。

記録・伝達という目的に対して人間が開発してきた様々な創造性を見ることができる

「大英博物館所蔵の新シュメール時代行政文書」一つの形状を縦・横・斜めに組み合わせることで表記されている。象形文字とは全く違う、アルゴリズム的な感覚が伺える

表意文字・表音文字の両方が存在するというヒエログリフ。事典や入門書、絵本なども出版されている。ハゲワシ・人の手足・さざ波など、モチーフのデフォルメや記号化のセンスも面白い

「ナポレオンエジプト誌」ナポレオンのエジプト遠征時に組織された学術調査団による古代遺跡や地理などの記録本

この写真は同館でも最大級の大きさの「ドイツ選帝侯世界地図」。左の「エジプト誌」の大型図版はこれよりもさらにひと回り大きい

ヒエログリフ(神聖文字)とデモティック(民衆文字)、古代ギリシア語の3つの言語が記されたロゼッタストーン。ほぼ原寸大のコピーで実際に書かれた文字の大きさがわかる

多様な言語、多彩な文字

世界各所で発展した様々な文字を研究する本が集められている。文字の歴史を体系的に見ることでまた違った発見ができるかもしれない。文字の本だけに、装丁や文字組などブックデザインにも凝ったものが見受けられる。

文字の歴史全般のほか、西夏文字やマヤ文字など未だ解読中の文字の研究書も。ルーン文字のように占いやファンタジーの世界で生きている文字もある

田中一光氏構成による「人間と文字」。日本における文字デザインの大御所がどのように文字の歴史を見たのかも興味深い

現在使われている様々な文字に関する本を集めたコーナー。日本語やアルファベットにはない曲線や装飾的な美しさなど、個性的な特徴が見られる

現在でも雲南省の納西(ナシ)族の司祭に受け継がれているという象形文字のトンパ文字。マンガのようにも見える

第2期のリストから先行で展示された貴重本

今回は第2期・第3期のブックリストからも一部の貴重な大型本が展示された。すべて複製本だが、紙質などはオリジナルにできるだけ忠実に作られたものだという。

「驚異の書:マルコ・ポーロ東方見聞録 フランス国立図書館蔵Fr.2810」フランス語写本の複製。ジパングについて記述されたページの挿絵は中尊寺の金色堂を表すとされている。

「聖母マリア讃詞集」1453年の東ローマ帝国滅亡を生き残った数少ないビザンチン写本。現在はバチカンが所蔵しており、「二度と複製しない」ことを条件に複製された本がこちら。精緻な書き込みや鮮やかな色彩が目を引く

「I manoscritti dell′Institut de France (パリ手稿)」ダヴィンチが書き溜めた12冊の"ノート"の複製。鏡文字で書かれたメモを見ることができる。百科事典型のケースに収納され、内容を活字に起こした冊子も付属している

「Biblia sacra. (グーテンベルク聖書);[Vol.] 1.-2」活版印刷を発明したグーテンベルクの聖書。非常に大きくて重い。文字以外は手彩色で、各章のはじめには華やかな絵柄が描かれている

第1期の展示は、世界中で様々な形で発展してきた文字の歴史に触れることのできる内容となっていた。ふだん無意識になりがちな文字の成り立ちや変化、またそれを背景とした形状そのものについても、改めて観察しなおす機会となるだろう。

今後の第2期・第3期では、美術やデザインとしての文字、印刷技術がもたらした知識の革命など、現代に至る文字の発展を見ることのできる資料が展示される。