「前々から悪役をやりたいと思っていた」――そう語るのは、近頃とみにドラマや映画で存在感を増している玉木宏だ。映画で念願が叶い、初めてダークヒーローを演じることになった彼に、その理由や撮影時のエピソード、また20代最後の年となった今の気持ちまで、余すところなく話を聞いた。
原作は手塚治虫が'70年代後半に発表した同名コミック。『鉄腕アトム』などに代表される他の手塚作品とは異なり、政治、戦争、同性愛などを扱った大人向けの衝撃的な内容である。しかし、オファーがあって原作を読んだ玉木に、戸惑いは全くなかったそうだ。
『MW-ムウ-』STORY
結城(玉木宏)はエリート銀行員。上司からの信頼も厚いが、じつは過去の惨劇への復讐に燃える冷徹な悪の化身であった。その惨劇とは16年前、ある島の住民が一夜にして全員死亡した事件。奇妙なことに事実は一度も公にされることはなく、完全に闇に葬り去られていた。しかし、奇跡的に生き残った少年たちがいた。それが結城と賀来(山田孝之)だった。賀来は聖職につき、自らの受難を克服しようとしていたが、結城の犯罪に手を貸すことを断れず、彼を止めることもできないでいた
――まず、悪役をやりたかった理由をお聞かせ下さい
玉木宏(以下:玉木)「僕は役者として、今までのイメージを壊すということを繰り返しやっていきたいと思っているからです。そういう意味で最適な役でした。悪事というのは日常生活の中でなかなか経験できないこと。役者の力が問われるというか、イメージ力が必要な役なのでやりたいと思っていました」
――ダークヒーローに挑戦してみて、意外だったことは何ですか
玉木「演じていると悪役ではないんですね。僕の演じる結城美智雄という人間にとっては、自分のやっていることは"正義"でしかない。悪の印象というのは全然ありませんでした。もし法律がなかったらどうするか。大切な人が奪われたときに、自分だったらどうするか……そういうことを考えました。結城にとって怖いものは何もなかったんですね。"何が善で、何が悪か"ということがこの作品のテーマだと思います」
――大がかりなアクションシーンも見どころの1つですね
玉木「タイでの撮影は1カ月くらいでした。僕はそんなに大変じゃないんですけど、カーアクションをやった石橋凌さん(※結城を追う沢木刑事役)とか相当大変だっただろうな(笑)。
ちょうど去年の5月頃、千葉の貯水池で潜る場面を撮影しました。その頃は役作りのために減らした体重をキープしようと思っていて、体脂肪が4%くらいになっていました。
水泳は得意なので絶対大丈夫だという自信があったんですが、服を着てそのまま湖に入ったこともあり、全然体が動かなくて初めて溺れそうになりました。体脂肪が減りすぎると体が浮かなくなるということを実感しましたね。あと水温が低くて死ぬかと思いました」
――共演の山田孝之さんが、作品の見どころを『玉木さん扮するダークヒーローのかっこよさでしょう、きれいです』と答えていますが、それを聞いていかがですか
玉木「フフ(笑顔になって)、たぶん、投げやりに答えたんでしょう(笑)。結城という人物にみんなが振り回されて、まわりの皆さんはフラストレーションがたまる役だったんだろうなと思います(笑)」
――'09年は『真夏のオリオン』、『MW-ムウ-』、『のだめカンタービレ』と主演映画の公開が本当に多いですね。特別な1年だという思いはありますか
玉木「それはありますね。20代は早く通り過ぎたいなと思ってはいますが、それは逆に言えば、20代のうちにいかにいろんなものに触れられるか、ってこと。これだけ出演作の公開数が多いのも僕自身初めてですし、3つとも全然違うタイプの作品。そういう意味で30(歳)に入る前の1年間に、この3作品に出会えて、毎回違ったイメージを提供できるのは意義深いと思いますね」
――今後やってみたい役は何ですか
玉木「それが明確に見えないんですね。今までとは違う役柄で、台本を読んで自分が何かを感じられれば、突き進んでいくと思いますが……。25から29歳の間って年齢設定としてドンピシャの役がないと思うんですよ。若く見せるか、ちょっと年上に見せるかっていう微妙な歳。だから、早く過ぎたいなと思っています。
20代ってまだ若手だと言われがちなんです。それが30代になるとやっと言われなくなる。それが僕は心地いい空間だと思うんですね。より責任感も沸くだろうし、役の重みも絶対変わってくる。たとえば、研修医的なものだったものがちゃんとした医者になるとか、弁護士の役ができるとか。そこをまたチャレンジしてみたいと思っています」
最初から最後まで自分の仕事への真摯な態度を見せてくれた玉木宏。若さや外見の美しさに頼らず、努力と挑戦を続ける彼には、さらなる飛躍が約束されていることだろう。
7月4日より東京・丸の内ルーブルほか全国ロードショー。
撮影:保坂洋也
【PROFILE】たまき・ひろし
愛知県名古屋市出身 1980年生まれ A型
'98年、ドラマ『せつない』(テレビ朝日系)でデビュー後、'01年公開の映画『(ウォーターボーイズ⇒WATER BOYS)』で注目される。その後着々とキャリアを重ね、'06年に出演した『のだめカンタービレ』で千秋真一役を好演。人気、知名度ともに急上昇する。現在、CM契約数は7社。歌手活動は今年で6年目となり、11月からZeepツアーを開催予定。
その他の出演作はドラマ『氷壁』('06年NHK)、『鹿男あをによし』('08年フジテレビ系)、映画『ただ、君を愛してる』('06年)、『ミッドナイト イーグル』('07年)など。
(C) 2009 MW PRODUCTION COMMITTEE